昨晩は全然寝れなかった。幸村君のほうはもう見ない、もう諦める。 だけど脳裏に浮かんでくるんだもん。 どうすればいいの? とりあえず徹底的に幸村家の人に会わずにすごしていた。 時間ももうお昼を過ぎてあと1時間程度で終了だ。 最初は合宿と言っても25にもなったんだから旅行のようなものでしょ?と思っていたが、完全に合宿だった。 他の奥さん達はとてもいい人で結構打ち明け、連絡先も交換してしまった。 日本人の友達が増えてすごく嬉い!しかも気があいそうだ。 最後の仕事として、あちこちの掃除をしていた。 もう何も考えたくない一心で動き回っているが、体力だけがとりえなので全然しんどくならないのに心はとてもしんどい。 とりあえず働いて働いて、何も考えれなくなればいいんだ。考える時間なんて要らない。 この合宿が終わったら死に物狂いで毎日働こう。ご褒美にちょっと良い車買って、親友にも会いに行って美味しいもの食べよう。 ほら、がんばれ、あたし。 タオルを持って走っていると曲がり角で人とぶつかってしまった。 勢いよすぎてしりもちをついてしまう。 「sorry,じゃなくってごめんなさ、oh・・・。」 「こちらこそ、申し訳、な・・・い。」 また英語で言ってしまった。これで何回目? 早く日本語になれないといけない。と普通は反省しなければいけないのだが、顔を見た瞬間そんなこと考える余裕もなくなった。 向こうだって同じようだ。 あたしの顔を見て固まった。 向こうは・・・幸村君はとっさにあたしに手を差し出して、あたしも誰か見ずに手をとろうとしていたが、あたしは手をすかさず引っ込めて自力で立ち上がった。 何もなかったかのように通り過ぎようとしたら「待って!」と腕をつかまれた。 「何かな?」 あたしは単純だ。話しかけられただけでこんなに嬉しくなるなんて。もう25歳なんだよ、こんなんで喜ばないでよ。 できるだけ自然に微笑んだ。 「あの、その」 気まずくする幸村君に、そこまで弁解とか言い訳とかしようとしてくれなくて良い。 だってあたしすっごい惨めじゃない。 「何が言いたいかちょっとわからないけど結婚おめでとう、子供も二人に似て可愛いね、お似合いじゃない。 お幸せにね!」 できる限りの笑顔であたしはそう言って、何も言えずにあたしを見ていた幸村君の手を振り払ってタオルを直しに行こうとして、一歩進んだところで足を止めた。 あんなにも近かったのに、どうしてもっと近寄れないの。 何で前みたいに好きだという気持ちを伝えることができないの? 10年の間に、伝えたいことがあんなにもあったのに、1日なんかじゃ言いきれないほどあったのに。 なんで口からは言葉と真逆の言葉しか出てこないの! 一度振り返って幸村君のほうを見ると、彼もこちらを見ていてしっかりと目が合った。 やっぱり、諦めるなんて簡単にはできそうになんかない! 好きで、好きで仕方ない、どうして、こんなにすきなの?わかんない・・・。 会いたかった、ずっと会いたかった! 寂しかった、好き、大好き、愛してる、 一瞬でこんなに言葉が出てくるのに、飲み込まなきゃいけない。 嘘や偽りの感情を吐くために口を開く。 「10年前の約束のこと、もうとっくに忘れてるよね? あ、いや未練とかそんなんじゃないの。 もし覚えてたらなんだけど、あれはもう無しね。 ほら、所詮中学生のときだし。 いや、なんか縛り付けてるみたいで嫌じゃん、約束しっぱなしは! じゃあ、さよなら!」 幸村くんがもし、あたしに対しての情けが少しでも残ってたら嫌だった。 あたしに関してはもう全力で気にしないでほしくて、あたしのことなんてきれいさっぱり忘れてほしかった。 あたしは全然平気だと伝わった? これで、よかった? ちゃんと約束吹っ切れてくれたかな? ああ、あれは気にしなくてよかったんだって思ってくれたかな? これで不安要素消えた? 今度こそあたしは幸村君の前から去った。 本当の本当にさようなら。 これで本当にもう終わりだよ。 次こそあたしは振り返らない。 next |