La campanella たしか立海大付属中学校の音楽の授業で使われる第1音楽室に、吹奏楽部が勝ち取った何かのコンクールやコンテストの優勝トロフィーや金賞の賞状が飾られたのは中1の2学期からだ。 たまたま見ていたが賞状に書かれている成績が急に良くなったのが自分が入学してから。 悪い成績では到底もらえないトロフィーなども数個あるがそれも全部2年前からのだと思う。 この量だと、この2年間でコンクール系を全て優勝か、1番良い結果を残しているに違いないだろう。ちなみに部員は写真を見たところ写っているのは50人程度。これが全員って言うわけではないんだろうけど。 だけど、果たして入学前に立海大が吹奏楽部が凄いなんて聞いた事あっただろうか? むしろ言い方は悪いがヘボ吹部と聞いたことがあったくらいだ。 何に出ても最下位しか取れないような、そんな廃部寸前の。言うまでもなく、音楽室に飾られている2年以上前の成績は全て銅賞と書かれていた。トロフィーもひとつもなくきっと参加賞的なかんじだろう。 それに、忘れもしない小6の夏に見た高校野球の地区予選の立海大戦。 あの当時の立海大高等部の吹奏楽部も廃部寸前の少人数で高等部だけでは応援にならないということで中高合同での応援だったらしいがそれはもうひどかったのを覚えている。 15人程度の部員のまとまりない貧弱な演奏。 たぶん一回戦負けした20%くらいの理由は吹奏楽部の演奏に問題があったんじゃないかと思う。 改めて自分がテニスやってて良かったなーと思えた。うん、心から。 新学期のクラス替えが終わり始業式の最後にある、部の表彰式で壇上に呼ばれたのが何か受賞したらしい吹奏楽部だ。 そうだ、マイクから聞こえてきた部の名前で先ほどの記憶の中の俺が知ってるヘボい吹奏楽部を思い出したんだった。でも記憶の中の吹奏楽部と現状とは違っているようだ。 なんしか、春休みに行われた全日本のあんさんぶるこんてすと?に出場したらしく、読み上げられている賞状の内容は金賞。きっと凄くいい結果なのだろう。 ぶっちゃけよくわからないが、凄いことは確かである。 壇上に上ってたのは多分部長だろう。後姿は何度か見たことがあるが、…名前は忘れた。(そしてマンモス校のため2年が多すぎて壇上が良くみえない) もう一度吹奏楽部が2人呼ばれ何事かと思えばソロコンテストの全国大会で1位2位を占めたのだとか。 こうやって受賞するくせに文化祭にも出てこないし、なにより演奏聴いたことないや。どうなってるんだ? あいにく俺は下手な吹奏楽を聞いたことはあるが上手なのを聞いたことがない。クラシックが好きな俺からすれば結構興味があるんだけどな。どれほどの実力があるのか。 …それにしても一体この2年間で何があったんだろう。こんな急激な成長を見せるとは。人数だって凄く増えたように思える。顧問が変わったのだろうか? そしてコーラス部まで何か賞を取ってるもんだ。 この学校ってそんなに音楽系の部活に力を入れていただろうか? そこで、並び方が男女交代順番背の順で隣になったに聞いてみる。女のほうがこういうのは知ってるもんだ。・・・多分。 「ねえ、今更だけど吹奏楽部ってこんなすごかったっけ?」 「・・・は?」 こっちに目線もあわさず彼女が答える。うっわ、喋りにくい。は?って何? 「いや、俺たちが入学の前にへたでヘボ部って呼ばれて廃部寸前って聞いたことがあるんだ。」 「さあ。部員に直接聞いてください。」 そういうと彼女はうつむき、寝る体制に入った。なんなんだ、この女。 よく見ると、方耳にイヤホンがついている。まじでなんなんだ、この女。 始業式が終わるとクラスに戻り、唯一知り合いだった吹奏楽部員に先ほど(印象悪すぎ)にしてみた全く同じ質問をしてみた。 「え?あぁ!うちの部はね、わたし達の1つ上の学年まで全くダメだったんだけど、今の部長が中1のときにレベル上がったんだ!革命起こしたの!」 この小さくてかわいらしい愛想のいい女の子はとは全然違う。なにより例の吹奏楽部の副部長というではないか!さっき壇上に立ってたのもこの子らしい。あ、部長じゃないんだ。 「部長が革命?」 「そうなの!立海大の吹奏楽部が上手くなったのも、全部部長のお陰なんだ!スパルタだけど教え方も演奏もすっごい上手いし部長だけど教えてるのも部長なんだ!コーラス部の指導も高等部の吹奏楽の指導もしてるよ!」 「それはすごいね。三つの部を教えて全国に導くなんて。」 もちろんお世辞じゃない。俺が部長を務めるテニス部よりも人数が多く俺と同じ部長。 部長ってだけでその大変さが身に沁みるというのに他の部の面倒も見ているのだという。そういえばコーラス部も2年前から急に凄い成長を見せた。 よほどの実力者なのだろう、その吹奏楽部の部長というのは。こりゃあ顧問はきっと形だけで全ての主導権を握ってるのはその、部長だな。 「凄いって言葉じゃ表しきれないよ!中1で入部して即部長になって3ヶ月で3つの部のレベルをスッポンから月に変えたんだから!他校にも部長を尊敬する人いっぱい!」 「へえ、是非一度会ってみたいね。」 俺が本心でそういう。そんな素晴らしい才能持った女の子なんて興味があるに決まってる。 きっと音楽の才能に恵まれた素敵な人なんだろう。彼女曰く、指導者として、一人の演奏者として、全てにおいて完璧らしい。 部員は口をそろえて彼女を天才と呼ぶらしい。 彼女・・・田垣外さんは「え?同じクラスだよ?」と笑い、まさかの展開に俺の心臓が高鳴る。 誰だ?どんな人だ?早く知りたい。これは是非部長どうし仲良くしたいなあ。 あ!あそこ!と言いその後ろのほうを指差したので盛大なる期待を抱き、どんな素晴らしい人かと思い振り向けば。 目線の先には数枚の紙を見つめ時に何かを書き込み、指でエイトビートを刻むの姿があった。 「ありえない。」 □□□ 「 3年C組 身長169cm体重44kg・・・かなりの痩型。 中1で吹奏楽部の部長、指導者。同時にコーラス部と 高等部の吹奏楽部の指導もする。顧問は形だけのようだな。 コンクールでの自由曲は全て彼女が作曲、もしくは編曲をしているそうで 弾けない楽器はないという本当の天才型。・・・すごいな。 部活ではトランペットをしているそうだが、ピアノやヴァイオリン オーボエなども得意なようだな。 その優秀さからプロからも一目置かれているらしい。 好きなタイプは黄色くない人。 …音楽家ということだけあって少々変わり者のようだ。」 始業式だけのために午前中に学校は終わり、午後からはもちろん部活がある。 部室で昼食を取ることになっているために早速向かったが、どうやら俺が一番乗りだった。 次に入ってきた柳を見て、すぐさまにのことを聞くとすぐにノートを開き教えてくれた。 「精市が他人…しかも女子のことを聞いてくるなんて珍しいな」と、ノートを閉じてかばんに直す。 「まあね、同じクラスなんだ。」と返事を返し室内を見てみると、もうレギュラー全員揃っていたことに気づき皆揃って昼食を取り始める。 「がどうかしたんか?」 斜め前に座っていた仁王が、先ほどの柳との会話を聞いていたらしく座るなりの話をしてきた。 「ちょっと気になってね。」 「あいつとは去年同じクラスじゃったが、変わりもんで面白い奴じゃよ」 ククっと笑う仁王を見て、まじかよ…としか言葉が出なかった。 「へ、へえ・・・」すこし苦笑を浮かべながら仁王に返事すると「なんじゃ幸村、に惚れたか?」とか言うもんだから思わず玉子焼きを喉に詰まらせて、あわててお茶で流した。俺らしくない。 「おいおい、冗談はやめてくれよ」 今度はあからさまに苦笑した。ここで誤解されては自分の名誉に関わるので、柳にデータを聞いた経緯を説明することにした、 「始業式で吹奏楽部が表彰されただろ?でもこの学校の吹奏楽って俺たちが入るまではでへたくそで廃部寸前だったらしいじゃない。」 「あー、いわれてみれば確かそうだったよな。」 「なのに、まあ直接演奏を聴いたわけじゃないけど第1音楽室に飾ってるトロフィーとか見てると2年前から急成長したようでさ。何かあったのかと思って、隣の席にさんが居て聞いてみたんだよ。あ、そのときはまさかさんが吹奏楽部でしかも部長なんて知らなかったんだ。」 周りはうんうん、とうなづいてくれる。 「じゃあさ、「部員に聞けば?」って言われてしまってね。それで他の子に聞いたら急成長の理由は教えてくれたけど、が部長って聞いて。ちょっと不思議な子だなと思ってさ。」 「うっわ、意味不明じゃん!自分部長なのに知らない振りしたって事だろぃ!?なんかいやな感じだなそいつ。」 丸井はそういってパックのコーヒー牛乳を飲んでパンをかじった。やっぱりパンは甘い菓子パンだ。その隣に座る赤也はいやそうな表情はひとつもしなかった。 「でも俺、1年のとき同じクラスに吹奏楽部の奴が居たんすけど、一回その・・・先輩?がクラスに尋ねて来たんすよ!俺的には結構好みの顔だったすよ!」 赤也、誰も顔のことは聞いてないよ。でも丸井がちょっと興味を示しだしたのか、へぇ!と言っているところから顔は知らないんだろう。そして面食いが丸出しだ。この様子じゃ俺と仁王と柳と赤也くらいかな、知ってるの。なんせマンモス校だしという苗字も何人かは居るだろうしね。1学年数百人居てその中の一人を認識するのは同じクラスにならない限り難しいだろうから。 「顔はともかくさ・・・まあ、それに始業式中ずっと音楽聴いてるもんだからさ。驚いてね。」 「始業式に音楽だと?たるんどる。」 俺の言葉に真田がすぐさま反応し、仁王は笑った。 「相変わらずじゃ。らしいのう。」 仁王はきっとのことを気に入ってるんだろう。下の名前で呼ぶところからしてかなりのお気に入り。 女嫌いなはずなのに珍しいな。俺は気に入るどころか今のところ印象最悪だ。 そんなとき部室のドアがノックされ「どうぞ」と返し、ドアの向こうに居た人を見てびっくりした。さっきまで話題に上がっていたが体操服姿でそこに立っていたのだから。 「部長さん、少しいいかしら。」 「あぁ、どうしたの?」 不覚にも少し動揺してしまったが、冷静に答える。 「ああ、あなたが部長なのね。午後から2時間ほどグラウンドを貸してもらってもいいかな?」 「僕たちは構わないけど他の「他の部活には了承済みよ」・・・そう」 見事俺の言葉をさえぎった。柳が何かうれしそうな顔をしてノートに書き込んでいる。何なんだ。 「は吹奏楽部だと耳にしたが、何故グラウンドが必要なんだ?」 「文句あるのかしら?」 「むっ、そういうわけではないが・・・」 珍しいことに真田が言いくるめられた。 「じゃあ何?文化部だからって部屋に引きこもってるだなんて固定観念は捨てていただけるかしら? 少なくともあなたたちよりは大会や行事が多いから基礎体力以上の体力が必要になってくるの。 まあ大会なんてなくても基礎以上は必要だけどね。なんせ楽器を吹くということがもうスタミナ要るしね。 じゃあ、用件はこれで。」 言うだけ言って出て行った。本当に話しにくいし余計に苦手な人になってしまった。 ここに居た仁王以外がこう思っただろう。何なんだあいつ、と。柳はいまだにデータをノートに写している。 仁王は仁王で笑ってるしさあ。あれが彼女らしいというのならきっと俺は仲良くなれそうもない。 大体あなたたちよりは大会や行事が多いって…嫌味なのかなめられてるのか。 「あの様子じゃあいつ、さっきまでの俺達の話聞こえちょったようじゃな。特に真田のたるんどるが。」 「まじかよぃ・・・俺ら結構ボリューム低く、しかもここ部室内だぜぃ?地獄耳かよ。」 「伊達に音楽の指導者はしておらん。あいつの耳は凄いぜよ。」 「先輩、凄いッすね!」 それでもなお憧れてるのは赤也、お前だけだ。 間違いなく仁王と赤也と柳・・・もかな、それ以外のここにいるメンバーは彼女に対し苦手意識を抱いただろう。 「俺は苦手だな。」とつぶやく丸井が一般論だろう。 そんなとき急に部室のドアが開いたと思えば、腕を組みニヤリと笑ったが居た。 「言い忘れてたけど、あたしの事話すときはまず30mは離れたほうがいいわよ。にぎやかなところでも一緒。 空港であろうがコンサート会場であろうがあたしはどんな騒音に混じってもひとつの音を聞分けれるから。 なんしか誰かさんの言うとおり地獄耳なんでね。ま、嘘だと思うなら練習見学来て見ればいい。 あと一度聞いたものと見たものは忘れない特殊な脳をしてるからね。あたしの反感買うと怖いわよ、言動には気をつけてほしい。 じゃあ今度こそ失礼するわ。」 あぁもぅ本当関わりたくない気がする。 → |