ある日のことだ。 「おう!手合わせしないか?」 弓親と一緒にやってきた一角に言われたが本当は乗り気じゃないけど書類整理ばかりじゃ体がなまると思い承諾した。 「いいよ。絶対負けないんだからね。」 ![]() 鍛錬用の浅打を構えて向かい合う。十一番隊の皆が見守る中それは始められた。 自分で言うのもなんだけどあたしも一角に匹敵するくらいの実力者だ。ほぼ互角に戦っている。 ―――だが。 はもう数日か一睡もしてない。 それを周りに感じさせずに明るく振舞ってきたが、やはり限度と言うものがある。 次の瞬間、頭がふらっと眩暈を起こし膝がカクンとなり、崩れ落ちる。 すでにの目は開いていない。 しかし、タイミングが悪いことに、ちょうど一角が技を仕掛けているときで思いきり浅打を振っているし、今更止められそうも無い。 「!避けろ!」 そんな言葉が遠くに聞こえた気がしたが すでに眠気のおかげで意識は飛んでいて避けれるはずも無い。 しかし次の瞬間その眠気も吹っ飛ぶほどの痛みが腹にきた。 眩暈のおかげで避けるにも避けれずもろに浅打が腹に入り思いきり窓を突き破り吹っ飛んでしまった。 咳き込んで咽ているところに皆が駆け付けた。 「大丈夫か?!おい、しっかりしろ!」 既に意識がしっかり戻っていたので返事を返し、弓親に差し出された手につかまり立ち上がる。 「最近たるんでるなー・・・」と無意識につぶやく。 今日こそは飲み会を断って10時間以上寝てやる、と心に誓ったのだけどその日も寝ることは許されなかった。 一睡も出来ないままさらに3日が過ぎだ。無睡眠状態が合計一週間。 きつすぎる。 恋次とをみても「ああ、眠たい」としか思わなくなったのも確かだ。 こんしーらという現世の化粧品でもくまが隠しきれなくなってきた。 頭に何も入ってこなくって空回り状態。 やちるにのしかかられては地面にひれ伏しかけるし、言われたことも頭に入らないし失敗を続けている。 でもまわりには頼りたくないから、誰にも言わなかった。 昼間は鍛錬、誰もやんない執務。書類整理。夜は暗殺者とにらめっこ。寝る暇など一切ない。いつ体が壊れるか心配だ。 虚退治任務が無いだけまだマシなんだけど、もしいまそんな任務が来たら即死できる覚悟がある。 どんなんだよ。 さらに寝ずに8日目の朝。 鏡に映った自分を見て驚いた。クマは酷く目は充血しきっている。 朝食は抜いた。最近は食が進まなく、食べる時間よりも寝る時間がほしいと思う。まあムリなんだけど。 今日は乱菊に飲みに誘われ、知らないうちに行くと返事していたみたいで・・・断るに断りきれず無理やり連れてこられた。 ま京楽隊長も珍しく参加するとのことで断らなくてよかったと思うんだけど。 個室満席。 たまたま近くに座っている恋次とのことも気になって仕方が無い。 近くというかあたし達が座ってる横のテーブルだ。 あたし達が今日座ってるテーブルの椅子は4人がけで左からイヅル、七緒、乱菊、あたしがいて、テーブルを挟んでイヅルの前から順番に京楽隊長、一角、弓親、修兵だ。 何が言いたいのかというと、恋次たちがいる横のテーブルというのはイヅルや京楽隊長のいる側にある方ではなく、あたしがいる方に居る。 横に、その前に恋次。魔の三角関係だ、とか思ってるのはあたしだけなんだろう。距離が近い! ちょっと視線を横向ければ目が合ってしまいそうで怖い。 「最近目のクマが酷いわよ?ちゃんと寝ているの?」 乱菊に何かあたしに言っていたのでウン、と答える。まあ完璧なる嘘なんだけど。 言葉も頭に入ってこないくらいやられているのかもしれない。 誰かの言葉なんて聞こえるだけで頭で理解すら出来ていない状態だ。 精神的にも肉体にも限界で。 冷たい水を飲んで少しだけ思考回路をうごかす。 コップに入っている水がなくなったので立ち上がり 「ちょっと、」 水もらってくるといおうとしたのだけれど頭の中で流れただけで言葉には出来なかった。 そのまま視界がぐらっと揺らいで完全シャットアウトされたのだ。 コップの割れる音が店内に響き渡り、一気に静まり返った。 が倒れた。 水もらうんなら俺の分も、と彼女にコップを差し出そうとしていた修兵がいち早く異変に気づき地面に付く一寸前に抱きとめた。 「おい、?」 「きゃああしっかりしてええ!」 修兵が声をかけ乱菊がヒステリックのように叫びだす。 「どうしたんだい、一体・・・!」 同じテーブルにいた皆が立ち上がりを覗き込んだ。 「こいつ・・・寝てんじゃねえか?」 はスヤスヤと寝息をたてて眠っている。皆安心したように緊張が解けたが暗殺者のことを知ってる皆の頭にはそれぞれこの前話していた暗殺者のことがよぎった。 そこまで深刻に悩まされていたなんて。 そういえば彼女が倒れた瞬間、恋次が慌てて立ち上がろうとしたがそれをぐっと抑えたということは、誰も知らない。 □□□ 殺気で目が覚めた。やっぱり相手はあたしを寝かしてはくれないらしい! 「ちぇっ、」 どうやらあの時あたしが倒れた(寝た?)らしくその後自室に運ばれたらしい。 わずかに皆の例圧が残っていることからちょっとしか経ってないんだろう。 枕元に乱菊からの「あんた明日は非番になったからゆっくり寝なさい!」という書置きに笑ってしまう。 まだまだ寝たりなくてあくびが出るというのに!窓の外の暗殺者さんはソレを許してはくれない。 ひしひしと感じる殺気にどことなく違和感を感じるのは何故? いつもと何かが違う。何が、とまではわかんないけど。 嫌な汗をかいている。本能が危ないといっているのかなあ。 腰にさしてあった斬魄刀に手をかけ構える。 今日はいつもと何が違う?そうだ、人が数人増えている。いつもは2,3人だったのに倍、もしくはそれ以上の霊圧の種類を感じる。 (こりゃあさすがに、やばいなあ・・・。) 緊張が張り詰めたときに窓の外から短剣のもっと小さいのが飛んできた。窓が割れて粉々になる。 これが手裏剣というんだろうかなどと壁に刺さったそれをみてのんきに考えるが、また飛んできたそれに暗殺者へ意識を向け直す。 ついに暗殺者達が動き出したのか。 さっきからよけたり弾き落としたりしてるけど次から次へと飛んでくる。 すると、急に重い霊圧があたしに近づいたとおもえば後ろに気配を感じ慌てて振り向くと、一人の男が真後ろにいた。 今にも振り下ろされそうな刀を自分の斬魄刀で防いだけど一振りがかなり重たく腕が痺れる。 一角たちと良い勝負かもしれない。 なんとか交わすが今のあたしにはこれが限界! 普段ならもうちょっと大丈夫かもしれないけどなんせ寝ていないこの体ではこれ以上力が出ない。 頭も回らないしもう最悪としか言いようが無い。 こいつらきっとこれを狙っていたな。 「ちょっ!あたしが何したって言うのよ。もう!」 そしてさらに外にいた数人が部屋に入ってきてあたしに攻撃を開始してきた。 かなりすばやい。 後ろから飛んでくる手裏剣も放っておけない。そう思ったときには手遅れだった。 目の前の敵に気を取られすぎたのが原因だ。 完治したばかりの腕に鋭い痛みを感じ、パッと見ると手裏剣が一本生えている。血が滴り落ちて、部屋が汚れた。 「つっ・・・。」 鍔迫り合いとなっていたけど腕の力が少し抜け窓のほうに押される。 月明かりで暗殺者の顔が良く見えるが、物凄い血相をしていて改めて怖い思いをする。 急に目の前の暗殺者に降り注ぐ月明かりに影が出来た。 その暗殺者はあたしの後方を見て「遅かったな。」と一言。一瞬ゾクっと嫌な予感がした。 なぜなら窓の外から物凄い殺気を感じるから。 「悪いな。」と、後ろから声が聞こえた。 チラッと後を見ると窓枠にしゃがんで片手に短剣を持つ男が1名。 いろんな気配が混じって察知に遅れた。なんと後ろにもう一人、暗殺者の仲間が来たのだ。 後ろから剣を振りかざす音が聞こえ本気で危ないと思い、前の敵の刀をめいいっぱい押し返すと攻撃をはじき返すことができ、何とか両方からの攻撃を避けた。 全部で5人だけどなかなか強いために手こずるのは仕方ない。 応援を呼ぶべきと判断したのでとにかくこの部屋から逃げようとするが瞬歩でいきなりあたしの目の前に現れた敵が首めがけて刀を振ったので慌ててよける。 今の攻撃を避けて無かったら首は飛んでいたと思うとゾッとする。 伝令神機すら取りに行けないぞ、これでは。 誰か、誰か、あたしの霊圧の揺れに気づいて! 斬魄刀を始解しようと思ったんだけど何故か出来なかった。 「今気づいたか?始解できないよう、結界を張ってある。鬼道も使えん。」 そしてさらに絶望の一言も聞かされる。 「ちなみに霊圧を漏らさないからな。誰も助けには来んぞ。お前は無様に死んでいくのだ。」 最悪だ。 一度体勢を立て直そうと、敵と距離をとり改めて部屋を見渡し言葉を失った。 さっきまでいた人数は5人だったはず。なのに相手が7人に増えていた。 きっと隊長格並の実力を持っているはずだ。もちろん勘。 もうダメかもしんない。こんな弱音なんか隊長に絶対いえないけど。 勝つ自信なんて全然無いし、むしろ死ぬ覚悟は出来たって感じ。 でもあたしを信じるしかない。 護廷13隊最強部隊更木隊で5本指に入る強さ。 そんなあたしがたかがこんなどこの暗殺者かわかんない7人相手に殺されるわけには行かないんだって。 よし、思い込め、普通の虚だって思い込むしか無いんだ! そう思うと少し力が戻ってきた気がしてやっとのことで一人の首をはねる。 やばいな、それでもやっぱり押され気味。 腹くくるか。 まだ死にたくないけど――― まだやりたいこと沢山あったのに――― 精神的に弱っていたためにもうすっかり諦めるほうに落ちていた。 この暗殺者たち思ってるよりも強い。一人を払いのけたら他の奴が攻撃しかけてくる。 怒涛の嵐のように次から次へと攻撃が続いてこの無睡眠の体では本当にきつい。 なんとか攻撃をかわしつつ居たが、大事なときなのに1人と鍔迫り合いになる。 1人だけに構ってられないっつーのに。こんな状況で誰かに攻撃食らったら絶対によけきれない。 前の敵の刀を弾き返すのに必死になる。 だから、まさか後で刀を振りかざしているなんて気づきもしないんだ。 ヒュッと耳元で何か振りかざす音が聞こえた。 でもそれに気付いたときには遅くて右肩に何かが刺さった。 「くっ、ああ!!」 息が思い切り詰まった。右肩が物凄く痛く、剣が刺さったことが解る。 そのままいたぶるようにゆっくり斜めにおろしていく。 あまりの痛さに叫び、思わず斬魄刀を落としてしまった。 そして朦朧とした意識の中で斬魄刀を拾いその場は回避するけどまた鍔迫り合いになってしまう。 払いのける力もなく押されているとさっきと同じような痛みが次は左肩から。 見事・・。本当うっとうしくらい見事に背中にx印を作られた。 自分の背中だから見えないけど、血が大量に噴出したことはわかる。 じわっと吹き出る嫌な感触。 液体が肌を伝い服にしみこみ足に伝い床に落ちる。 なんか、息がまともに出来ない。 息を吸い込むたびに肺の辺りが震えてのどでひっひっと音が鳴る。 意識が吹っ飛びそうなんだけど必死に保つ。 ここで意識がなくなればとても楽になれるんだろうけどなくなってはくれなかった。 どうせなら一発で楽にしてくれたら良いのに。 斬魄刀が弾き飛ばされ体力が力尽きて床に倒れこむ。立つ力さえも残っていない。 もう、そろそろ終わってしまうんだろうか。 Next |