顔を誰にも見られたく無い一心で下を向いて走っていると、誰かにぶつかった。
?」

「sorry、」
ちがった、ごめんなさい、と日本語で言い直す余裕もなかった。
そういって先に進もうとしたが、腕をぐっと引っ張られてよろめいてしまう。
この前の街で跡部と会ったときと全く同じパターンだとは一瞬思ったが、顔を上げたら跡部じゃなくて柳で、その横にはまたまた真田だった。
今のにはそっちのほうがなんだか安心できた。


「こっちに来い。」

そう言い柳に引っ張られて、もう放心状態のは半分引きずられて、真田は後ろから支えてやっていた。
そんなことにお構いもせず柳は誰かに電話をかける。



着いた先は二人の部屋。この二人はまだ独身で、昔と同じ部屋割りになっているらしく同じ部屋らしい。
部屋に入ったとたん、はしゃがみこんだ。

「おい、大丈夫かよぃ!」
どうやらもともと部屋にいたのか、駆け寄ってきた3人組。丸井、切原、ジャッカルは朝、と会ったときにこの事態を予想して柳に相談していたので、先ほどを引きずっているときにあらかじめ3人を呼んでおいた。
慰め係は多いほうがいい。


皆黙っていると次第に嗚咽が聞こえてきた。



あぁ、見てしまったのか、知ってしまったのか。

二人だけでなくて丸井達もこうなる予感はしていたのだ。
嬉しそうに幸村に会いに行くが、幸村の結婚や子供まで居るということを知ってしまい、このようになることは100%わかっていた。
だけど、これは逃げれない現実。日本に戻ってきた限りいつか必ずは知ってしまう。

なら自分達も居る、慰めることのできるこの場で知ってしまったほうが、幾分かがまだ楽になれる気がしてあえて止めなかった、彼らなりの優しさだった。

、」

慰めるように名前を呼んでみるが嗚咽はひどくなるばかり。

「なんで、なんでなんで!なんで精市は結婚してるの、待ってくれるって言ってたのに、どうして!
あたしのことなんてただの過去の一部なの?ずっと好きなのに、なんであの約束だって、なんで忘れてるの?日本になんて戻ってこなければ良かった!さいあく、さいあくさいあく!」

3日前までアメリカに居たせいか、まだ日本語より英語のほうが慣れているために全て英語で気持ちを吐き出したため、全て理解できたのは柳くらいだったが、わからなくたってだいたい理解できた。


「おい聞け、.お前は日本に何をしに戻ってきた、精市とよりを戻すためか、この合宿も恋愛するためか?俺達は久しぶりに再会し、全力でテニスを楽しみたい。そこでお前がうじうじしてたら俺らもやりにくい。もしこのままのようだったら今すぐ帰れ。」

「お、おい柳!」

きつい言葉に思わずジャッカルがとめるが、そのジャッカルをが制した。

「だ、だいじょ、ぶ」
といいつつも、表情は辛そうで、涙を無理やり止めたみたいだし、ひっくひっくとなっている。


「幸村が結婚したのは2年前だ。大学卒業し、就職してすぐだった。
彼女のほうは、が渡米したあと高校の外部生として立海に入学し、同じクラスになったのだ。彼女は幸村にお前という想い人がいることを知っていたが、思いを寄せた。そしてお前が居なくて元気のなかった幸村を元気付けたり慕う気持ちを打ち明けたりとしているうちに幸村は健気な彼女に気持ちが傾いていったのだろう。俺は幸村を止められなかった。すまぬ。」


「俺らだって反対したんだよぃ、」と丸井も続く。

「幸村君にはがいるだろって、が戻ってきたとき幸村君が待ってないで誰が待ってるんだって、俺ら説得したのに、」

だめだったんだ、と丸井は目を伏せた。

「せめて、結婚してなかったらどうにかなったんスけどねえ。」
切原が言うとジャッカルが「赤也、余計な事を言うな」と言う。

「何かあれば俺達も聞くから、大丈夫だ、。」
そういう柳に、は嬉しくなった。

「ううん、いいよ、もう、いいよ、ありがとう、皆。」

皆はあたしのことをちゃんと考えてくれたんだ、今もこうやってあたしを慰めてくれてる。
精市の下を去ったのはあたしで、全部あたしが悪い。だから、精市は悪くないし、あたしが居なかったから、だから仕方ないことなんだ。
もう精市は奥さんが居て、子供が居て、幸せになったんだもん、邪魔なんてできない。
だって、大好きだから、

ゆっくり、諦めるしかない。


「今日と明日、ちゃんと皆のことサポートするから、精市のことも、大丈夫だから、」



「みんなが居てくれるから、あたしは大丈夫だから!」

そう笑って「部屋戻るね、ありがとう、みんなだいすき!」と言って部屋を出て行った。
昔のの明るい笑顔とは真逆の笑顔だった。




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