とにかく謝らないと!
まだ完治していないせいで少しだけ痛む肩を押さえて走る。


少し探るとすぐにわかる恋次の霊圧。
六番隊隊舎の奥にある庭だ。





許してくれるかな、くれないかな。
口聞いてくれそうになかったら縛道かけちゃえ。

「あれ・・・?」
庭に近づいたときに、もう1つの霊圧を感じたために足を止め、隊舎の陰に隠れた。


「恋次さん!」
「あ?なんだよ。じゃねぇか。」
「ちょっと、いいでしょうか?」
「あぁ、もう仕事始まるからちょっとだけなら良いぜ。」
聞こえてきた二人の声に、胸が高鳴る。

もうひとつの声は例のって子。彼女も今ココに来たばかりみたい。
そっと覗くと木陰に座ってる恋次の後ろから近づいて話しかけていた。
こちらからはってこの後姿と木にもたれかかる恋次の後姿。
表情などは一切伺えない。

「・・・。」

一言も話そうとしない2人のあいだには少し緊張感があった。
あたしは恋次の彼女なんだから、別にこんなコソコソ隠れてないでその場に行っても良いと思うけれど、何故か今は入ってはいけない気がしたので一寸の間見守ることにした。
けれどなんだろう、この胸騒ぎ。

ふと頭に、いつかの女性死神協会の恋バナをしてたときの乱菊言葉がよぎる。

―――ちょっと、聞いたんだけど六番隊の四席。だっけ?どうらや恋次にお熱らしいじゃない!気をつけなさいよ!
―――えっ!まじ!?

結構前だったのに鮮明に思い出される。

彼女がここで言うであろう言葉。どうにかとめてほしい。
時間が止まってほしい、むしろ20分ほど前に戻してほしい。

残念ながらそんな能力はない。


「私、前からずっと、恋次さんのこと・・・想っていました。」

心臓は破裂しそうなほどドキドキして止まらない。
あたしが告白したわけでも、されたわけでも無いのに、どきどきしてる。

やっぱり、やっぱりその話だったか、なんでこのタイミングで言っちゃうの?
・・・お願い、早く断ってよ、

「あー・・・悪ぃな、ちょっと時間やべえし今返事できねえ。」

本当に申し訳なさそうな声が聞こえた。
けれども、胸に突っかかること気持ちは何?

今は返事できないって何?どうして、直ぐに断ってくれないの?
やっぱり、あたしのこと嫌いになっちゃった・・・?


頭の中でいろんな想いがぐるぐるとまわって、立ち尽くしていると
「ごめんなさいっ、いきなり言われても困りますよね、・・・失礼します。」
「あ、ちょ、おい!」
女の言ったその言葉で我に返り、こっちに向ってきたのが例圧で感じられ、とっさに逃げようとしたけど間に合わなくって。
女と目が合った。

「あっ、」
「えっ、」

さんは、かなり驚いていた。

・・・。」

後ろから歩いてきた恋次とも目が合ったが、もう怒った様子は無くてただ驚いている感じだった。


「ごっ、ごめんね!取り込み中だったね、」

出てきた言葉はこれだ。
・・・なんでよりによってこれ?

震えた足をどうにかして動かし、その場から離れようとすると、恋次があたしを追いかけようとした。

!ちょっと待て!」

なのであたしは瞬歩を使ってその場を離れたが、腹部の傷も痛み出し、早く使えなかったのですぐに恋次に追いつかれてしまった。


「待てっつってんだろーが。」
「痛いッ!!!」

たまたま掴まれた腕が、怪我してるほうだったので物凄く痛みが走った。

「あ、わりい。」

恋次はとっさに謝ったけどあたしは腕を振り払ってすぐ後ろ向いた。
きっと今恋次の顔を見ると泣いてしまうから。

「・・・よかったじゃない、あんな可愛い子に想われてて。恋次、本当はあたしなんかよりあの子が良いんでしょ?」
「はあ!?ちょ、お前こっち向け!」

そういってまたこっち向かそうと反対の腕を掴んだが、それも振り払った。

「何で直ぐ断ってくれなかったの?・・・もう嫌いになっちゃった?あたしのこと。」

「馬鹿かお前!あれはなあ!」
「恋次にあたしなんか似合わないよね、あたしみたいな可愛いげも何も無い女は!
知ってる!?そうみんな言ってるんだから!
って女は阿散井副隊長に釣り合わない!彼はのほうがお似合いだ』って・・!
最初は気にしてなかったけど・・どうして皆そんなこと言うんだろうね、
恋次もさ、本当のこといってよ!本当は、あたしみたいな女にウンザリしてるんでしょ?!」

恋次の言葉をさえぎり、勢いに任せて怒鳴りつけた。

「こんな女、仕方なく付き合って後悔してるんでしょ?!
本当はあの子みたいな女の子と付き合いたいって思ってるんでしょ?!
別にムリしなくても良」

ムリしなくても良い、と言おうとしたのだけどソレを遮るようにあたしの腕を掴み恋次のほうに振り向かされたと思いきや、乾いた音が聞こえた。

ハッとしたときにはあたしはさっきまで立ってたところよりも1mくらい違う場所に座り込んでいた。

ヒリヒリする頬に触れてやっと状況を把握できた。
思いきり頬をひっぱたかれていまったようだ。

恋次の霊圧が重くのしかかる。ココまで怒らせたのは初めてだったとおもう。
目が、本気で冷たく感じる。



「お前は・・・、お前はそんなことばっかり気にしてたのかよ!あぁ?俺のこと信じてなかったのかよ!?周りばっか気にしやがって俺の気持は全部無視か?!」


あたしは恋次の顔を見ることは出来なかった。こんなに怒った恋次は見たことなく、すこし恐怖心で震えた。

少しの沈黙があったけれど、とても重たく顔も上げることが出来ない。


「・・・もう、俺達終わりだな。」

こういう結果のほうが良い、だなんて少しだけ思っていたのに。
その少しのためにどうしようもないくらいの巨大な悲しみが襲った。

「信用の無い2人が続けていくのはムリだろ。
これからは同じ死神として頑張ろうぜ。じゃ。」



そういい彼は去っていった。


「うぅ、ひっく、」

彼の背中が見えなくなると次は涙で世界がにじんだ。
きっと、これで良かったんだ。確信は無い。
彼には幸せになってもらいたいもの。


まわりにも、お似合いだって言ってもらえるような彼女見つけるほうが、きっと、いい。


これでよかった、きっと。
よかったはずなのに涙が止まってくれない。

「うぇ、ふっ、」


これはきっと良くないんだ、だから泣いちゃうんだ。
嗚咽が止まらなくなってきた。こうさせたのはあたしなのに!

体中の力が抜けてしまって土の上に寝転がった。
座るのもしんどい。

肩とおなかがズキズキする。
(傷、開いちゃったな。)
そっと腹部の傷口に手をやるとヌメッとした嫌な感触がする。


頭の中で今日1日のことがぐるぐると駆け巡る。
恋次は、あたしを解ろうとしてくれた。
普段はあんなに短気なのに、様子がおかしいあたしをわかろうとしてくれた。

ちゃんと愛してくれていた。

―――なのにあたしは何言った?


思えば思うほど後悔ばっかりして悲しくなってきてまた涙があふれる。



「あれ・・・?!さん!どうされたんですか!?」

花太郎が通りかかったらしくあわてて四番隊へ運ばれた。
途中で意識を失ったので卯ノ花隊長がどんな顔をしていたかはわからない。


Next