La campanella 予定通り部活が終わり、戸締りも完了。 今日は部活終了後に3年全員が残って明日の部活紹介やスムーズに見学・入部ができるように打ち合わせをした。明日は体験入部として楽器に触らせてあげる。 できるだけいろんな楽器パートをまわれたほうが良いので、数名ずつ各パートに割り当てられた教室間の移動だったり、何分ずつまわるだとか、事前に打ち合わせをしてパートの教室割りをどうするか決めた。 時間は7時をまわったところだろうか、話はすっかりまとまったのでそろそろ帰ることにした。部活紹介でアンサンブルをする8人は朝練をすることにしたので朝7時集合となった。 久しぶりに3年全員で下校となった。私と後数人は徒歩で帰っているので必然的に他の20人の電車組とは別れて、同じ方向の高見と帰ることとなった。 「なあ、今日体調悪かったんだって?」 私の左隣を歩く高見が心配そうにこっちを見た。 「テニス部たちがしつこかったけど、機嫌悪いだけって言っておいたぞ。大丈夫か?」 「大丈夫・・・なのかわかんない。」 「・・・か?」 高見がそう言い私は頷いた。、とはもう一人の私。気づいたら私の精神はに奪われ勝手な行動をされ、気づいたら私に戻っている。それは瞬きの瞬間だったりいろいろだ。 との会話はできるが、は私のことが嫌いらしく『てめえ!いちいち話しかけんな!』といわれる。それいらい話さない。 私だって嫌いだ。 そのためにコミュニケーションはほぼ0。ただわかるのは、彼女は私の体をのっとろうとしている。実は他にも数名私の中にいたのだが、治療の末一人だけとなった。 「多分、ピアノとヴァイオリン弾いた後、楽譜書いてて完成したとこまでは覚えてるけど。気づいたら朝で、なんか昔のこと思い出して。それで・・・。」 「そっか・・・腕は?」 高見も田垣外も私が病むとすぐにカッターに手を伸ばすことを知っている。 高見の視線は右手にあり「一本だけ」と答えると一本だけ赤い筋が増えたということがわかったのか、そうか、とだけ言った。 「一本で我慢したじゃん、偉いよ。」 彼は私を否定しない。それだけで私は心が軽くなったように感じるのだ。この行為に対して批判的な人のほうが多くて、見せれなくてリストバンドは絶対外せない。現在の環境に対して病む必要は無い。ならばどうしてまだ傷つけるのかといわれると返す言葉に迷う。 死にたいからでしょ?とよく勘違いされるのだけど。 死にたいと思うことは何度もある。実際、オーバードーズを繰り返すたびにこのまま死ねたらなんて思うこともある。 けれど切るのはそれ以上に生きたいから、というのが本音である。 本当は心配なんてかけたくない、甘えてるわけじゃない、必死で生きているんだ。 それでも私なりに、必死に生きる方法が今はこれしかない。笑えるのはこれがあるから。 まだまだ皆みたいに自分を傷つけなくても生きて行く術を知らない。自分を傷つけてしか生きていけない。心からの笑い方を知らない。愛も甘えも知らない。過去を消せない。 今の人間関係に不満があるわけではない。吹奏楽部の人間は仲間だと思っているし、2年は慕ってくれて妹や弟みたい。 3年の皆は唯一気を使わない最高の仲間だとも思っている。立海にきて大正解だとも思うし。 でも、仲間は仲間以外のなにでもなく、家族でもない。 私の過去は音楽的な部分で言うと輝いているが、その他全部真っ黒だ。 愛し方に愛され方、生きる意味、前向きになる方法、満たされ方を知り、過去を受け入れ、が消え、心が満たされ、ご飯が食べれるようになり、笑顔になれたときにはじめて、私の腕の傷は消えていくのだと思う。 いまはまだ、傷つけることが辞めれないとても弱い人間だけど、ずいぶんと遠い道のりだと思うけど、いつか――― 生きていれば、いつか人生を楽しむことができると (・・・信じる。) 高見が家まで送ってくれ、また明日、と言葉を交わし帰宅した。 □□□ 朝6時過ぎに家を出た。6時30分には学校について、充分な練習ができるはず。 でも、昨日すこしピアノにどっぷりはまってしまい、気づけば0時を回っていたので少し寝不足で眠たい。寝ぼけていたのか、昨日飲んだ薬(正しい数)が体内に残っているのか、すこしボーっとしてipodを持ってくるのを忘れた。これで通学の10分間は暇になる。しかも毎朝日課であるピアノを弾く時間さえなかったので起きた気がしない。 学校でピアノを弾く時間を設けようと予定より10分早く家を出たのだが、眠たいものは眠たい。あくびをしながら、家から持ってきた紙パックの野菜ジュースを飲んでいると、「?」と私を呼ぶ声が聞こえた。 こんな時間にココで通学会うって、誰? 不審に思いながらも立ち止まり振り返ると、にっこり笑みを浮かべてる幸村がいて、私は野菜ジュースを咽そうになった。 「おはよう、やっぱりだったね。」 昨日、冷たい態度を取ってしまったまま顔もあわせなかったので、凄く気まずいのに。 幸村は気にするような態度は一切見せない。こうやって笑顔で話しかけてくるし・・・。 「家こっち方面だったんだ。」 「・・・まあ。」 ぶっきらぼうに答えても幸村はクスっと綺麗に笑うだけだ。こいつの心は無敵か。 「なら、これから皆で遊んだときは俺がを送れば丁度いいね。」 島尾さんの家、仁王の家と案外近かったんだ!と、幸村はそういって当たり前のように私の横に並んだので、顔をゆがめて幸村を見た。 なんで横に来る、そしてなんでまた遊ぶことになっているのかは謎。 勘弁して欲しい。 私に構わずさっさと朝練行けば?といおうと思い口をあけた瞬間 「どうせだし一緒に行ってもいいよね?」と言い、有無を言わさないような笑顔をしていたので諦めて野菜ジュースのストローを改めて咥えた。嫌だというのも面倒なやり取りが増えるだけのようなきがしたので、放っておくことにした。 「それよりもこんな早くに珍しいね。」 「朝練。」 「へえ、吹奏楽部にもあるんだ?」 「部活紹介の練習。」 幸村は、わたしが一言返事しかしないのに嫌な顔一つしない。ずっとニコニコしている。 「部活紹介、何か演奏するんだ?」 「うん。」 「本当かい!聞きたかったよ。俺らテニス部は吹奏楽部が発表のときはもう体育館にいないからね、本当に残念だよ。」 部活紹介に関係のない2・3年は教室でHR、出番と出番の一つ前の部だけが部活紹介が行われる体育館に入ることになってるからだ。 「ねえ、幸村」 「なんだい?」 「昨日のこと、気にしてないの?」 一番の疑問はこれだ。普通ならあんな態度取ったらもう関わりたくない、ってなるのに。なんでこいつは私に話しかけてきて笑ってる? もしかしてテニス部って変わり者が多いのだろうか。仁王はまだ付き合いが他と比べて長いにしろこの幸村。 寝たら忘れる的な?もしそうなら、ぜひとも私もそうなりたい。 「昨日のこと?」 「・・・朝の。」 そこまでいうと幸村もさすがにわかったみたいだ。 「気にしてないよ、そんなの。」 「は?」 返ってきた言葉は予想外で、思わず立ち止まってしまった。 なに、俺たちのこと気にしてくれてたの?の微笑みながらそう言った幸村を、私はしかめっ面で見た。 「高見から機嫌が悪いだけって聞いたよ。それにバカだね、って。 俺たちまだ友達になって2〜3日だろ?の性格なんてまだほんの少ししか知らないわけで、あれだけで、なんて奴だ!で関わるの終わらせるようなのは友達って言わないよね?」 「・・・。」 「高見から言われてなくても俺は今日こうやって話しかけてどうしたのか理由を聞くよ。それで俺のことが嫌いならそこで初めてしつこく話しかけるのは辞める。 でも、の態度が冷たいときイコール機嫌が悪い時だって俺は知った。 機嫌の問題だってことを知ったから俺は次からはもう気にしない。そして俺が気にしないことを今に伝えた。 こうやって知ることって友達としてうれしいことだと思わない?こうやってお互いいろんなこと知ってさ、それで仲良くなるんだし。 あ、俺今気づいたよ。多分ね、は気づいてないと思うけど仁王や吹奏楽部の皆だって気にしないでそばにいるのは、がそれ以上に優しいことを知ってるからだよ。」 「・・・私が、優しい?」 よくわからなくて私は首をかしげた。 「うん。俺たちのことそうやって気にしてくれてたってことは、優しい人間の証拠じゃない?本当に性格悪い人間ならもう俺たちのこと放っておくだろうし、人の好き嫌いが激しい仁王はのこと構いに行かないと思うなあ。 機嫌が悪いとか関係なくはもともとがクールな子だから、吹奏楽部の皆もの性格を知らない頃は驚いた子ももしかしたらいるかもしれない。 けどのことを知るうちにソレが案外普通になってくるもんだよ。 冷たいだけの人間なら近寄りがたいけど、皆はの優しさを知ってるから一緒に居たいって思うんじゃないかな?ちゃんと見てくれてるから皆、のこと大好きなんだよ。」 (そんな笑顔で言われても・・・。) ていうか私そこまで頻繁に朝からあんな態度を取るわけじゃないが、どうでもよくなり反論しようとも思えなかった。 私は何もいえなくなり、なんか褒められまくりで恥ずかしくなって幸村をまともに見ることができなくなる。 なんていうか、そこまでこんな朝っぱらから褒めちぎられたら・・・性格のことで褒められるなんてされたことないし、どうしたらいいのかわかんない。 「そんなに褒められたって、全然うれしくないんだから。」 私はそういって顔を背け、幸村を放置して早歩きすると慌てて置いていくなんてひどいなあ、といいながら私に追いつき横に戻ってきた。 「ね、ねえ幸村。」 「なんだい?」 「昨日の朝みたいに機嫌?悪くなると、気を落ち着かせるために楽器触りたくて仕方なくなるの。そのとき限定で周りが見えなくなるっていうか、自分を最優先してしまうっていうか、邪魔する者は容赦しないというか、その、気をつける・・・。」 「ほら、やっぱりって優しいね。」 という幸村に、私は照れくさくって今度こそ無視を決め込んだ。 □□□ 校門を入ってすぐに幸村とは別れてすぐになんとなくトロンボーンの音が遠くから聞こえた。丁度携帯を見ると田垣外からメールが入っており音楽室は既に開いてるとのことで直行。 「おはよ。」 「ちゃん!おはよう!」 私が音楽室に入ると、アップしていた田垣外が手と口をとめて私のところまで来た。 「早いね。」 「うん!早く目が覚めちゃって!」 「だろうと思った。」 田垣外はイベントの日になるとやたらと早く目が覚めてしまう傾向にある。遠足の日の小学生並だ。 朝6時30分の音楽室には田垣外と私しかいなくて、朝ということもあり少し寂しい。夕方とは違いすがすがしい気持ちだ。 とりあえず7時集合ということは吹奏楽部の鉄則15分前行動があるので、45分には集まってくるとして・・・それまで私の人間としてのウォーミングアップでピアノに触ることにした。眠気ざまし。 椅子に座り鍵盤カバーを取って鍵盤に指を置くと、目を輝かせてる田垣外と目が合い、ゆっくり微笑んで話しかけた。 「リクエストは?」 と聞くと田垣外は待っていましたといわんばかりに「朝だから、グリーグの朝!」と答えて私の横に来た。 「ちゃんのピアノすっごい好きなんだ!けどけど、全然学校では弾いてくれないからさ!」と少し興奮気味に言う。普段おっとりしている性格なだけあってよほどうれしいのだとわかった。 「言ってくれたらいつでも弾くよ。」 「本当に?!じゃあこれから毎日部活はじめと部活終わりに一曲ずつ!」 目の輝きを増した田垣外に私は「はいはい」と返事して、鍵盤に指を乗せて自分の世界へと入った。 世界のトップクラスの私のピアノ演奏を生で聴けるのは吹奏楽部員の特権なのかもしれない。 弾き終わると他のアンサンブルメンバーが既に揃ってピアノを囲っていた。一度曲を弾き始めるとそれに夢中になってしまい周りが見えなくなる。 褒め言葉をいただき、時計を見ると40分を過ぎたところだったので私も楽器を出してアップに入ることにした。 そこから調整を終えて、一旦HRに戻った。 部活紹介は2時間かけて行われる。なんせマンモス校だから部活数がとても多いのだ。だからその中でどう印象に残るか各部は入念に作戦を練ってきたはず。 こういうのは一番最後が一番印象に残る。最後の頃になれば最初のほうの部活なんてあまりにも強烈でない限りほとんど記憶に残らない。 吹奏楽部は演奏する以外では特に作戦を立てていない。 何故なら、島尾に順番決めを行かせたのだが、強運の持ち主なのか一番最後を勝ち取ってきたからだ。 休憩時間をはさんで1・2限目は各自自習だ。自習といっても勉強ではなくなんせ新クラスなので自己紹介のプリントだったりロングホームルーム的な感じ。 私たち吹奏楽部は最後のほうだから1限目が終わってすぐに音楽室へ行けばいい。HRが終わると教室から数名が用意に出て行ったようだ。多分一番最初の部だからだろう。 1限目が始まるとクラスの大半が部活紹介の準備に出て行ってしまってるので、なんだか物足りない感じもしたが、既に数名は周りの席の人たちと仲良くなりつつあるのか、先生もいないことなので少し騒がしくてむしろ全員いなくて良かった。 このクラスは部長・キャプテンが結構多いらしいと誰かが言っていたが、知ってる人はわかるけど今年初めて同じクラスになる人の部活まではわからない。今わかる時点でのこのクラスの部長を勤める人は私、幸村、バスケ部の部長。 まぁ部活紹介の生徒とまぎれて何人かはサボりに行ってるんだろうけどね。 (・・・にしても。) プロフィールとか面倒くさいなあ。 名前、誕生日や血液型に一言だけならまだしも、好きな色やタイプ、行きたいデートスポットまで書かないといけないの? ていうかこんなの本当誰が気になるわけよ。 「ちゃん、横座っていい?」 プリントとシャーペンを持って田垣外が隣に来た。私の隣はたしか野球部?で、ちょうど隣の席の人も部活紹介に行っているっぽいので頷いた。 「これ、なんか面倒くさくない?」 「そうかな?私こういうの書くの好きだから全然平気!」 そういって次々と空欄を埋めていく田垣外を見てると自然とため息が出た。とりあえず名前と誕生日や血液型だけ埋めた。 音楽に関係あること意外、全くやる気がおきない。 (好きな食べ物は、野菜ジュース・・・って食べ物になるんだろうか。まいっか。) 一通り書いたところでギブアップ。 「もうダメ。飽きた。」 そういって私を呼び止める田垣外の声は聞こえない振りして、教室を出て音楽室へ向かった。 → アンケート協力お願いします! |