初めての実践ということで、一つのマフィアを潰しに行くという日の朝。
時間になっても呼ばれないことを不思議に思っていて、少し部屋から出てみればエストラーネオは血の海だった。

「なに、これ・・・?」

機械もぶっ壊れ、部屋に居た研究員全滅。
辛くも悲しくもない。この光景を見て気持悪いとも思わない。
気づけばあたしは喜びでいっぱいになっていた。

これで、実験は終わる。兵器とも呼ばれなくなる。
ついにあたしは解放された!



Mi chiamo arma.




死んだ研究員を、潰れた機械を見つめていると手を掴まれた。
相手は騒ぎを聞きつけたのか、慌ててやってきた他の部屋に居た研究員。

なに?此処まで実験に成功したファミリーの希望を手放してたまるものか、って?
どうでもいいよ、こっちだってもう自由はソコにあるというのにつかまってたまるものか!



ためらいもなくその研究員の腹部に腕を突き刺した。
そしてあいたほうの手で相手の眉間を狙って指先全部を向けて力を込めると、そこから鎌鼬が出て研究員の頭部に直撃。頭が木っ端微塵になった。
あたしの顔に血やえぐいものが付着する。
ソレを見ても気持ち悪いだなんて感情は沸いてこず、楽しい。快感とさえ感じた。


ざまあみてください。
あなた達のおかげでこうやってあなたを殺すことが出来ました。
めでたしめでたし?

どうですか、自分達の造った兵器に殺される気分は。
残念ね!決定的なミスを犯すなんて!あたしに「忠誠心」という感情を入れることを忘れるなんて馬鹿みたい!

ぐってりした体の腹部から腕を抜くと真っ赤に染まってて、ベトベトして気持悪かった。


洗おうかなあ・・・とのん気に考えているとまた腕を引かれた。
その手が、あまりにも暖かかったので振り払うことはしなかったが、腕を辿ると同じ年くらいの男の子。

なんか変な髪形に、赤と青のオッドアイ。右目の周りの縫い目に眼球に六の文字。

「一緒に行きましょう。」

「は?え、ちょっと、」

意味が解らなかったが、素直についていった。
誰よこんな子知らないわ。


「とにかくこのファミリーを潰しますよ。」
そういい、増援してきたファミリーを片っ端から殺し始めたのであたしも手伝うことにした。


初めての実践、大成功。







少しはなれた人気の無い、路地裏でひとまず腰を下ろした。
ファミリーの外に出るなんて初めてで、不思議な感じ。

変な人を見るような目で見ていると「僕は六道骸と言います。」
彼は名乗った。
骸の後ろには男の子が二人。
それぞれの自己紹介が始まった。

骸はどうも掴みにくいけど、あたしの幻覚能力はきっと彼の地獄道から取られたものだと思う。
まあ、あたしの幻覚は彼のほど強くは無いみたいだけどね。
それでも戦闘能力はあたしのほうが上。


犬は本当に犬みたいで可愛い印象が強くって千種は犬の真逆って言うのかなあ・・・?冷静だ。


「あなたの名前は何というのですか?」

そう聞かれ、どう答えればいいのか迷った。
arma・・・?そんな屈辱な名前はもう名乗りたくないけどなあ・・・。

「名前はないよ。・・・arma.01って呼ばれてた。」
そういうと3人の米神がピクリと動いた気がする。

「ほぉ・・・あなたがファミリー唯一の完成者なのですね。」
「まあね、皮肉だけど。だから名前がない。」

骸から視線をはずした。
自分の口から名前がない、というのは少し切ない。


「なら・・・僕達が付けてあげましょう。」

手をあごに当てて考え始める3人。

「俺が犬でケンらから、猫でミョウっていうのはどうれすか!?」
「却下。」

目を輝かせて言う犬にあたしは一蹴り。
猫って・・・兵器とあんまし変わんないジャン・・・。

やっぱり頭、悪かったんだね。
そこから、犬はしょぼんと落ち込んだけどすぐに新しい名前を考えて発表した。
でもどれもこれもセンスがなさ過ぎて呆れてしまう。

千種も、「めんどい」とか言い出して黙ってしまった。
・・・めんどいって何よ!


、というのはどうですか?」

ずっと考えたきり話さなかった骸がようやく口を開いた。
・・・?」

「それいいびょん!さんせー!」
「・・・良いと思う。」

犬と千種も
大きくうなずいてくれた。


「どうですか?気に入りませんか?」

フッと微笑む骸にあたしは抱きついた。二人は吃驚していたけれど、骸は少し嬉しそうだった。

「嬉しい!ありがとう、骸!ありがとう!けん、ちくさ!」

兵器1号という人間は死んだ。その代わりという名前で生まれ変わった。
名前というのは自分でつけるものじゃない、つけてもらうもの。


兵器1号でもなんでもない、あたしは







「マフィアは憎いですか?」

一緒に巣後会うようになってから数日が過ぎたある日、骸があたし達に問うた。

「・・・憎いどころじゃないびょん・・・。こんな体にした奴らを許せるはずねぇもん!」
珍しく怒りをあらわにした犬がそういう。
ぎゅっと握り締めたこぶし。力が入りすぎて、犬の長い爪が手のひらに食い込む。

「あたしも、憎くて仕方がないや。あたしのせいで、何人も死んじゃったもん。絶対に許さない。」

千種は黙って聞いているだけだった。きっと同じ気持ち。
それをきくと骸は静かに笑った。


「それなら・・・僕たちだけでもマフィアに復讐をしてやりましょう。」
「ふく、しゅう・・・?」

首をかしげる。

「そうです。マフィアを殲滅し、世界を血の海にしてやりませんか?」


「まふぃあの、せんめつ?」


「そうです。マフィアのせいで僕たちはこんなことになってしまった。
エストラーネオが僕たちにしてきたこと、見てみぬフリをしているマフィアたちも大勢居る。
僕たちを殺そうとしたマフィアも居る。
ならそのマフィアにも同じく悪夢をみせてあげましょう。
死んでいった仲間の仇を僕たちがとるべきではないですか?」

骸の目が真剣だ。
これはちゃんとした彼の「本心」である。


「それ、賛成。」

少し間をおいてあたしが言うと犬と千種も無言でうなずいた。


「憎きマフィアを一人残らず、殺してあげる。死んでも許してあげない。
地獄でもがき苦しむくらいに苦しめてあげる。」

あたしがそういうと、骸は満足気に笑った。


「それが成功するまであたしたちは一緒。裏切りは無しね。」


もちろん、と頷いたみんなを見て、あたしも満足気に笑った。




armaが消えた日


(初めての仲間)
(そして初めての名前)