明け方近く、一角の部屋に一匹の地獄蝶が舞い込んだ。



昨夜、店内で倒れたを部屋まで運んだ後、京楽隊長とイヅルは明日も早いから、と帰っていった。
七緒も帰ろうと思ったのだが、乱菊が放してはくれなかったみたいで結局残るハメになってしまい、 乱菊、七緒、一角、弓親は、修兵は、の部屋から1番近い一角の部屋で続きをしようということになり彼の部屋へ行くことに。

「楽しそうじゃねぇか。」

偶然出会った更木とやちるも参加することになり、どんちゃん騒ぎを起こし部屋の中は荒れに荒れ、酒の臭いで充満し、本当に隊長副隊長クラスの人間かと疑いたくなるほどだ。

やちる以外は酔いつぶれてそのまま自室へ帰ることなく寝てしまった。

これが地獄蝶が舞い込む3時間ほど前のことだ。





地獄蝶の気配を察し、全員がうっすらと目をあけた。

外はほんのり明るくなっており、午前6時前、といったところだろうか。
「あら、もうこんな時間!」
「やっべえ・・・飲みすぎたぜ」
舞い込んだ地獄蝶よりもそっちに意識が行く乱菊たち。

「こんな時間に舞い込むなんて、寝ぼけてるのかい?」
弓親がそう行って、蝶が止まるための指を差し出すがひらりとすり抜けて更木のところに止まった。
せっかく自分が指を差し出したのにとまらないなんて、「美しくない。」
そうつぶやいたと同時くらいに音声が再生しはじめたのだろうかジジ、と機械音がする。

『十一番隊、』

聞こえてきたのは切羽の詰まったような恋次の声だ。
心なしか声が震えているようにも思える。
思わず全員が地獄蝶注目したが、同時に十一番隊、で一度途切れたため皆が首をかしげた。
しかしすぐに続きが流れた。

『十一番隊、4席・・・が現在危篤状態です。至急四番隊に来てください!』


その言葉に全員が目を見開きそのまま固まった。
そこに居たほとんどのものが「意味が解らない」と言葉が最後まで頭に入らなかった、というのが事実だが。

「行くぞ」

珍しく少し焦った剣八が立ち上がり、やちるを肩に乗せそのこにいたもの皆が後に続いた。



「危篤ってどういうことよ、あの時眠ってたんじゃないの・・・?」

乱菊の声はあからさまに震えていた。

確かに店内で倒れたときは眠っていたんだけど。
もしかして、あれは眠っていたんじゃなくて既に危篤状態だったんじゃ・・・?
それとも、例の暗殺者が?
どうしてそれに気づけなかったのか。
どうして放って酒を飲みに行ったりなんてしたのか。

などなど、責めたり悔やんだり、いろいろな考えが皆の頭に浮かぶ。


「大丈夫。ちゃんは死なないよ。ちゃんは。」


皆の心を察してか、やちるが静かに言った。





地獄蝶を飛ばした後、しばらくしてが集中治療室という部屋へ移された。
手術は成功したと見て良いのか?わからない。

容態については更木が来てから説明するらしい。

その集中治療室は廊下から中が見えるように、壁の真ん中から上はガラスになっていた。
ガラスの少し向こうにが寝てる。ガラスの側で目を伏せる恋次との距離は約2mくらいだろうか。
側には数人の看護婦が付き添っていた。
入っても良いといわれた。でも入る勇気も、ガラスの向こうで横たわるを生で直視する勇気すら恋次にはなかった。

集中治療室を見てしまうと自分が自分でいられなくなってしまう気がしたのか、恋次は四番隊の病棟入り口まで更木を迎えに行くことにした。


階段を下りているときに、下から良く見知った連中が上ってきた。

「恋次!」

我を失いそうなくらい焦っている乱菊と七緒を筆頭に更木をはじめ一角、弓親、檜佐木など。
地獄蝶を送っていないので、居るはずの無い死神がそろっていた。
恋次の側まで来たときに皆から酒の匂いが漂っていたことから朝まで飲み明かしていたから居合わせたんだと悟る。

「阿散井。は。」
更木が恋次を見下ろす。
「こっちっす。」

珍しく更木の霊圧が揺れていることに気づいた恋次は慌てて案内した。


「この部屋です。」

ガラスを指差すと乱菊と七緒はそっちに駆け、ガラスに手をくっつけて中を見たが、少し先に居る親友の酷い姿に言葉も出ず、二人の目に涙が溜まっていくのがわかる。

二人の横に皆が並ぶが反応は人それぞれ。
更木とやちるは無言でを見つめ、弓親は信じられない、と顔をしかめる。
檜佐木や一角は辛そうに目をそらした。

ガラスの向こうには確かにが寝ている。

顔は真っ青、ピクリとも動かない。
頭や上半身ほとんどが包帯で巻かれ、顔には無数の切り傷と酸素マスク。
腕には点滴が刺さっており、体中に名前もわからない機械が繋がれている。

普通よりもゆっくり脈打つ心電図のみが生きていることを証明している。

「おい恋次、アイツに何があった。」

更木がまっすぐを見たまま恋次にそう聞く。
恋次はゆっくりと、全てを話し出した。

「俺が、俺がもっと早く気づいてたら・・・!」
そういいぎゅっとこぶしを握り締めた。

「そんな落ち込むな恋次。俺らだって・・・ちゃんと部屋にいてやればこんなことにはならなかった。」
一角が恋次の肩に手を乗せる。

「そうだよレンレン、ちゃんは絶対に元気になる。ちゃんもレンレンを絶対に責めてたりはしないよ。」

更木の肩に乗ったやちるがぴょんと飛び降りて今にも爪が手のひらを裂きそうな恋次の握りこぶしを両手で包み、ゆっくりと開いた。

恋次の話を全てを聞き終わった後、乱菊もを狙う暗殺者のことを、事情を知らない更木とやちると恋次に言った。

「あいつも俺に言えば良いものの・・・。」
更木はぼそっとつぶやいた。

十一番隊は喧嘩で死ぬのが本望で、それをとやかく言うものはいない。
なのに、いざこうやってが死にそうなときは、それを撤回するかのように彼女の生を望んだ。

更木にとっては娘当然の存在だった、
やちるにとっては姉当然の存在だった、
一角や弓親や修兵にとっては妹当然の存在だった、
七緒や乱菊にとって大事な友達当然の存在だった、
恋次にとっては―――。




□□□




あたし今まで十一番隊に入れてよかった。
皆と会えたこと本当に嬉しく思うよ。
戦ってこれたこと誇りに思ってる。


これ以上、何も望んじゃいけない。



本当は皆から離れたく無いって言うのが本音だけど。
あたしがいれば、迷惑かけちゃうから、ね。



廊下汚したし、部屋も汚した。

七緒や乱菊に変な心配かけて気遣わせてしまったし。
寝てる一角の頭に落書きしたし
弓親のエクステ引っ張ってしまった。
更木隊長の髪の毛引っ張ったし
やちるのお菓子食べちゃったこともあるもん。

それだけじゃない!
阿近の角抜こうとしたし
花太郎やリンを男かどうか確かめようとしたことも
ギンちゃんの目無理やりこじ開けようとしたし

とりあえず怒られるようなことばっかりして皆の迷惑ばかりかけた。
だから迷惑の元がいなくなれば、喜んでくれるんじゃないかな。





一角、嫌な奴だったけど、凄く良い奴で。
乱菊、最初に出来た女友達で恋次に片思い中背中を押してくれた最高の友達。
七緒、しっかりしたお姉さんで、ダメなものはダメとちゃんと叱ってくれる最高の友達。
弓親、お兄ちゃんみたいに優しくて面倒見てくれた仲間で。
修兵、何かといつも気にかけてくれて、いろいろ相談にも乗ってくれた良い友達。
やちる、かわいい妹のような、あたしの癒しだった。
更木隊長、怖い顔だけどあたしを子供のように思ってくれた。






あたしなんかを仲間と思ってくれて

「ありがと、皆」




――――さようなら。


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