が四番隊に運ばれてから、5日が経った。 なんとか峠もこえ、集中治療室から普通の病室にうつされたのも今日の朝のことだ。 それでも彼女は目を覚まさない。少しも動かない。 ![]() あれからの処理は大変だった。 まずの家から恋次の家までの道のりに大量の血痕。酷いのが恋次の部屋の前。 最初に見つけたのが女性死神だったらしく、思わず悲鳴を上げた。 その女性死神は部屋に恋次の霊圧が感じられないし、中を見ても誰も居なかったので恋次の身に何かあったんじゃないかと思い朽木白哉に報告した。 白哉は出勤時間通りに浮かない顔であったが無傷の恋次にどういうことか問いただしたところが暗殺者に襲われたことを言った。 そして、すぐに総隊長により隊長・副隊長が集められて緊急会議が開かれた。 あつめられたほかの隊長副隊長は何事か全然解っていないようで、「めんどくさい」といったような顔をしている。 「日番谷君。」 「なんだよ。」 居心地が悪そうに京楽が日番谷に話しかける。 「お宅の乱菊ちゃんと言いうちの七緒ちゃんと言い・・・なんか暗くない?」 「ああ・・・何かあったな。見ろ、檜佐木に阿散井まで死んだような顔だ。」 乱菊に七緒は珍しく泣きはらしたような顔。 阿散井と檜佐木は浮かない表情。 こころなしか十一番隊の草鹿もだ。 二人は首を傾げるしかなかった。 そして山本の声で会議が始まるのだった。 「ここに集まってもらったのはほかでもない。十一番隊四席ののことじゃ。」 ・・・?ああ、松本の親友の。 日番谷はあまり関わりは無かったものの、自分の副隊長の親友だったことを思い出した。 「山じい、ちゃんがどうかしたのかい?あー、昨日睡眠不足かなんかで倒れちゃったんだよね〜。」 ね?と七緒や乱菊に返事を求めるが、あからさまに目をそらしうつむいて何も言わない。 ---。 いつも明るくて、ニコニコ笑ってる印象だ。 もちろん市丸のような不気味な笑みではなく、楽しそうなのだ。 十一番隊4席という実力をもち、誰にも媚びたり見下したりしない性格。 乱菊が色気担当、七緒が知的担当だとしたらは元気担当、といったところか。 そんな彼女の性格は皆から好かれていたし、少なくともここに居る皆はあのマユリでさえに対して好印象を持っていた。 恋次と別れたという噂はすぐに死神間で広まったっけ。 「がどないしたん?なんかあったん?」 ギンは乱菊つながりでと仲がよく、昔はよくどこかへ連れて行ってあげたりしていた記憶がある。 彼が聞いても山本は何も答えようとはしない。 その代わりに、更木に視線を送りソレに気づいた本人は舌打ちをして口を開いた。 「・・・明け方未明、何者かに襲われ重症だ。」 その言葉に、事情を知らない死神は耳を疑った。 事情を知るものは顔を暗くした。 「・・・なんやて?」 「じゅう、しょう・・・?」 市丸の重たい声が響き、吉良が復唱する。 「あぁ。重症というよりも瀕死、危篤のほうが合ってるだろうけどなあ。」 もう一度ちっと舌打ちした更木に、どういうことかあまりよく知らない様子の山本は詳しく話せという。 「朝方阿散井から地獄蝶飛んできてよ。四番隊行ったら危篤だと。 検出された猛毒と、大量の出血で体がショック起こして一回死んだんだよ。心臓止まりやがったが・・・さすが十一番隊だぜ。根性あるからギリギリ生き返ってよ。 今も意識不明だが・・・絶対あいつは良くなる。深く鎖結と魄睡が深く傷ついてて霊力が極端に弱ってるらしいがな。」 乱菊と七緒に、恋次に修兵が暗い顔をしている理由がわかった気がした。 「とにかく、の目が覚めてから話を進めよう。 の部屋に何か敵の有力な情報があるかもしれん。更木よ、調査に当たれ。」 山本がそういい、隊首会が終わった。 そして、の部屋に向かった更木とやちる、そしてあの日いた弓親に一角も付いてきて、乱菊も行くと言い出し・・・すると日番谷も付いてきたわけだ。 恋次の部屋からの部屋までは血痕が残っている。 距離が距離だけに、量もたいしたものだ。 血痕の除去は十一番隊の部下に任せた。 の家に近づくにつれ、血痕の量が多くなっていっている。 「かなりの出血量だな・・・。」 日番谷が呟く。 ドアの前に立つと、皆一呼吸をついた。 「あけるぞ。」 更木は一言そういい、ドアを開ける。 あけた瞬間に感じたのは血のにおい。思わずむせ返りそうだ。 そして入った瞬間思わず息をするのを忘れるほどむごいグロテスクな光景が目に入る。 日番谷の眉間のしわも深くなった。 「なによ、これ・・・」 部屋中は乾ききってない血の海。 カーテンもテーブルも、服も花も布団も全て真っ赤。 を運んだときのキレイな面影はもう無い。 そして、こと切れている例の暗殺者の死体が7体。 生首が落ちていたり、ずたずただったり。 虚とは違う、生身の人間の無残な死体だ。 嘔吐感に襲われたがぐっとこらえ調査に入る。 解ったことは、暗殺者が尸魂界でも有名な集団だということだけ。 とにかくその日から調査が始まった、というのがあれからの話。 そして今日、が病室に移されたと知った乱菊、やちる、一角に弓親に修兵はお見舞いに来ていた。 彼女達だけではなく、を良く知るものもちょくちょくと来るようになった。 顔色は随分良くなったし、苦しそうな感じもなくなり皆は安心したんだけど、やっぱり目を覚まさない。 「、お願いだから起きてってば・・・。」 そういっての手を握った乱菊は呟く。 手は、ほんのりと暖かく、少し冷たかった。 「ちゃん、あたしに心配かけないって言ったじゃんかあ」 「本当それよね、・・・馬鹿。こんな姿、あんたには似合わないわよ。」 やちると七緒も呟く。 「いい加減起きろよ、まじでよ。」 「皆心配してるっつーのに。」 「本当美しくないね。起きたら仕事5倍だからね。」 そう言葉を残してまた俯いた。 しばらく病室で様子を見ていたが変化もなく,時間もなくなったのでそのまま部屋を出た。 の指がピクリと動いたのも気づかずに。 □□□ 死んでから(?)何日が経ったのかな? まだそれほどたってないのかもしれないけど、少なくとも5日はたってるはずだ。 一番最初に声が聞こえてから時間を置いて何度も何度も聞こえるようになった。 声が聞こえて怖くて逃げて、そして聞こえなくなれば休憩したり、また声が聞こえて怖くって走ったり。 それを随分の時間繰り返した。 走っても走っても、何かから逃れることは出来ない。 きっと日単位で何かから逃げ続けている。 暗闇で周りが見えなくて、それだけでも怖いって言うのに。 東仙隊長は一体どんな気持で今まで生きてきたのか少し解る。 追いかけてくる声に逃げていると急に光に包まれ、体が投げ出された。 「痛たたた、」 暗闇に数日間居たものだから目が慣れていなくてとっさに目を瞑る。 すぐに光が収まりうっすら目を開けると、殺風景な砂漠地帯のようなところに一人立っており、ふと後を振り返れば見たことも無い川が前にあった。 大きく広い。歩いてわたるのも困難だろうか? いや、無理をすればわたれるかもしれない。 向こう岸にはこっち方面みたいな砂漠と違って凄く綺麗な景色が広がっている。 (えっ、?) よく目を凝らすと向こう岸に一人の見知った男が立っていた。 幻覚だろうが何だろうが二度と逢うこと無いはずの彼見て胸がいっぱいになった。 「海燕、どのっ!」 久しぶりに会った海燕殿は、変わらない雰囲気だった。 嬉しさで胸がいっぱいになる。 言うことがほとんどむちゃくちゃで、がさつで・・・だけど全ての言葉で元気が出る。 80年くらい前の死神になったばかりの頃・・・確か今の日番谷隊長と同じくらいの年齢だったあたしはそんな兄のような父のような海燕殿があたしは大好きで。 だが、そこに死んだはずの海燕殿がいるということは。 これはきっと三途の川と呼ばれるもので。 もしかして、あたしまだ死んでなかったの? そっか、これからあたし死んじゃうんだ。 ・・・ってことはあたし本体は今昏睡状態か何か? この川を渡れば楽になれるんだよね。 早速渡ろうと右足を浸けた。冷たくって気持が良い。 海燕殿をみると必死であたしに何かを言っているようだった。 全然聞こえないので歩みを進める。 真ん中辺りに来たくらいだろうか?やっと海燕殿の声が聞こえる。 「!お前まだこっちにくんな!」 彼の言葉に思わず立ち尽くす。 「どうして?」 あたしが問うと、海燕殿はため息を付いて話し出す。 「いいか?お前はまだこっちに来るべきじゃない。そんな後悔だらけでこっちくんなよ。ほら、戻れ。」 「後悔なんてして無いもん!あたしは死ぬ!」 「嘘つけ!いいか?良く聞け。お前はまだやりたいことがあるだろ?やらなけりゃいけねえことたくさんあるだろ!心から死ぬことを望んだか?望んでねぇだろ。本当は生きたいって顔してるじゃねぇか!なのに・・・お前死んでどうすんだよ。もう二度と戻れねえんだぞ?」 「かいえん、どの」 「だから。お前はこっちに来るべきじゃない。お前が来ると言っても絶対来させない。だから戻るんだ尸魂界に。自分の体に!」 海燕殿の必死な顔に言葉が出ない。 「、お願いだから起きてってば・・・。」 「ちゃん、あたしに心配かけないって言ったじゃんかあ」 「本当それよね、・・・馬鹿。こんな姿、あんたには似合わないわよ。」 「いい加減起きろよ、まじでよ。」 「皆心配してるっつーのに。」 「本当美しくないね。起きたら仕事5倍だからね。」 ほら、誰かいっぱい追ってくる。 この前よりも声の種類が多くなっているのは気のせいじゃないと思う。 ほんとう、何・・・? 「海燕殿、あたし誰かに追われてて、だから、そっちに行かないと!」 「馬鹿やろう。これは追いかけてるんじゃなくてお前を求めてる奴の声だ!こんなそいつらはお前を必要としてくれてんだぞ?こんなにもたくさん。それでも死を望むのか?」 みんな、なんで? もう尸魂界ではあたしなんか必要無いと思ってるのに! だってあたし我侭だし、可愛げ無いし、いたずらばっかりしてたし・・・。 「いいか?確かに、お前はちょっと我侭かもしれない。 でも皆お前のこと迷惑だなんて思ってねえ。皆お前が好きな奴ばっかりだぜ。もちろん俺もお前が大切だ。」 そんな言葉はもう耳に入らない。そんなの嘘よ、 海燕殿の言葉を無視して急いで対岸に近づこうと足を進めるが中々渡れない。 彼の必死で止める声も聞かずにやっとほとんど渡り終え、あとは陸に上がるだけ。 ・・・というときにいきなり川の水が増し、濁流に飲み込まれた。 「!」 (溺れる・・・!) 次第に息が出来なくなってしまい意識が遠のく。 三途の川、わたってるときに死ぬってどうなるの? Next |