濁流に飲み込まれ、一気に世界が変わった。
より現実的なものに。

今まで感じなかった暖かさを全身で感じる。
どういう状況か全く把握できず。

無意識的に目を開けるとこれでもかというくらい光が差し込んだ。
それも懐かしいような、安心でききるような・・・そんな感じ。


あれ、溺れて行き着いた先は地獄・・・?
それとも海燕殿が助けてくれたの?





ボーっとした頭。
本当、此処は何処なんだろう?説明してほしい。

「いっ!」

起き上がろうと思って体を動かせば刺すような、引きちぎられるようなそんな痛みが背中を襲った。え、やっぱ地獄なわけ?鬼みたいなのにシバかれ中?


さん!気が付かれましたか!?」


何か聞こえる、声のような音のような。
神経というか感覚が鈍ってるせいかな?なんだろ、これ。
視界もうっすらとぼやけている。

働かない頭で必死に考えて考えていると、、急に目の前に山田花太郎の顔がドアップ。
さすがにソコまで近づかれたら誰かわかるよあたしも。

「もしもし、さん!しっかりしてください!」

花太郎、なんだか凄い焦ってるなあ!でも何言ってるんだろう?音は大きく聞こえるけど言葉が聞き取れない。
感覚戻るまで待ってくれても良いんじゃない?

「良かった!本当に良かった!!!!!」


泣きながらあたしの首に抱きついたけど、痛いぞコノヤロー。
でも、思うように声出ないし動けないから抵抗できない。


そんなんだからドジばっかなんだよ。
怪我人に抱きついたり普通しないよ?


だから花太郎はダメなんだ。


花太郎は・・・。







――――――は?





なんで花太郎?意味わかんない!

あたしは死んだはずじゃなかったの・・・?海燕殿にも会ったし会話をした!
死んでも良いやって思って川に足も踏み入れたし。

「生・・きてる、の?」

声は上手く出ずにかすれた。
腕をピクリと動かそうとしても、やっぱり肩が痛かった。



「はい?さん5日も目覚まさなかったんですよ!?本当に心配したんですから!」

あたしに抱きつきながら耳元で言ったので今度は言葉を理解できた。
それでも一語一語理解するのに大変だったが、小さく「そう、」と返事をすると花太郎にも聞こえたらしくあたしから離れた。


さっきよりも感覚が戻ってきたらしく、目を動かすと四番隊の病室であることがわかった。

布団をかぶっているけど、肩が寒い。多分上半身包帯ぐるぐる巻きなんだろうな。
夏でよかった。

5日間眠っていたといえど、声を出そうとすると、ズキリと傷が痛むのでよほど酷い怪我だったのかな?
少しあの夜を思い出すと吐き気がする。
ずたずたに切り刻まれたからだ、刺された肩にお腹、殴られた顔。・・・なんとなく私は全身包帯だらけだということはわかる。



目が覚めたということで卯ノ花隊長を呼び、来るのを待つ間に花太郎にいろいろなことをきかされた。

物凄い血相をした恋次運んできてくれたこと。
もう少しくるのが遅ければ死んでいたこと。
一度心臓が止まったことや仲の良い死神が駆けつけてくれていたこと。
傷がもう少し深ければ、死神に戻れなかったことや後遺症で動けなくなっていたこと。


花太郎曰く、あたしは物凄く運が良い、と。
もっと弱い人なら絶対死んでたらしく、一番の戦闘部隊である十一番隊で良かったと心から思ったのである。
・・・ただ、この背中の傷も何回も開いた肩の傷も一生消えないらしい。

まだ意識が朦朧としているが、花太郎はゆっくりと耳元で話してくれるので聞き取れて理解もできる。


運が良いのか悪いのか。
確実にあたしはあの世に行くところまで行っただ。本当ギリギリまで死に掛けていた。

もしあの時違う方法で川を渡っていたのならば、今こうやって花太郎と言葉を交わすことも無かっただろう。
あ、そうか!あのとき聞こえたあたしを呼ぶ声はきっと皆が!


でも、変な形で生きているなら一層のこと死んでしまったほうが楽だったのに。


頭はボーっとしていて、まぶたが重い。

目が覚めたからと言ってまだ危ない状態から抜け出したわけじゃないらしい。
それを聞いて、もう一度寝れば次こそ楽になれるかもしれないと思うと自ら寝ようとする。
重たいまぶたを閉じる。


なのにその瞬間戸が開く音がして目を開ける。
半開きだからか知らないけれど焦点が合わないからやっぱり目を閉じる。
朝の明るさに目が慣れていない。


「どうだい?の様子は。」
「まだ目を覚まさねえのか?」
「もう起きても良いんじゃないの?」


いいテンポで声が聞こえた。耳鳴りが激しくて、これが誰かなんて区別がつけることはできないけど、霊圧でなんとなくわかる。
顔を動かすことが出来ないのでみることも出来ない。


「あ!ちょうどいいところに!なんと丁度さっき目を覚まされたのですよ。」


誰の声だっけ、花太郎はわかるんだけど。早く耳鳴り収まらないかな。
考えてるうちに聞こえてきた凄い足音。


「っ!目がさめたかい?!」
「おい、しっかりしろ!」
「あたしのこと、覚えてる?!」


聞こえた声に一気に頭が痛くなった気がした。
そんな耳元で叫ばないでよ、本当あたしの友達って落ち着き無い奴ばっかだなあ、本当。
でも、すごく嬉しかった。あたしが目が覚めるのを待っててくれたんだって、本当に感じる。


目を開けるとぼんやりと浮かび上がってくる三人の顔。
いっかく、ゆみちか、らんぎく、と呟く。
思ったよりも声は小さく掠れたために声が届いたかはどうかわからないが、皆の表情が変わったために聞こえてよかったとおもい微笑んだ。




!よかった、生きてて!」

と、乱菊は涙を浮かべてあたしの枕元に顔を近づけた。
また、仕事サボってるの?と小さく言えば「馬鹿・・・!」と涙声が返ってきて、枕元に顔をうずめて盛大に泣き始めた。
こんなに帰りを待っててくれた人が居たんだ、死んだほうがマシって思ってしまったあたし、さいていだ。

ごめんね、心配かけて・・・と呟くと
「あぁ?心配なんてしてねえってーの。お前があんなんで死ぬわけねえだろ。」
「そうだよ、美しくない死に方なんて、には似合わない。」
「心配したんだからね!仕事全然手につかなかった!」

と、それぞれらしい言葉が返ってきた。
・・・乱菊が仕事手につかないのはいつものことだと思うんだけど、突っ込む元気はない。



「さっそく皆に報告するか?」
「待ちなさい、斑目三席。」

次は病室に卯ノ花隊長が入ってきて、さっそく目覚めたのことを報告しようとする一角を止めた。

「今連絡しても、四席の体に負担がかかります。わかりますね?」
「そそ、そうですね、」

真っ黒な笑みを浮かべられるともうなにも言い返せはしない。
それに逆らえばよりひどい目に合わされるに違いないと想い素直に頷いた。

「ですが、更木隊長には報告してあげてください。あと、そうですね。更木隊長となら入室を許可しましょう。くれぐれも忘れないでください。四席はまだ安定していないということを。」

黒くなく、優しい微笑で卯ノ花はいう。
きっとの復帰を一番待っていたのは更木だと思ったのだろう。




少しだけ戻った思考力で、出来ることなら今は一人にして欲しいと願うが、泣いてる乱菊や嬉しそうな一角と弓親を見ると声にならなかった。