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「おはよう、跡部君。」
「ああ、はやいな。」

うきうきして寝れなかったじゃないか。

早く起きすぎて、やることもなくて荷物をまとめてチェックアウトし、コンビニで朝食を買って自分のマンションへ向かったのだ。
もう入居できるようなので荷物を置いて、この合宿の用意を終わらせても時間が余ったために来てしまった。
電車で1時間半くらいかかった。

早く車を買わないと不便だな。合宿終わったら見に行こう。
お金?独身女性の貯金額はなめないでほしいね。


それにしてもこの別荘は全然変わりやしない。あのときのまますっごい綺麗で高級。
昔来たときも汚さないように必死だった。

、おまえの部屋は201号室だ。どこかわかるな?」
「うん、ありがとう!」

201号室は確か中3の合宿のときにあたしが使っていた部屋だった。あの言い方だと偶然というわけでも無さそう。
よくそんなことまで覚えてんだね。感心するよ、本当に。
ん?もしかしてデータ残ってる?


「一応急遽くることになったからあとで皆の前で挨拶しておくか?」
そういわれ、少し考えた後頷いた。この時間じゃまだ皆集ってないみたい。
真田君とかならもう居るんだろうな、この敷地内に。

もう皆とこんなに近くに居るって言うだけでテンションがあがる。


「じゃあ適当にぶらぶらしてくるよ。時間来たら教えてー。」
「ああ、わかった。」

いやあ、跡部君はかっこいいなあ。何をしても様になるというかモテるのもわかる気がする。あれで彼女すら居ないって言うんだから吃驚するよね。

ま、精市が一番かっこ良いんだけどね。





荷物を置きに行くと、変わらない部屋の感じがまた懐かしい。あの頃は、もう一人の氷帝のマネージャと同室だった。
そのマネージャーはどうなったんだろう?先日の跡部君の様子じゃあ、元マネージャーはあたし一人っぽい。

こんなところで考えても仕方ないので部屋から出て行くことにした。




一度外に出ようと歩いていたら、前を歩く男二人組が居た。
あの雰囲気、あの髪型、あのオーラ、絶対そうだ。


嬉しくなって駆け足で二人に近寄り、丁度あたしが二人の間に入るようにタックルした。
すると、タックルの驚きで二人ともこちらを見て、目が合った。
一人は普段閉じてる?目を開眼して、もう一人は怖い顔が一層怖くなった。

「お久しブリーフ!」

あたしから出てきた言葉は、丁度中学3年のときに流行っていたギャグだ。
今じゃどんなギャグが流行ってるのか全くわかんないから、これしか言うことができないのも少し悲しい。

振り返った二人は何も言わずにあたしを見ている。なんだか誰だか必死で考えているのか?もしそうだったらちょっとショックなんですけどー。
それともあたしが急に現れて頭がついていかないのか?

「え、もしかしてあたしの事忘れてる感じ?」
「お前は・・・?なのか?」

顔怖い人、つまり真田君が眉間のしわを一気にのばして間抜けな顔であたしの名前を呼んだ。

「うん!ひさしぶり、二人とも!」
「久しぶりだな、。実に10年と5ヶ月と4日ぶりだ。日本にいつ帰ってきたんだ?」
柳の目は既に閉じられていた。ていうか一瞬にしてそんな計算ができるなんて、本当凄いな。


でも1番の仲間に覚えててもらえたのは嬉しいことだと思う。

あたしにとっての10年前の渡米は、生活の中で周りが消えて、異世界のようで非日常で凄く寂しい思いをしてきたけど、周りからしてみればあたしの渡米なんて生活からあたしだけ抜けただけでそれ以外は何も変わらない日常。

だからその状況になれてもうあたしのことを忘れてんじゃないかって半分不安だったんだ。


「一昨日帰国したの、転勤ってやつよ。10年ぶりの日本でしかもすぐ皆に会えるなんてvery happyって感じ!」
ふふふ!と笑っていたら柳君にコツンと小突かれた。Why?

「帰ってくるなら連絡くらいしろ。」
「ごめんって、驚かせたかったの!で、皆元気なの?柳君は昔と雰囲気変わらないね、大人っぽくはなったけど。真田君も大人っぽくなったね、元気?」

「ああ、元気だ。・・・まさかここでと会うとは吃驚したが、お前が居ることで中学時代が完全に復元したようで嬉しく思う。」
「あたしも嬉しいよ!本当に!この合宿ではまたマネージャー業させてもらうけど、10年もブランクあるから多少のミスは許してねー!」

と言うと、「ミスとはたるんどる」と聞こえてきて久しぶりの「たるんどる」に思わず笑みがこぼれた。


「大丈夫、がんばるからお手柔らかに頼むー!」

そういって二人に手を振った。
二人の顔が少しだけ不安そうだったのは何でだろう。そんなにあたしのミスが怖いのかな。失礼すぎる。


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