「すいまっせんしたー!」


野球部の部室のソファーにあたしは足を組み、ふんぞり返って座っている。下に落ちてた硬式の野球ボールが3つあり、ジャグリングで球を遊ばせつつ床で土下座する安仁屋にこういう。

「え、なんて言ったのー?全然聞こえなーい」

安仁屋はいい加減にしろよ、と言いたそうに顔を思い切り引きつらせ、もう一度「すんませんでした、ねー!」という。安仁屋の後ろで気を付け!の姿勢で立たせている他9人もイライラしてるようだ。

「っつーか、お前転校早々いきなり安仁屋に土下座させてんじゃねーよ。」
「最初は女だと思って何も言わなかったけどさあ。」
「やりすぎだにゃあ〜」

髪の毛が長めでオールバックのひげが特徴的な男の子と、ドレッドの子と顔は可愛いけど言葉遣いも可愛い男の子がそういう。

「ふふふ!」

ジャグリングしてた手を止め、球を全部彼らに向かって思い切り投げつけると、ちょうどオールバック、ドレッド、猫言葉の3人の顔すれすれに飛んで行き更に壁に練りこんだ。

それを見たハーフっぽい人意外は一瞬固まって顔を青くさせ全員あたしに向かって声をそろえて言う。

「調子乗ってすいませんでしたーー!」

90度に腰を折って深々と謝罪する。さっきのハーフ君はつまらなさそうにあたしを睨んでる。

「ようし!頭をあげぇい!」あたしがそういうと皆頭を上げた。

「もっかい言うけどあたしの名前は熊井!クマって呼んだらぶっ殺すからね。まあ、兄貴がクマって呼ばれてんだけどまじでクマみたいだからさ、なんか嫌なんだよ。熊と一緒にされるの。野球部の皆は特別にちゃんって呼ぶことを許してやろう!」

「熊って言うかもう猛獣じゃね?」
「お、おい!」
リーゼントに髭の男がそういって横に居た髪二色な男がヤバいと思ったのか止めに入りそれでリーゼント髭が「やべっ!」と慌てて口を押さえて顔を引きつらせた。
いまさら後悔しても遅いのにね。
あたしは彼に笑みを向けると、腕を差し出し、一見握手に見せて向こうが手を差し出すのを待つ。
「え、握手?」
向こうが手を握った瞬間にあたしはそのまま後ろ向いて相手の腕を上向け肩に担ぎ思い切りその腕を斜め下に引っ張った。

「いててててて!」
「はい、あたしに何か言うことは?」
「ごごめんなさあい!」
「よろしい。」

あたしはこの男の腕を解放した。もう回りは皆ドン引きだ。でも、めげません!

「腕挫十字固というプロレス技なのよね!あたしむちゃくちゃレパートリー多いから!・・・で、早速だけどみんなの名前教えてよ。あたしアニの名前しか知らない!」

「ア、アニ?」
「もしかして、俺?」

安仁屋が自分を指差してあたしに引きつった顔でそういう。

「そっ!あたし皆と同じ呼び方で呼ぶの嫌なの!さぁ、Let's☆自己紹介タイム!」

なんでそうなんだよ・・・。と皆ため息を吐いてるメンバーにあたしは早く!と促す。


「あ、俺、御子柴徹・・・よろしく。」

「よろしくミコちゃん!へーえ!こんなキャラ濃い集団に唯一のまともな人間ジャン!これは貴重だね!はい、次!モヒカン!」

「は?俺?ああ、関川秀太。好きに呼んでくれよ。よろしくな!」
こいつ、結構友好的じゃん!
「じゃ、セッキーって呼ぶね!じゃあ次はー、そこの君!」
ビシっと指差すと「俺?!」と言い、自己紹介をはじめた。

「桧山清起。・・・よろしく?」
「何で疑問系?うーん、あんたはあだ名ヒヤーマンでいいや。いや、ヒャーマンにすることにした!じゃ、次!」

「俺は湯舟哲郎だにゃあ!」
「え、ネコ?ま、顔と合ってるし可愛いから許す。てつにゃんって呼ぶね!」
あたしがそういったらてつにゃんは少し顔をゆがめた。(え、嫌だった?)

「ま、いっか。じゃ、つぎ〜」
「岡田優也。ま、クラスの女子全員地味だし。つまんなかったからさ。よかったよ。」
岡田はそういって友好的な笑みを浮かべた。
「え、まじで!?そう言われたら前の学校で問題起こしてよかったよ!」
「・・・いや、それは、」
誰かがそう呟いたのを放っておいて、次!と促した。

「若菜智哉・・・。」
ちょっと不機嫌そうだ。
「まあまあそんな照れなくても!若旦那!」
「照れてねえよ!っつーか若旦那って何だよ!」
「え、若菜、の間に“だん”って入れたら若旦那ジャン。」
あたしがそういうと若旦那はため息を吐いた。あ、コイツに何言っても無駄だって顔してる?失礼な。

はっはっはと笑って次行こうか!と流す。

「今岡忍ってゆうんだ、よろしく!」
よろしく今やん!といい、その横を見るとあたしのこと猛獣扱いした奴が居た。
「俺様は、「んー・・・あんたは自己紹介良いや。遠慮しとく。」
「え、まじで!?」
「うん。敵だから。」
「え゙、まじで!?」
「まじで。」

そんなあ!といってるのは放っておいて隣を見た。(こいつはパシリにしよう。)

「君は?」
「新庄。」


え、会話終了?まあいいや。徐々に友情を深めていけば下の名前も教えてくれるはず!

「ま、あたし、野球部入ることにしよっかな!」

立ち上がって伸びをしながらそういうと、皆は声を合わせて「えぇ!?」と言った。何その反応。

「だってさ、あたしクラスの連中と仲良くできる自信ないよ。あたしってさ、正直不良ッつーかギャルっつーかヤンキーじゃん?中学の時からこんなんでさあ!」
「へ、へえ。」
自分でヤンキーって言ったからか、少し引かれたようだ。いや、だってしょうがないじゃん!事実だもん!
中学時代、アッシュブラウンに、紫色のエクステをつけていたあの時代。
あたしのこと知らない大人なんかは通りすがりなんかに「いまどきの若い子は」ってよく言ってたっけ。

「・・・お前、桜中学の道田って知ってるか?」

お!いきなり今まで全然話さなかった新庄がそういった。
「道田?そりゃあ、あたし桜中学だもん、知ってるよ。ミッチーとかゆうあだなのキモイ女でしょ?それが?」
桜中学といえばあたしの中学だ。
道田、といえば中学時代、隣のクラスだったあたしのライバルの女子だ。(あたしが3年B組、道田はC組)
ライバル、というか向こうもあたしのこと嫌いだしあたしも向こうが嫌いだ。
まあ桜中学の頭争いでだいぶもめた。

懐かしいな!いつかの昼休み、道田に呼ばれて屋上に行けば道田のクラス全員に囲まれ、ハメられ、中学生のクセに謹慎になった事もあった。
ま、あたしは当時から今の安仁屋達のような高校生の不良ばっかを喧嘩の対象としてたから高校生の間では有名でも中学生の不良間では有名じゃなかった。

道田は、中学生だけ相手にしてたような女だから、中学生不良の中で桜中の頭は道田、ということになってて「熊井?だれそれ」的な感じで・・・。

なんだか圧倒的に桜中学の支配力はあたしのほうが上なのに!なんで道田が有名なの!って悔しい思いしてたっけ。

「いやあ、桜中学の頭って女って話し聞いててさ。俺の中学の女子の頭も泣かされてたぜ。道田って女に。」
「珍しいよにゃあん!女は女、男は男で頭がいる学校なら結構あるけど、頭が女だけって言う中学も!」
「そぉいや道田って名前は結構聞くなあ・・。女が頭って理由で桜中学って有名ジャン。」

岡田、湯船、若菜のその話を聞いて笑った。
やっぱ、彼らの中では道田が頭なんだ。むっかっつっくー!

確かに、男の頭って言うのは居なかったかも?あたし、男さえも支配してたからなあ・・・。
でも多分、あたしが皆とつるんでたからあるいみ3Bが全体で頭みたいな部分もあったっけ。

「でもさ、まじうけんだけど!あの、ぶっちゃけ桜中学の頭は入学当時からあたしなんだよね!」

「は?聞いた話と違うじゃん。熊井なんてしらねえよ。」

「道田は、ただの不良気取りだよ。中学生ばっか相手して。だから中学のヤンキー同士の中では桜中学は道田が有名だったの。でも、本当の頭はあたし!なんであたしが有名じゃないかは簡単な話、高校生専門だったから。」

「え、どーゆーこと?」

「だから、あたしが頭だったけど、あたしは高校生との喧嘩専門だったから高校生の間で有名だったわけ!」

そう説明しても、この男達は「へーえ。」とかなんか、微妙な反応。もしかして嘘だとか思ってるわけ?
そういえばこいつら、慎ちゃんのこと知ってるのかしら?

「沢田慎知ってる?」

あたしが聞くと、若菜が「あれじゃん、伝説の白金3年D組!」と言うと全員が肯定した。安仁屋なんて笑いながら、奴らを知らねえ奴いねえんじゃねえの、とか言い出す。そういわれるとなんだか嬉しい!一応、伝説の3Dには兄貴が居て、兄貴的存在の人が居る。

「じゃあ、熊井輝夫は?」

「ああ、もちろん知ってるぜ!あれだろ、同じ3Dで沢田慎の幼馴染の熊井て・・え、」

皆がいっせいにあたしのほうを見た。皆顔をピクピク引きつらせている。パシリの平塚なんて持ってたお茶を下に落とした。
たぶん、その表情を言葉にするなら、「もしかして・・・」が正解だ!

「あたしの6歳年上の兄貴、熊井輝夫」

ニヤっと笑ってみると、全員顔を青くした。きっと顔も見たこと無いんだろうけどなあ。やっぱ有名だもんなア。あたしも友達の兄貴が実は嶋大輔とか言われたら失神すると思うよ。
「ちなみに、兄貴はマジ熊みたいな存在感だからよろしく!更に言えば、黒銀の矢吹・小田切もあたしが中学時代からのツレ。しかも毎日連絡取るくらい仲いいよ。」

「「「「「げえ!」」」」」

余計に顔引きつったぜこいつら!あ、ちなみに黒銀の矢吹隼人、小田切竜、とは、慎ちゃんが高校卒業した3年後に慎ちゃんと同じくらい有名になった黒銀学院という高校の不良クラスの頭。第2の沢田慎、と呼ばれるほど有名だった。
ちなみに熊井ラーメンの常連で、兄貴と担任が同じだった。(しかも担任の実家やくざだったんだって!)

まあでもそこまでビックリしなくても!と思いつつ、あたしも友達の兄貴が嶋さんで更に友達に竹内力とか相川翔がいたらめんたま飛び出るよ。


「周りがあんなだからあたしも中学校からかなりのヤンチャでさ!って、そんなことはどうでも良いの!まあ・・・あたしが言いたいことは、仲間は大切にするし、裏切らない。悪いことも大好きだし、女々しすぎないし、喧嘩も強いし、本当に通さないといけない筋は通す。ってことで、あたしの居場所きっとここしかないんだと思うんだ!あんた達とつるんだら絶対楽しいって本能がそういってるのさベイベー!だからあたしを君らの仲間に入れてちょんまげ!」

あたしがそういうと、一気に部室はしーんとしたが、安仁屋と目が合うとニッっと笑って新庄のほうを見た。安仁屋と目を合わせた新庄も初めてやわらかく笑った気がした。
そして、なんだか皆が微笑んだ気がして。


新庄があたしを見てこういった。


ま、いーんじゃねーの?


(ってことで!一発ヤらせろ!)(安仁屋だけはまじで天に召されれば良いってあたしは思うよ。)