彼は昔から花が好きだったからきっとこの別荘の中庭に居る。
昔、合宿中にここで撮ったいろいろな写真を、当時はまだ入院していた彼に見せたことがある。
そのとき、中庭の花壇を非常に気に入ったみたいで、その写真を病室に飾ってくれていた。
だから精市はそこにいる気がする。気がするというか確信できるのだ。


少しだけ早歩きで中庭へ向かい、中庭への最後の曲がり角に差し掛かると急にドキドキして足を止めてしまった。
物陰からそーっと中庭を覗いた。


その先に、記憶の中よりもずっと成長して確信はないのにどうしてか、とても懐かしく、とても愛しく思う後姿があった。
まわりに子供が数人居るところからして、誰かが連れてきた子供と遊んでるのだろう。
昔から子供に好かれる人だったよね、精市。

子供達と遊んでる笑顔はあたしの記憶よりも大人びていて、でも優しさは消えてない大好きな笑顔だ。
彼の正面が見えた瞬間胸が高鳴った。まだまだあたしは精市に恋してるのだ。
あのときの、10年前の時のまま、いやもっとかもしれない。ずっとずっと大好きだった、彼。

会えた嬉しさで泣いちゃうかもしれないけど、そんなことよりも抱きしめて欲しくって、隠れるのをやめて中庭に行こうと一歩踏み出したときだ。

「精市!」

女の人の声が聞こえ、その声の女性と思われる人が精市の方へ歩いていった。
隠れてたときは壁でさえぎられて見えなかったけど、丁度さえぎられていた部分にテラスがあり、今まできっとそこに居たのだろう。

(・・・ちょっとまってよ、どうして名前呼び?)

子供のうちの一人、2歳くらいの男の子がその女性のほうへ走っていった。

「ママ!」

あわてて足を止めてもういちど曲がり角に隠れた。
女の人は男の子の頭を撫でてると、他の子供に呼ばれてそっちへ走っていった。

、車酔いはもう大丈夫かい?はおともだちと会えて嬉しいのかとても元気だよ。」

精市はという人にそう言った。
ちょっと、なんで、なんでそんな優しい笑顔見せてるの、
ただ精市が女の人に笑いかけてる、それだけなのにあたしは嫌な予感がしてたまらない。

走り回ってた子供のうちの女の子がこけて泣きそうになっているところをと呼ばれた先ほどの男の子が起こして頭を撫でていた。
「あら、あの子はやっぱ精市ににて優しいね。」
「ふふっ、ありがとう、でもだって優しいからお互い様だよ。」

仲睦まじく話す二人を見て、あたしは覗き見を止めた。嫌な意味で心臓がどきどきしてきた。
まだ確定したわけじゃないのに、理解したくないのに、でもどこかでわかってしまって、胸が苦しくって、体が動かない。


違うよね、違うって言ってよ、ただの知り合いだって。

いてもたってもいられずに、あたしはその場から立ち去ろうと歩き出したら、前から氷帝の・・・鳳君と、多分その奥さんと思われる女の人が、中庭に向かうのか二人揃って一緒に歩いていた。

「子供達の面倒、幸村さんご夫妻にばっかり見させてるのも悪いからね。」
「そうね、私達も子供達と遊ぼっか。皆かわいいんだもん。」

と言いながら角を曲がっていった。


苦しくって、涙が溢れそうで、一刻も早くその場から離れたくって早足で歩いたが、次第に駆け足に変わっていった。


「幸村さん夫妻」
あたしをどん底に突き落とすには十分すぎる言葉だった。


夫婦って、結婚してるって、何?
あの人が奥さんで、あの子供は精市の子供?

精市にとってあたしって何だったの、

やっぱり、10年前なんて、あたしなんて精市にとったらただの思い出?過去?




もしかしてあたし、ずっと一人で夢見てたの?



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