それから三週間程。何も変わらずいつも通り過ごしていた。
この時くらいから何かが変わり始めていた。

恋次とさんが一緒に楽しそうに歩いているのを見ても
泣きたくなるほど辛くなくなったというものか。
以前は顔を見つけるだけで涙目になりそうなのをぐっとこらえたりしていたけど、今では耐えれるようになった。
目をそらせばそれだけでいくらかはマシになる。








傷もほぼ完治に近づき鍛錬もし始め、何も変わることはなかった。

隊ではやちるのお世話したり、鍛錬して汗をかいて溜まった書類を弓親とする。
終われば乱菊や七緒と合流し飲みに行ったり、修兵を誘ってみたり・・・時には京楽隊長まで来たり、と。

慣れというのは本当に怖い。
少し前までは彼が隣にいることが当たり前だったのに。
彼があたしの側にいなくたって、今日は終わって明日が来る。
ただあなたがいないだけ、それだけ。




今日は女性死神協会の集まりがあったので、乱菊と七緒だけじゃなく、勇音や砕蜂隊長も加わり夜遅くまで飲み明かした。
店の閉店とともに皆のいる十一番隊隊舎とは離れた自室に戻り風呂に入ってそろそろ寝よう、と布団にもぐりこむ。
ウトウトし始めた頃に窓の外からわずかな霊圧と、ソレに勝るほど強い殺気を感じた。


思わず立ちあがり枕元に置いている斬魄刀を取る。
緊張感を張り詰めてその殺気のある方向を睨む。

「だ、誰!出てきなさいよ!」

こちらも殺気を当てると向こうの影がわずかにゆれた。
瞬歩を使っていきなりこられても困るのでより一層集中力を高める。
人数は、2,3人だ。
黒い影が動いたと思えば殺気と共に霊圧は消えてしまった。

首をかしげた。
あの霊圧はあたしの知っている人じゃない。
抑えてるにしても、それほど強いようには思えないし・・・。

あの殺気を誰に向けられたかは解らない。
声が聞こえないから言い争いでは無いし
もしかすると不審者がいて刑軍がやちゃってる最中かもしれないし。

もしかすると暗殺者が十一番隊の誰かを狙っているのかもしれない。
隊長、やちる、一角、弓親、そのほかの誰か。

喧嘩っ早く反感も買いやすいうちの隊だからまあ・・・もしかすると誰か狙われてるかもしれない。
でも十一番隊を狙うこと自体無謀だと思うんだけどね・・・

あたしまで殺気当てるのは辞めてほしいよね。
どっちにしろきっと皆気づいてるはずだ。あたしも早く気付いて良かった。
一応警戒しておくことにこしたことはない。

その日はもう殺気を感じることは無かったので、すぐ眠りにつくことが出来た。




□□□



「殺気?んなもの感じなかったが・・・?」

昨日のことを早速一角に言うと、わからない、と言う顔をされた。
あれ?とずっこけそうな気分。あの殺気に気づかなかった?
結構な大きさのさっきだったと思うんだけど。

「じゃあ、誰宛てだろう?なんか2,3人居た気がするんだけど?」

「弓親じゃね?俺最近虚討伐も行ってねえし目立った事はしてねえ。恨み買うようなことしてねぇし。」

あぁ確かに!と頷く。
弓親はけっこうすぐに相手を「君は醜い」というのでもしかするとソレに恨みを持った人が居て・・・?


早速弓親のところへ行くことにした。





「なんだい?そんなもの全然感じなかったさ。」

そんな夜中に忍んで誰かを殺すなんて・・・醜いやり方だね。
そうサラッと流して書類整理に戻っていった。

あっれー・・・?あたしの間違いなのかな。
なにかこう、精神的にやられて幻覚見てたりして。

――自分でいって自分で悲しくなったよ。
その日、乱菊達と飲みに行った時話してみても誰も何も感じなかった、と。

皆、気のせいじゃない?と口をそろえて言うもんだから、気のせいってことで良いや。
本当、昨日は久しぶりに女だけで飲みに行ってはしゃいでたから酔ってたしね。



・・・という事にしておきたかったのに、その日の夜も寝かけたときにフッと殺気を感じた。
今日はあんまり飲んで無いし冷静を保っている状態だ。

なのに昨日と同じ気配を感じる。むしろ昨日よりも殺気が強く感じられる。
やっぱり気のせいじゃないことに気付いて背筋が凍りそうだ。
きっとこれはどこか隠密集団の暗殺者だ。それもベテランの。

いつ動くかわからない動きと、こっちが一人なので少し怖く思える。
あたしだけ部屋が皆とはなれたところだから不安は大きい。

いつもなら恋次が同じ部屋に居てくれたのに―――
もう、一人だから、これも誰かに頼れない。

「君臨者よ! 血肉の仮面・万象・・・」

少し脅してみようと大きな声で破道を詠唱してみると一瞬で気配が消えた。
もちろんこんなとこで鬼道を使う気は無い。

・・・正直この続きが思い出せない。これくらいなら詠唱破棄だからね。
ま、十一番隊である以上、鬼道になんかに頼らないのがモットーだから必要ないんだけど。

それにしても・・・

(誰狙いなのよ、マジで。)

完全に奴らの気配が消えると、緊張がほぐれたのか眠気が襲い、また布団にもぐりこんだ。


だけど、2時間程度だろうか?それくらい経った時また殺気に気がついた。
夢見ていたのにそれでも目がさめるほど解る殺気。

本当に一角たちは何も感じないのだろうか?
おかしい。


「もう、寝てるときにまで邪魔しないでよ!疲れてんのに。」

小さく「破道の四・白雷」と唱えて相手が居るであろう場所に放った。
すると見事掠ったらしく少しだけ声が聞こえ、奴らは逃げ、殺気も消えた。


眠気は飛んでしまい、その日は三時間しか寝れなくて寝不足だった。


寝不足はあたしにはきつくって、鍛錬にも力が入らないし仕事では眠さマックス!
文字を読めば読むほど焦点が合わない。


お昼休憩の時間になりやっと文字がいっぱいに並んでいる書類から開放され、グーッと伸びをする。
いつもどおり乱菊が誘いに来て食堂へ向かう。七緒は隊長の側にいるために昼食は別行動だ。

今日は珍しく修兵と吉良も一緒に座った。

最近では一角や弓親は何かとちょっかいを出してきたのでいつも乱菊も含めと4人で食べているようなもんだったけれど、修兵や吉良いたってはいつも恋次と一緒に居ることが多かったので一緒に食べるのは珍しかった。
・・・きっと、が居るから気遣っているんだろう。


それはともかくかなり眠たい。
箸を進めずにあくびばっかりしていることに乱菊が気づく 。
「んもう、ッたらさっきからあくびばっかりして!」
「なんだ?全然食ってねぇじゃねぇか。」
あたしの横に座っていた修兵が皿の中を指差して言う。
「あ、ほんと!体調でも悪いの?」

「いや、違うんだって。今日3時間も寝て無いんだよね、やっぱ昨日言ってた事気のせいじゃなくてさ〜。」
「昨日言ってたこと?」
首をかしげた吉良と修兵。そうか、この二人は知らないんだっけ。
知らない二人のために一から全て説明した。


「ね。いったい誰狙いだと思う?」

「うーん・・・」

皆で考えてみるが結局何も答えが出ずに休憩が終わってしまったのだ。








こんな会話から更に一週間が経つ。

最初の頃はまだよかった。最低2回は殺気を感じていた頃は。

最近になってからは本当に最悪だ。
夜になるとずーっと殺気を感じる。どこかへ消えることが無いのだ。
張り詰めた緊張の中で一睡も出来ない状態が続いた。

性質が悪い。
何が悪いかといえばやりかたかな。夜中ずーっとあたしを見張っている。
だからもう殺してしまおうと斬魄刀に手を伸ばした瞬間、跡形もなくどこかへ消えるのだ。
そして寝ようとすれば戻ってくる。瞬歩でいきなり不意打ちしてやろうと思ってもさすがはプロ。
瞬歩をした瞬間にソレに気づき消えている。


ね、寝れない。


いい加減睡眠不足で鍛錬にも影響が出だす。
日に日になんとなくクマが酷くなってやつれていくのが目に見えてわかるんだけど誰にも心配かけたくないし、持っていた化粧品で隠していた。
そんな状況でもいつも元気に笑っていたので周りも気付かなかった。

時間とともに暗殺者の話はしなくなったので誰が狙われているとかそんな情報はもう入ってくることもなかったが、なんとなくあたしが狙われているような気がした。
今更掘り返すのも気が引けるしいざとなれば何が何でも殺せば良い。更木隊の根性。




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