建物の中は酷く荒れていて、しかも昼のくせに暗いしどう進めば良いのかもわけわかんない。 はしごがあって階段が潰されているのではしごを上ったりと、随分ヤンチャなことをさせてくれる。 きっとココは恭弥が通ったんだろう。彼のトンファーの餌食になったカス共が転がっている。それをあたしは当たり前に踏ん付けながら通るのだけど。 そういえば恭弥も探し出さないと。もし骸に負けたんならプライドずたずたに傷つけられてるんだろな。 これは当分あたしがストレス発散の相手しないといけなさそう。 Mi chiamo arma. ---それよりも、だ。 早く会いたい。 大切な、という名前をくれた幼馴染に。 もうすぐ会えると思えば胸がドキドキしてたまんない。 しばらく奥に進んでいると、一つの大きな部屋の前に出た。この部屋の中から二人の大きな気配を感じることができる。長い間会って無いし、しかも小さいときのことだから、これが誰の気配だ何てわかんないや。 ただ、心のどこかが懐かしがっているので幼馴染だということには絶対間違い無い。 たぶん、3人の気配が無いとすれば、欠けているのは千種だ。 千種は獄寺か何かにやられてしまったのだろう。 心臓がバクバクしてる。 本当あたしらしくないや。 たとえばヴァリアーの皆が成功率3%しかない任務をあたしが100%でしなきゃならないときだって全然緊張なんてしなかった。 パーティに潜入捜査に行き、誰にもわからないように暗殺するときも、危ない事だって今までたくさんあったけど、ここまで緊張することなんてなかったのに。 この壁の向こうに会いたかったヒトがいる。 そう思うだけで嬉しい。 足をゆっくり進めて、中に入った。 うっわ、殺気であふれてるジャン! 暗くて影しか見えないけど、確かにソコに“居る”のだ。 一人はソファに腰掛けて、もう一人は横に立っている。 彼らにしてみれば、あたしの顔しか見えてないと思うし並盛中学の生徒だからただの敵なんだろう。 まあ顔が見えてても成長もしたし名前も違うし・・・骸はともかく、ちょっとお馬鹿な犬にはあたしだとわかるはずも無いと思うけどね。 早く話がしたくて、顔が見たくて、声が聞きたくて、少し駆け足で彼らに近づくと一人の影が動いた。 「歓迎してやるびょん!」 ちょっと舌ッたらずな話かたはやっぱり犬だ。 すばやくこっちに向かってくるそのシルエットや、その4本足での走り方からしてもそう思える。狼チャンネルか何かかな? もう一人はやっぱり頭の形からして骸。 数歩手前であたしに飛び掛って(襲い掛かって?)きて、目の前でやっと表情が見えた。 だいぶ大きくなって大人っぽくなっていて・・・思い切り口をあけていた。首を噛み千切る気だ! 思い切り殺るき満々の犬なんかお構いなしで、あたしは嬉しくて「けん!」と名を呼んで首に手を回し、抱きついた。 的が外れたのか、犬が噛んだのはあたしの右肩。牙がすごく食い込んで痛かったけどそんなことは今はどうだって良い。 「けん、会いたかった!」 ちょっとやっぱり犬は犬と書くだけあって獣くさかったけど懐かしい以外にほかは無い。 「な、なななんらびょん!」 でもやっぱりお馬鹿だからまだあたしが誰かって気づいてないようだ。敵なのにいきなりあいたかったって言われて混乱しているみたい。バッ!と離れてあたしを見つめた。 ソファから骸が立ち上がり、ゆっくりとこっちに歩いてくる。 「どうしたのです、犬?」 犬の斜め後に立った彼の顔も、しっかりとココからは見える。髪型は相変わらずギザってて、オッドアイがキレイ。 だけど彼はあたしを不審者を見る目で見てくる。頭の中はあたしへの警戒でいっぱいだ。地獄道か何か発動しようとしてる・・・。 はあ、とため息をついてあたしも口を開く。 「ちょっとまってよ、久しぶりに会ったのにその警戒のしようは無いんじゃないの?」 あたしの言葉に、骸は眉間にしわを寄せる。犬は首を傾げて必死に思い出しているようだが、「」という名前に心当たりが無いようだ。 骸の目が静かに「一」に動いたのを感じたので威嚇するべく指を突き出し「話は最後まで聞きなよ」と言いながらいつかのアルコバレーノにしたように指先から鎌鼬を出し、骸の右頬を薄く傷つけた。 彼の地獄道発動を見破ったからか、彼の頬に傷をつけたからか・・・それともあたしのこの能力に見覚えがあるのか。理由はわからないけど二人の目が見開かれた。 「Mi chiamo arma. って言ったら・・・そのあからさまな警戒心解いてくれるのかしら。あたしの名付け親さん。」 Mi chiamo arma.とはイタリア語で「私の名前は兵器です。」という意味だ。 彼らの過去に、自分を兵器と名乗る女なんてあたししか居ないはず。アルマだなんて呼ばれていたのはあたししか居ないはず。 「、です、か・・・?」 骸は驚きで言葉にならないようだ。 「だよ。ちょっと日本に潜入してるから名前がになってるだけで。」 「―――!」 ぱっと犬を見ると目に涙をためてあたしに思い切りぎゅううと抱きついてきた。尻尾があったらたぶんブンブンと振ってるに違いない。 「すっげー、すっげー会いたかったんらからな!すっげー心配して、すっげー会いたかったんらから!」 抱きしめられるその力で気持はすごい伝わってきた。噛まれた肩が痛かったり伸びた爪が背中に食い込んだりしていたけど、うわああん!と泣きまくる犬を見るとどうでもよかった。 背中をポンポンとなでてやりつつ、犬の肩越しに居る骸と笑いあった。 「お久しぶりですね、。この度の無礼は許してください。」 そう苦笑いを浮かべるので、気にして無いよと言い返す。素直に許せるのはきっとあたしは彼らのことが好きだからだろう。 骸はあたしをエストラーネオから助けてくれた、生かしてくれた、名前をくれた。 大切な幼馴染なのだから。 「僕もずっとあなたが心配でしたよ。」 「あたしも心配してたよ。」 覚えていてくれたことや、泣くくらい喜んでくれたのはとても嬉しい。 ---でも、だ。 「犬、肩痛い。」 「・・・へ?」 慌ててあたしを放すと、右肩は真っ赤に染まっていて抱きついた犬にまでソレはもうべっとりとついていた。 「うぅ・・・ごめんらさい・・・。」 きゅうにしょんぼりする犬の頭をなでて、気にして無いよ、という。 本当この子、イヌみたい。犬みたいなイヌなら欲しいなあ・・・。 「いけませんね、すぐに手当てをしましょう。さあ、こっちへ。」 治療室でもあるのか、部屋に案内してくれる骸におとなしく着いていった。 その前にだ。 むくろ、とあたしが呼ぶと、彼が「なんですか?」と振り向き立ち止まる。顔には笑みが浮かべられていた。彼に近寄って、顔に手を近づける。ピクリと眉が動いたけど、気にすることは無い。傷跡に人差指を這わすと、それは跡形もなく消えた。 「あたしこそゴメン。」 「いいえ、大丈夫ですよ。」 そういい笑いあってまた移動を開始した。 移動中、犬は何かに気づいたらしく立ち止まった。 「骸さん、」 「えぇ、行って来なさい。」 骸もソレに気づいていたらしく、行くように命令した。 一瞬何のことかわからなかったけどすぐに、黒曜ヘルシーランドに入ってきた5つの気配に、なるほどね、と納得した。 やっぱり沢田たちも来たんだ。ビアンキまできてるジャン。 「犬、気をつけてね。」 「もちろんらびょん!、またあとで話そーな!」 そういってぴょんと飛びながら外に出て行った。 部屋の前につくと中から結構な量の気配が感じられた。 全く知らない奴ばかりだ。 骸が中を開けてくれ、どうぞといわれたので中に入るとやっぱり知らない人ばっかり。 ・・・3人くらい気持悪っ。 鳥乗っけてるじじぃに目が無い双子。骸もなんでこれを仲間に選んだんだろう。 寝台があってその上に千種が寝ていた。 なんとなく火薬のにおいが混じってるから、やっぱりさっきの商店街で獄寺と対峙したのは千種だったんだ。 うわあ、身長伸びたなあ・・・。 「なんなのよー骸ちゃん、この女!」 ちょっとあたしを見て嫌そうに言う。あぁ、多分このこ骸が好きなんだな。 「この人は僕の大切な幼馴染ですよ。」 横に立っている骸はクフフ・・・と笑って片手をあたしの腰にまわした。 体が密着するけれど、全然嫌だとか思わない。 「あなたたちマフィア関係の脱獄犯なんでしょ?じゃあエストラーネオの最初で最後の人間兵器だと言えばわかるんじゃない?あたしのこと。」 皆の表情がピクリと動き、arma.01のことについて過去に1度でも聞いた事でもあるのか、何か言いたそうだったけれど骸が「それよりも早く傷の手当てを。」と言い、手を引いて奥の小部屋に入りあたしの肩の治療を進めた。 いま、彼が横に立っているのがなんだか信じられない。 本当,嘘みたい! (でも、やっぱりその笑い方は治ってないのね。) (クフフ・・・って・・・。ねぇ?) |