「で、白蘭は本当になんで日本に居るの?気まぐれじゃなさそうだし。」 「チャン勘が良いよねー。」 ラ・ナミモリーヌで二人そろってモンブランを食べる。周りから見ればカップルなんだろうけど、誤解だけはやめてほしいな。 当たり前だけどお互いそういった感情は1ミリも持ち合わせていない。 Mi chiamo arma. 「いまさ、チャンのとこのおうちで、権力争いしてるんだって?」 「はあ…あんたは一体どこまで知ってるの?」 何で一般人のはずの白蘭がリング争奪戦のことまで知ってるんだろう。本当に一体あんたは何者なの?マフィア研究家とか?いやいやそんなの無いと思うけど。 「それはナイショ!あ、でも野暮用ってのはホントだよ、ちょと日本に用がある人が居てさ、向こうは僕の事知らないと思うんだけどね。」 「白蘭…何をやらかす気なの?自分の事知らない人に用事なんて。」 終始笑顔の彼の心がわからない。普通のあたしなら絶対にわかるはずなんだけど、今のあたしはエストラーネオで付けられた能力が使えなくなる3年に一度の乱期がそこまでやってきているからだ。 そろそろ前回の乱期から3年が経つ。乱期は、初期症状とも言える能力の低下と、少しの体調不良が1週間程度始まり、そこからすぐに乱期の山がきて、ああ殺したい!と思うことも無くなり、吐血やあちこちのひどい体調不良、体がすこぶる重くなって能力が全く使えなくなって死にかけてしまう、1週間という短いようで長い期間。ブイヨの皆もあたしほどじゃないけれど数回経験している。去年はブイヨのボスがそうだった。マフィアなんて辞めよっかなーとか言い出したときにはびっくりしたもんだ。 人間の領域を超えようとしたその代価というべきか、日ごろの負担というべきか。 乱期が起きる度にもう自分は死んでしまうんじゃないかと思う。基本的にブイヨはいじくられすぎた体を持つために短命とされている。ボンゴレ医療班に診断された結果であり、仕方が無いことだ。 現在初期症状4日目である。あと3日の間で宇宙のリング戦が無いと、ちょっとしんどい。殺意がわかなくても殺せるけど、絶好調で勝負事は望みたい。 「ん?ちゃんにも、おうちやおうちの人たちにはも害は無いよ、ホントに野暮用だから。」 「そう、ならいいんだけど。」 頬杖をついて、あたしを見てニコニコする。本当不思議な人だ、笑顔をかわいいと思ってしまう。 「ねえチャン。」 「なあに?」 「僕もね、将来にはおうちをつくろうと思うんだ!」 白蘭の言うあたしの「おうち」がマフィアだということを解っているのかどうかもわからない。もし、彼の言っている「おうちをつくる」が、将来的に一軒家とか豪邸とか建てるということならば、純粋でかわいいと素直にいえるんだけど。 「それでね、チャンとこのおうちの権力争いでさ、チャンの味方が負けたら…僕のおうちに来ない?大切な仲間と一緒に。僕がボスのマフィアはボンゴレなんかより絶対強いよ。」 その言葉にあたしは飲んでいたコーヒーでむせそうになった。やはり、彼の言うおうちとはマフィアのことだ。ちょっとまって、ってことは白蘭がマフィアを作る、ってこと?てかそういうことか。 …ていうか 「やっぱあたしがマフィアって知ってたのね。」 少し痛くなった頭を抑えて言うと、「当たり前じゃん!ボンゴレでしょ?」と笑う声が聞こえてきた。 侮れないわ、どこでそんな情報を手に入れてるって言うの?やっぱりマフィア研究家なのかしら。 「仲間と一緒にって…ヴァリアーのことも知ってるのね。あの人たちはそうほいほいボンゴレを抜けたりしないよ?」 モンブランを一口サイズすくい、口に運ぶ。白蘭はすでにケーキを食べ終わっているようでかばんからマシュマロを出して食べている。指にマシュマロを挟み一つずつ口に入れていく。 白蘭の作るマフィア、か。名前マシュマロファミリーとかになりそう。ちょっとおかしくって笑っていたら「ばっかだなあ、チャンも」と聞こえたので白蘭を見ると、笑っているくせに開眼していた。…馬鹿ってあたしが? 「誰もヴァリアーを呼ぶなんて言ってないよ、チャンの仲間、って言ったんだよ。」 「あたしの、仲間って…。ヴァリアー…。」 「違うよね?本当の仲間のことを言ってるんだよ。」 ブイヨのことだ。まさかそこまで筒抜けとはあたしは全く予想もしていなかった。あたしがブイヨだってことも知っているというの? ボンゴレの人たちだってほんの一部しかブイヨの実態を知らないって言うのに…。なんで? 白蘭は一体何をたくらんでいるの?ブイヨを引き抜こうだなんて。 「僕のファミリーには是非ヴァリアーでも勝てない超強い6人を用意しようと思うんだ。それをファミリー最高峰のメンバーとして。でもね、そいつらはただの表向きにしかすぎない。 実際はファミリーの緊急事態に備えてその裏にもう6人超超超並桁外れた強い子を真実の最高峰として用意しておくつもりでさ、その超超超並桁外れた強い6人もつくるんだけど、その更に奥の手としてチャン…いや、ブイヨサイケデリックをどうしてもいれたくってさ!」 「白蘭って…頭悪いのか良いのか全然わからないや。」 それが素直な感想だった。 「よく言われるんだよねー。だから今日の野暮用ってね、頭が超いい子が日本にいて、その子もうちに入れようと思うんだ!向こうはまだ知らないけど。僕が一方的に知ってるの。その様子を見に来たってわけ。」 「へー、国立大学の子とか?」 「んーん、中学生」 「はああ?ちょ、あんたマフィアになってどうするつもりなの?遊びならやめときなよ?」 あたしがそういえば白蘭は急に真顔になってこういった。 「目的・・・?そんなのきまってるじゃん。・・・世界征服だよ」 その目がかなり本気で狂気混じりで面白くて、思わず目を見開いた。 「奇遇じゃん、あたしも同じような野望持ってるよ。」 「でしょ?だからチャンも仲間と一緒にうちにきなよ。」 だからあたしは面白半分で返事をしておいた。 「うーん、ボンゴレが将来穏健派になってしまったら、ソレもありね。」と。 □□□ 白蘭と結局かれこれ3時間位話し込んでしまった。時刻は午後10時半を過ぎたところだ。そろそろ並盛中学へ向かわないと。 「じゃあ、またね。」 「うん、チャンもがんばってね〜。」 ケーキ屋の前で解散した。 面白い話しがいっぱい聞けたな。マフィアを作るとか、スカウトとか…ブイヨと知られていることとか。 でもおもしろいな、白蘭のが作るマフィアなんて。世界征服とか言いながら何やかんやでのほほんとしてそう。 まさかあたしやブイヨを勧誘してくるとは思わなかったけどね。 「ブイヨの皆は、どう思う?」 きっと意識をすれば世界中の特定した人物の会話が聞こえる能力をもつリンピドのことだから今の話も、この問いかけも聞こえてるんだろうけど。 「9代目に愛想つかされてるんだよ、あたし。まあ無いと思うけどもし将来ボンゴレが穏健になってしまったのなら、白蘭の下に行くってのもありかもってあたしは思うよ。」 今思えば沢田ファミリーに源内夏依を投入したのは、9代目は既にあたしを見切っていたからなのかもしれない。あたしが沢田ファミリーに入らないということを知って愛想つかせて。最初から期待されてなかったのかもね。 まあ、もっとも沢田が10代目になる可能性なんて0に近いんだけどね。このあたしが居る限り0だ。 「あっら〜、ったら遅いじゃないの!」 学校に着くとまだ沢田たちは来ていないみたいで、屋上のほうに気配を感じそっちへジャンプしてのぼると、ザンザスを除くヴァリアーとチェルベッロが居た。 あたしの姿を確認するとルッスーリアはいつもと変わらない様子であたしに話しかけてくる。 ちなみに、今の服装はヴァリアー仕様だ。皆と同じ素材でできたショートパンツに黒の装飾が一切されていない踵の高いブーツ。上は黒のシャツに金色のネクタイ、黒のジャケットにルッスーリアが以前くれた花のコサージュ。 「ごめんってば。で、今日は誰の戦い?皆調子のほうはどう?」 「まだわからないわ!・・・んー!わたしは絶好調ってところかしらっ!」 「相手はあんなクソガキだから楽勝だろぉ!俺だって絶好調だぁ!」 ルッスーリアもスクアーロもすでに勝った気でいる。まあそうだろう、相手は中2だしね!生きてきた時間も、踏んだ場数も超えた死線も違う。 ザンザスは今日はいてない。多分興味が無いのだろう、わかりすぎてるこの勝負に面白みも何も感じないと思う。 あたしだって今日来るのやめておこうかと思ったくらいだもの。 「あたしの番にならないかな…。できれば早く。」 ため息をつきながら少し震えている自分の手のひらを見つめれば、皆あたしが乱期が近いことが悟ったらしい。 「もしかして乱期が来ているのか?」 レヴィが心配そうに声をかけてくるので「困るよね、こんな時期に。」と返す。 「えー!マジかよ!の本気みれないわけー?」 「どうだろうね、本気出すまでも無いと思うけど。」 「まあなら乱期が来ようが虫の息だろうがあの源内とか言う奴くらい殺せるだろぉ?」 そういうスクアーロに、鼻で笑って当たり前だと答えた。 話すことがなくなって誰も話さなくなった。沢田たちはまだ来ないの?暇になってきてあくびがでる。 そうこうしているうちに沢田たちもようやく集まったらしいがあたしたちがいることに全然気が付いていない。 「やつらまだきてねーのかな」 「とっくにスタンバイしてますよ」 誰かの呟きにチェルベッロが答え、いきなり聞こえてきたもんだから沢田たちは驚いてこっちを見た。 「厳正なる協議の結果、今宵のリング争奪戦の対戦カードが決まりました。」 「第一戦は、晴の守護者同士の対決です。」 チラっとルッスーリアを見ると、彼(彼女?)がもともと浮かべていた笑みはより一層深くなった。 相手の晴の守護者は笹川兄だ。 「・・・なるほどね。」 笹川兄ってルッスーリアのタイプじゃん、思いっきり。 この勝負見えたな・・・と思ったので、「ちょっと野暮用行ってくるわ。」とその場を去った。 □□□ 着いたのは日本支部の門の前。見事あたしは今、源内夏依に変装して日本支部に乗り込むつもりだ。 目的?そんなのただひとつ。源内夏依のデータを盗むこと。コンピュータの機械だけならハックして盗めるけど紙の資料は盗めないからね。 日本支部の門をくぐり、集中させると支部の中の地図が脳内に入ってくる。これで源内夏依の部屋まですぐにたどり着く。周りの日本支部のやつたちも騙されて私を源内夏依だと信じ込んでいるバカな奴ばっかだ。低脳日本支部…いつかベルがそう言ってたっけ。そのとおりだと思う。 源内の部屋にするっと壁をぬけて入ると意外とシンプルで、書類などのものは一切置いてなかった。見当違いか、と思い違う部屋を回ろうと思ったのだが、壁の一部分になんとなく違和感があったので、触れてみるとIDとパスワード認証の装置が出てきた。そんなもんわからないので破壊してみると奥に何か空間があることがわかったので、自分が入れるくらいまで壁を壊した。 「さすがあたし。」 するとどうだろうか、そこには一つの棚があり書類がファイリングされて並べられていた。 適当にファイルを取って中を見てみると機密事項らしい書類であることがわかった。一番上の題名が『エストラーネオ』と書いてあった。 「やっぱりね、あるんじゃん。」 中に書かれていた文字は全てイタリア語だったが、イタリアで過ごしてきたあたしにとっては日本語よりも簡単に読める。 中身はもちろんあたしの大大大大大大嫌いなエストラーネオのことだ。ビンゴ! どうしてあたしが今ここを探っているかというと、ブイヨの屋敷から出て行くときにリンピドに言われた。 「最近忌々しい噂を聞いたんだ。エストラーネオが動いてるって。それでね、耳を澄ましたの!じゃあなんでだろうね、源内夏依の声が聞こえてきてさ!」 リンピドはつまりエストラーネオを源内がなにか絡んでいると言いたいみたいで、その探りをあたしに頼んでいるのだ。 「任せて。」と一言言って来た。その探りが今、なわけだ。もし源内がエストラーネオとつながりがあるなら、あたしのきことも少しわかるんじゃないか、と。でも深く調べるのはリング戦が終わってからにしよう。 エストラーネオは敵だ。ボンゴレノ敵でなくてもブイヨの。 この資料によると源内親子はエストラーネオの一員だった。あたしや骸たちが壊滅させたと思っていたのだけど、どうやら育ってきた研究所のある建物以外にも数名いたらしい。 今思えばそうか。だってボンゴレでも世界中に支部があるのにエストラーネオもあそこだけとは限らなかった。見落としていたのか、あたしたちは。 そしてその残っていた数名を集めてもう一度エストラーネオを作ろうとしているらしい。あたしもこれは想定外だった。 だが、それもこれもこのリング戦が終わってから本格的に動くとのこと。源内が沢田ファミリーに入ったのは偶然だと思うが、これは9代目も知らないことだろう。 この偶然を源内はうまく利用して計画を進めてきた。きっと沢田たちがリング戦に勝てばその立場を有効に使い、エストラーネオメンバーを集める気だ。 あたしたちのような被害者がまた出る。あたしの母だった人や、実験で死んでいった何人もの子供たち。そして骸やブイヨ。もう私たちのような人間じゃない人間を作ってはいけない。 (こんなこと考えている奴を生かしておけない。) 手に力が入り、持っていた書類をくしゃりと握る。ココで燃やしてしまおうとも思ったが、よく見るとエストラーネオ復活に関わる奴のメンバーリストが載っていたので重要なものとしてもって帰ることにした。 これで表向きにもしっかりとした殺す理由ができた。 もうここに用はなくなり、並盛中学へと去った。 □□□ 想定外だった。 まだ決着がついていないことに、思わず眉を寄せた。とりあえずスクアーロからサングラスを貰い様子を見る。 あたしはヴァリアークオリティで一瞬にして終わると思っていたのに。ルッスーリアの表情を見ると遊んでるわけでも無さそうだ。ルッスーリアの実力はあたしも知っている。なのにこんなに梃子摺るなんて、あたしは沢田ファミリーに要らぬ世話をしてしまったのかもしれない。 「極限 太陽!!!」 ため息をついて目を伏せると、笹川の声が聞こえてきた。あわてて二人を見ると笹川の技にルッスーリアは自慢のメタル・ニーで対抗した、が。 「まじ、で。」 ルッスーリアの足が使い物にならなくなってしまった。 まさかの展開、何であたしたちにこの中学生が勝てるわけ?意味わかんない・・・。 「嘘だろ?」と小さく呟くスクアーロの声を流してあたしは「モスカ」と一言横にいるでっかい機械の名前を呼ぶと、シュコーと変な機械音を鳴らし指からなんか飛んでって、まだ戦えるわよ!と死に物狂いで立って構えるルッスーリアの背中に刺さった。 ヴァリアーは実力主義だ。どれくらい仲良くても弱い人はこの世界に必要ない。残念だけど、あたしルッスーリアのこと結構好きだったよ。 いろいろ心中が複雑というか中学生に負けた苛立ち、自分が加担していたかもしれない怒りやいろんなことでモヤモヤとして、サングラスを外し握りつぶした。スクアーロが「ゔお゙ぉぃ!それ俺のだぞ!」と言っていた。すっかり忘れてた。 「今回より決戦後に次回の対戦カードを発表をします。」 あ、もう発表しちゃうんだ。早く、あたしの番にならないかな。 でもそれはスクアーロだって同じ気持ちらしい。次こそ負けは許されないよねー。だから確実に勝てる人がいいな。 「明晩の対戦は・・・雷の守護者同士の対決です。」 ああ、まだあたしじゃなかった。 レヴィ、がんばれ。 (まだ、大丈夫だよね。) 少しだけ震える手のひらを見つめていたら、誰かがその手のひらを繋ぐように掴んだ。いきなりのことで吃驚して顔を上げると 「ししっ!早く帰ろーぜ!」 いつもどおりニッと笑いながらあたしの不安を拭うように明るくそう言ったベルに引っ張られてヴァリアーの屋敷に戻った。 まさかの敗北 (ねえレヴィ、明日負けたら殺すよ?) (ガクガクブルブル) |