雲のリング戦はあっという間に終わってしまった。
一瞬というか、やはり恭弥は強いなあ…。

モスカは想像通りといえば想像通りだし、期待を裏切られたといえばそうなるしなんとも複雑な気分。
もうちょっと粘ってくれると思ったのに、この有様。
ザンザスの補佐だというけどこれならレヴィの方が強くね?
ベルやレヴィだってポカーンとしてるじゃない。




Mi chiamo arma.





リングを一つに完成させた恭弥はあたしたちヴァリアー側に向き、目はザンザスを捉えた。
「さあ、降りておいでよ。そこの座ってる君。」

まさかザンザスを君呼ばわりするなんて…。

「サル山のボス猿を咬み殺さないと帰れないな。…ついでに君も咬み殺してあげる、。」

そういうと恭弥はあたしのほうを見たのであたしは目をしっかりと合わせる。
レヴィがなぬ!と過剰反応を示した。
ザンザスに敵意を向けるものは許さないんだろう、それがレヴィという男だ。

「それよりさ、俺らの負け越しじゃん。どーすんだよ、ボースー。」
と、緊張感のない声が聞こえた。

本当にどうすんだろ、根絶やし?恭弥から目を離してザンザスを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
あーザンザス何か考えてるなあ…。


そして、ザンザスは地を蹴って飛んで恭弥へ上から蹴りをいれ、もちろん恭弥もソレを防ぎ、ザンザスは空中を一回転した。
からかい目的の遊びだ、ザンザスの。
文章だけではすごくなんかサーカス団のようなのだけど実際この場は緊迫している。

潰れたモスカを回収しに行っただけだとか負けを認めるとか言うけど明らか何かあるよねー、あの顔。
何企んでるんだろ?
恭弥はついにザンザスに攻撃を仕掛け始めてしまう。
ザンザスに一般人が勝てるはずないのに、とおもっていたがやはり恭弥は戦闘マニアなのかザンザスの動きについていっている。
いや、ザンザスが手加減しているだけなのだけどね。

だけどザンザスは全く恭弥に手を出す気配はなく、横でレヴィがボスを翻弄しおって!と憤慨している。
いつでも加勢しそうなレヴィにベルは珍しく冷静。
てっきり喜びながらナイフ投げると思ってたのになあ。

「待てよムッツリ。勝負に負けた俺らが手ぇ出してみ。時期10代目への反逆とみなされボスともども即打ち首だぜ。」
「ではあの生意気なガキを放っておけというのか!?」
「なんか企んでるぜ、うちのボスは。マーモンかスクアーロなら何か知ってたかもな。あと、知ってるとしたら…。」

そういって二人はチラリとあたしのほうを見た。
「何よ、あたしは知らないよ、ブイヨ(うち)はヴァリアーの企てに関しては口を挟まない掟だもの。」


そういうと二人は視線をザンザスと恭弥に戻し、黙って見守ることにしたらしい。



「チェルベッロ、この一部始終を忘れんな、俺は攻撃してねえとな。」
ザンザスの笑みが深くなった。

ジジジ、とモスカの起動音が聞こえたと思ったらブオン!と音が鳴り光の筋が一本走った。
それが恭弥の足をかすった。
ほんの少しかすっただけなのに血が噴出し、恭弥はうずくまる。




あらら、痛そう。なんてのん気に見ていたらシュルルルと頭上から聞こえてモスカが何か発射したらしく上から当たったらなんだかヤバそうなものが落ちてきた。
まさかの無差別って言うやつか?


とっさにベルを横に引っ張り回避したが、レヴィに直撃した。
ま、奴の生命力ならなんともないでしょ。

・・・にしてもややこしくなってきた、面倒だ。
巻き込まれたくないので少し離れた芝生の上に座りあぐらをかき、頬杖を付いて傍観することにした。

「なんてこった、オレは回収しようとしたが、向こうの守護者に阻まれたためモスカの制御がきかなくなっちまった。」
ザンザスはそういってフィールドの中で笑って様子を見ている。
さっきよりも愉しそうな彼を見てあたしはため息が出る。

まさか雲のリング戦でこんな小戦争みたいになるとは思いもしなかったよ、ほんと。

ブイヨはヴァリアーのすることに一切口出ししない掟だけど。
仮にもあたしはザンザスの守護者でもあるんだからちょっとくらい言って欲しかった。

もし言ってくれていたら、もっと体力備えて最高の血祭りに仕立ててあげたのに。


モスカは本格的に暴走しだして校舎は思い切り破壊され、あたり一面黒煙が上る。
あちこちで爆発したために砂煙が酷い。服や髪が汚れるのはいやだなあ。


沢田側の守護者の慌てたような声が聞こえ、そちらに目をうつした。
フィールド内にクロームとか言う女が入り込んで重量感知識トラップを踏んでしまったらしく、爆発したが犬と千種が間一髪で助けてしまったのだ。


「あーあ、もうちょっとだったのになあ。」
ちぇっと舌打ちしたがきっと誰にも聞こえていない。
次は3人に自動砲台が反応してそちらに向く。

3人はいまだ倒れこんだままだというのに、発射したらひとたまりもない。
骸たちにはすっかり嫌われてしまったけど一応は助かって欲しいとかいう思いはある。
しかもモスカも3人を感知して、自動砲台とモスカにはさまれるという最悪の状況だ。

犬と千種を助けようと思い、腰を上げようとしたが見えた炎に動きを止めた。



「あの炎って…沢田?」

じっと見ていると、やはり沢田だった。
昔見た死ぬ気状態とは全く違う、死ぬ気になっても自我を保てる状態になっていることに目を疑う。

モスカと戦い始め彼の戦闘力があがっていく。
え、何?この数日であがったというの?前まで100だったのに、倍以上に跳ね上がってしまっている。

なに、それ。
その数値はあたしやザンザスには到底及ばないが…レヴィよりも高い。



沢田は簡単にモスカの攻撃を避け、蹴りなどを入れ、右手のパンチでモスカの胸を突き破った。
ちょっと、これやばいんじゃないの?

ちらりとザンザスを見れば、やはり笑みは浮かんだままだ。いや、もっともっと深くなっている気がする。
やはりモスカには何らかの仕掛けが施してあるのか。能力を遣えばそんなの簡単に見抜けるんだけどできれば使いたくない。どーせ後からわかることだしまあいい。

沢田は思い切りモスカを真っ二つに叩き割った。叩き割るというかこぶしに炎がともっているので焼き割ったといえば良いのか?わかんないや。


「は?」
何かおかしいと思ったのはあたしだけじゃなくて、敵も味方もモスカに疑問を抱いたのか一瞬動きが止まった。

目を凝らせばモスカの中から人が出てきた。


「え、もしかして9代目?」
見覚えのある姿に思わず絶句。ちょっと、それまずいんじゃないの?
まさかモスカの中に居るとは思わなかったよ、9代目が。

いやあ、にしてもザンザスは命拾いしたね。
昔のあたしなら間違いなくザンザスを即死させてたよ、本当。

でも今のあたしは9代目への忠誠心なんてこれっぽっちも無いから特になんとも思わないや、今となったら。
エストラーネオもうまいことするよね、感情を泣くす実験だなんて。よく成功したよ。今こうやって役立ってるし。

沢田や9代目が何か話しているがここまでは聞こえてこない。
聞こえたのはザンザスの声オンリー。

「よくも9代目を…貴様を殺し仇を討つ。」
という宣言。
いいね、それ!


ザンザスの考えていた計画はこれかとやっと全て繋がった気がした。
あたしが9代目に忠誠があると思っているザンザスだからこそあたしにあえて言わなかったんだね。
たしかに言わなくても正解だったかも。
リング戦が始まる前だったら全力でザンザスを止めてたもの。


この計画の真相を向こうのアルコバレーノがペラペラと話しだし、それを知った沢田はゆっくりと立ち上がりザンザスを睨んだ。
「ザンザス、そのリングは返してもらう。お前に9代目のあとは継がせない!」


おかしくて笑いそう。
「10代目の意志はオレ達の意志だ!」とか言い出して沢田ファミリーは武器を構えた。
なにその仲良しごっこみたいなセリフ。
ちょーうけるんですけど!でもそっちがその気ならこっちだってもちろん…ほら、レヴィもベルもやる気満々。


あたしも立ち上がってザンザスの横に立った。
愉しい愉しい殺し合いになるならば、あたしは喜んで能力を使うし、その後の疲弊だってなんとも思わないよ!


ザンザスの憤怒の炎とは若干違う光を手のひらに集めた。いわばあたしの十八番能力鎌鼬の弾丸バージョンなんだけどね、それを放てば普通に放つ鎌鼬の倍の威力で木っ端微塵にできる。
あとはザンザスの、喜劇の始まりの合図を待つだけ。
いつでもおっけー!瞬殺でもいたぶりでもどちらでもお望みどおりに!とワクワクしていたのに。

「お待ち下さい!9代目の弔い合戦はわれわれが仕切ります。」

チェルベッロがあたしたちと沢田達の間に出るように現れてそう言い、ちょっと気が抜けて手のひらの光を消さざるをえなかった。

なんだかよくわかんないんだけど弔い合戦は大空のリング戦と位置づけられ、明日に行われることが決まる。
悪くねえ、とザンザスは呟いたがあたし、全然納得できないんだけど。

「異議ありー。」

その場の緊張感に全く不似合いな間延びした声で異議を唱えた。

「なんでしょうか、ヴァリアー側・宇宙の守護者、様。」

「ねーえ、今さあ…あたしのこと宇宙の守護者って言ったじゃん。その宇宙の守護者まだ決まってないじゃん!大空が弔い合戦でもなんでもいいけどさ。宇宙もしっかり決めてよ。」

「そうでした…それではどうされますかザンザス様。」

チェルベッロは一旦ザンザスに確認を取ると、ザンザスはチラっとこっちを見た後チェルベッロに視線を戻し「の好きにさせろ。」とのことだ。
さっすがわかってんじゃん!

「じゃあ明日がいいなー!大空明後日にしてさ!」

「おい何勝手なことを…!」と獄寺が吠えた。
だけどあたしは聞こえないフリ。

「いいえ、大丈夫よ、あたしは。」
そう横から出てきたのは源内夏依だ。
向こうもやる気満々ってわけ?あたしに勝つ秘策があるの?まさかね。

「両守護者の了解を得ましたので決行いたします。それでは明晩、こちらに集合してください。」


帰るぞ、と言ってザンザスの手のひらに光が集りだした。
アジトに帰る直前源内夏依と目が合ったが、奴は笑みを浮かべていた。
あたしももちろん笑みを浮かべたんだけど次の瞬間光に包まれ目を開けると部屋に戻っていた。

「明日ちょー楽しみ!」と後ろから聞こえ、振り向けばしししと笑うベルがいた。
そりゃそうでしょ、だってあたしの戦いなんだもの。といって鼻で笑って自室へ帰った。
やっと来た宇宙のリング戦。
明日があんたの命日って、知らせておいたほうがよかったかな?



事態は終盤へ向かう



あと一息ってところかしら。