「お前、誰だかしらねぇけど俺の病室に来て何やってんだよ。俺が誰だかわかってんのか?」

まるであたしを知らない人を見るような口調的に平隊員と話すような、そんな目で見てきて更ににらまれてしまった。
それはまぎれもなくあたしと目が合ってる事からあたしに言ってるんだよ、ね?

「れ、恋次、それ・・・本気?」

体は固まったままだけど、何とか口は動かす。
半分笑いながら言ったけどもう半分は引きつってると思う。
ずっと、ずーーーっと、まだあたし達が一人前じゃなった大人でも子供でもない頃から一緒に居たからわかるんだよ、その目が威嚇してることくらい。
いやでも解っちゃうな、一緒に居すぎてわかっちゃうんだってば。なのになんでその目をあたしに向けてるの?このあたしに。


「おい、吉良に雛森!何勝手にこんな奴入れてるんだよ。」
少し霊圧をあげた。やばい、怒ってる。

こんな奴って、あたしのことその怒りの相手は?あたし?
うそ、でしょ?

怒られるようなことして無いよ、ずっと恋次の側にいたくて看病して早く良くなってって・・・!
そう願って、ぬくもりに触れたくて手を握ってただけじゃん。
起きたら「心配かけないでよね!」ってちょっとおこって、任務お疲れ様って言って笑い合えると思ってたのに、どうしてこうなるの?

桃とイヅルもまさかの出来事に声にもならないようだ。

「っつーかお前が何処の隊かしらねぇけど俺は副隊長だぜ?呼び捨てはねぇんじゃねぇ?」

彼から発する言葉一つ一つが理解できない。視線に含まれる感情が理解できない、全て意味が解らない。
あたしが何番隊かも、覚えてないの?どういうこと?

頭の中で整理できずにいろいろな言葉や想いがぐるぐる回っている。

(・・・記憶喪失?)

まさか!そんな作り話みたいなことがあってたまるものか!
そう思いたかったけど、頭に巻かれた包帯を見てもしかするともしかして、と思ってしまう。
嫌な予感だらけだよ。

最近変わった虚が出ているらしいし、そのせいかもしれない。

嫌な予感っていうのは、当たるものだと皆が言うからこの胸騒ぎもきっと当たっているのかもね。
さっき彼の口から口朽木さんの名前が出たことや、間違いなく怒りを向けられたこと。

記憶喪失にしてもそうじゃなくても全てが信じられない。
一度卯ノ花隊長に調べてもらったほうが良いかもしれない・・・。



仕舞いには
「俺の横に居ていいのはお前なんかじゃねえよ!さっさと出て行け!」と怒鳴られ突き飛ばされて椅子から落ちそうになったところをイヅルが瞬時に反応して支えてくれた。

ちゃん!・・・阿散井君!酷いよ!」
桃が怒る声も耳に届かない。

どうして、あたしに・・・そんなこというの?
もしかしていきなり嫌いになっちゃったの?横に居ていいのは誰?・・・朽木さんならいいの?
いや、違う、彼の横に居ていいのはあたしだけなのに!



やばい、泣きそう、



「阿散井くん、正気か?!君はさんに何を言ってるのかわ、」
わかってるのか!イヅルがそういおうとしたが、あたしが立ち上がって制した。

「失礼いたしました阿散井副隊長。この無礼をお許しください。」


あたしはそう言いしっかり頭を下げて誰の顔も見ずにあわてて病室を出た。

桃があたしを追おうとしたが、その反応をさせる前にドアを閉めて四番隊から出て瞬歩で恋次と一緒に住んでた家に戻った。
扉を閉め、そのままもたれかかり足の力が抜けてしまいその場で崩れた。

視界がにじんでしまっている。
震えるまぶたを瞬きをすれば溜まった涙がこぼれて頬が濡れて、それが引き金になったのか涙が止まらない。


いまだに信じれなくって心臓がドキドキしてる。
パニック状態だ。

「なんで・・・?」


まさか自分の恋人がこんなことになるなんて思わなかった。
あたしには、あんなに優しかったのに!


さっきの目つき、言葉、態度・・・お願いだから誰か悪夢だって言ってよ!
あたしたち物心付いたときから一緒だったじゃん!

やだなあ、あたし達40年以上恋人じゃん、婚約者じゃん!
なんで1番側に居た、あんなに分かり合ったあたしのことだけ忘れてるのかな?

なんで朽木さんのことは覚えてるのかな?他の人のことは覚えてるの?にあたしだけ・・・?
どうして目を覚まして朽木さんの名前が先に出るの?

記憶を失った恋次が好きなのは朽木さんってこと?


じゃあ来月の結婚はどうなるの?あたしは恋次以外なんていらないのに!
恋次以外の人なんて考えられないのに!

今までずっと幸せだったから罰が当たったの?
恋次と一緒に居て不幸なんて感じたことズットなかった。

最初は朽木さんの存在が気になってたけどそんな不安を吹き飛ばすくらい恋次は愛してくれてから。
だから毎日が幸せで、一度も、一瞬たりとも恋次への愛を欠いたりはしなかったのに!

やっぱり幸せすぎたのがいけなかったの?
あたしに罰が当たるとすればソレくらいしか思い当たらないや・・・。


涙が少し収まって部屋の中を見る。
(もしかしてこのまま恋次の記憶が戻らなかったら・・・あたし、この部屋出て行かないといけないの?)

この部屋には思い出がいっぱいある。

一緒に同棲してたのはたったの一週間だったけど、それ以前に毎日のように通っていたこの部屋にはいろいろな思い出が詰まってるのに。
結婚して、子供が出来て、もしかすると喧嘩だってあるかもしれないけどそれも全部乗り越えていって・・・。

その夢はどうなっちゃうんだろ?

この部屋だけじゃなくて十番隊にあるあたしの部屋も、二人の思い出は数え切れないほど詰まっている。

だけどさっきの様子だと恋次はきっと一つも記憶に残ってない?
話した内容も、大切な記念日も、思い出すら何一つ覚えていない?


色違いの歯ブラシに、一緒に寝て何度も愛し合ったベッドに、一緒にご飯を食べたテーブル、一緒に入ったオフロ。
もしかすると、もう「一緒に」が出来ないかもしれない?


いや、でも記憶喪失だって決まったわけじゃない。卯ノ花隊長が直接言ったわけじゃない。
あたしがそう思ってしまっただけで、一時的なものかもしれないじゃん。
だからこんな考えはやめなくちゃ。

絶対また「」って微笑みながら名前呼んでくれるから。だいじょうぶ、だよね?




彼はもうすぐ退院して今日はそのまま帰ってくるだろうから晩御飯を作ることにした。
彼の好きなものばかりを用意して待とう。




□□□

料理を作ってる間も不安は消えなかった。もし、帰ってきてもあたしのことを忘れてしまっていたら・・・。
そのときは一度彼とはちゃんと話がしたい。

あたしはあなたの恋人であり婚約者であること。40年間ズット愛し合ってきたなかなのだと。



料理が出来上がり彼の帰りを待った。

ひざに顔を埋めて目を瞑り、いろいろと考える。

帰ってきてほしいけど、会うのも正直怖い。
もし突っぱねられたらどうすればいいのかな?

わかんないや、


すると、恋次の霊圧がだんだん近づいてきたのがわかり緊張が走る。
慌てて立ち上がってドアの前まで行く。

あたしが非番の時は、いつもこうだった。

彼に喜んでもらおうと、ご飯もおいしく作れるように頑張って待ってて、彼が帰ってきたら決まってこうやって出迎えてたっけ。
お帰りって言うと、恋次はただいまって言ってキスをくれる。

それはあたし達の中での゛当たり前な日常”だったのに。
本当にいつもどおりなのに、どうしてこうも不安なの?





ガチャ、と音がして彼が入ってくる。
目が合っていつものようにおかえり、と言うと彼は酷く驚いたような顔をする。

「ただいま・・・って何泣きそうな顔してんだよ。ほら、来いよ。」
あたしの知ってる大好きで、いとしくて仕方の無い阿散井恋次なら絶対そういって抱きしめてくれるだろう。


けど、恋次の表情からはそう言うような様子ではない。
「お前さっきの病室の・・・。」

ああ、やっぱり・・・。
やっぱり、あたしのことを忘れたままなの?って呼んでくれないの?

「何勝手に人の家に上がりこんでんだよ・・・!」

出て行け、とあたしの腕を掴んで外に放り出そうとしたので
「恋次、お願い思い出して!あたしのこと思い出してよっ!」と必死で伝えると、何がだよ!おまえなんてしらねえ!と一言。

「あたしたち結婚しようって言ってたじゃん!何で忘れてるのよ!」
そういうと一瞬彼の動きが止まった。
もしかすると通じたのかもしれない。思い出してくれたのかもしれない。

「はあ?」
淡い期待はすぐにきえてしまった。

「はっ!俺とお前が?初対面だろ。名前もしらねぇやつと結婚って頭おかしんじゃねえか!」
「本当よ!恋次があたしの記憶なくなってるんだってば!」

そう言っても信じようとはしない。部屋から追い出そうと、掴んでる左腕が痛い。

「しつけぇんだよ!俺が好きな奴は今も昔もかわらねぇ。ルキアだけなんだよ!お前なんか好きでもねえ!」


俺がすきなのは、ルキアだけ


その言葉が頭の中でリピートして固まってしまい、それをチャンスと思ったのかあたしを突き飛ばした。
抗う力をなくしたあたしはいとも簡単に外に放り出されてしまう。

「わかったんなら二度と俺に近寄んな。」

最後に見た彼の目はやっぱり怒りしかこもってなかった。

「恋次!開けてよ!ねえ!」

ハッとして慌てて閉められた扉を開けようとするが鍵がかけられているのかあかない。
どんどん叩いても出てきてもくれない。

そのかわり聞こえたのは皿が割れる音だけ。

「なんで、」

あたしが作ったものは、いつもおいしそうに一粒も残さず食べてくれていた。
何処の店の料理よりもお前が作ったのが一番口に合うって、むちゃくちゃ嬉しそうに言ってくれた。

頬張る癖があってよく喉に詰めてたっけ?

「もっと落ち着いて食べないと死ぬよ!?」
背中をトントンと叩いて飲み物を渡すと
のつくたもんは美味ぇからついついやっちまうんだよな。」
と笑っていたっけ?結局その癖は最後まで治ることもなかった。


なのに、今あたしの作ったもの、捨てたよね?
短気だから、ちょっと物にあたる癖があるから。

「さいあく・・・!」


本当の本当に、あたしを忘れてしまったの?
左腕に残った手形、確かに彼に触れたいと思ったのにこんな形で触れるのはいやだったな。


こぶしをぎゅっと握り締めて十番隊内にある自室に戻ることにした。
隊長に報告に行かなきゃ・・でも明日で良いかな、



別に、恋次は死んだわけじゃない。むしろ元気に生きてる。


でも、あたしを愛してくれた恋次は記憶を失ったとともに別人のようになってしまった。
恋次の姿をした別人だ!
あの目はあたしには向けられたことのなかった目だった!大嫌いなものを見るような、そんな!


もし記憶を失ってもそれでも離れたくないと思ったから、1からやり直す事だってあたしは考えた!
でもそれは全てを忘れてしまっていたラの話で・・・最悪のパターン。あたし以外のことは何で覚えてるの?

「どうして、あたしだけを・・・?」

彼の心には既にあたしの代わりに朽木さんがどうして存在してるの?!
記憶があったときは全然朽木さんなんて恋愛対象じゃなかったじゃない!

やり直すことも出来やしない、もうあたしをみてくれない!
彼の心にあたしの存在はもう居やしない。


身も心も何もかも全て恋次に捧げたつもりだった。そんなあたしを恋次は大切にしてくれた。
お互いのダメなところもたくさん知った。
それをひっくるめて認めあって愛し合っていたからこそ、あたしたちは40年以上も一緒に居たのに・・・!

あたしには恋次しか居なくて恋次もあたししか居なかったはずだったのに。
記憶の無い彼にのってあたしは居ても居なくても同じようで・・・


いとも簡単に終わってしまった、


ずるいよ恋次、あんなに依存させておいてあたしのこと忘れるなんて。
振られたわけでもなく、振ったわけでもなく、記憶喪失であたしたちはこのまま終わってしまうの?

このまま記憶が戻らなかったら、もう抱き合うことも何も出来ないんだよ、



恋次が居てくれたから生きてこれて
何をするにもいつも側に恋次がいた。



あたしから恋次を取れば、一体何が残るというの・・・?
思い出を残して何処へ行ったの?
あたしを残して何処へ行ったの?
未来予想図を嬉しそうに話してくれたあなたは、一体何処に行ってしまったの?
もう戻ってはこないの?


そんなことばかり考えて、一睡も眠れなかった。


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