そして3日後。 今日は恋次が帰ってくるから彼の好きなおかずを作ってあげよう。 昼の休憩時間には、行きつけの店に恋次の大好きなタイヤキを買いに行って喜ばせてあげよう。 なんだか恋次=タイヤキってイメージが強いんだよなあ。 そしていよいよ明日にでも皆に結婚の報告をして・・・。 先のことを考えるとうれしくてたまらない! 他の席官の子に「何にやけてんすか!」と突っ込まれるほどだ。 「内緒だよ〜」と笑ってごまかすが、やっぱり笑みは消えない。 絶対あたし今気持悪い! 「和田!来い!」 急に執務室の扉が開いて、ビックリしたので見ていると慌てたような日番谷隊長が居てすぐに隊首室に来るように行った。 「なんです、か?」 息を切らした日番谷隊長は、あたしが部屋に入ると同時に部屋を閉めた。 普段冷静な彼が少しでも慌てているのは珍しく思う。 「いいか、落ち着け、取り乱すなよ。」 「なんですか、ちょっと」 深刻そうな日番谷隊長にあたしまで不安を覚える。 取り乱すなって、え、何? 「阿散井が、現世で隊員をかばって虚に攻撃され、気を失ったそうだ。」 「・・・え?」 なんだか鈍器で頭を殴られたようだ。 恋次、が? 「命には別状は無い。ちょっと打ち所が悪かっただけらしいが・・・。卯ノ花もすぐに目を覚ますといってる。」 命は別状は無い。それを聞いたときどれだけ安心したか。 だけど、心配なものは心配。 怪我してないかとか、どんな状況なのか、とか、そんな言葉が頭をぐるぐる駆け巡る。 「たいちょ、」 「命令だ。阿散井が目が覚めるまでそばについててやれ。」 「は、はい!ありがとうございます!」 日番谷隊長はあたしのことをわかってくれているらしい。 こんな状態であたしが仕事に集中できるはずもなく、そう命令をしてくれた。 あたしは瞬歩で四番隊に向かう。 途中で理吉君に出会い、彼も恋次のところへ行こうとしていたらしく、彼をつれて四番隊へ向かった。 □□□ 四番隊にはちょうど荻堂君が居てすぐに案内してもらった。 部屋に着くと山田花太郎こと、花が治療を終わったみたいで後片付けをしており、そんなことよりも恋次が先だ!と思い寝台に横たわる恋次を見ると恋次は眉間にしわを寄せ目を閉じていた。 よかった、大丈夫そうだ。 顔に表情があるということは、もしかしたらもうすぐ目が覚めるかもしれない。 「あ、さんに理吉さん。ちょうど今治療が終わったんですよ。 たぶん、今日中には目を覚まされると思いますよ。外傷もそんなにみられませんでしたし。目を覚ましたらそのまま家に帰っていただいても大丈夫だと卯ノ花隊長がおっしゃっておられました。」 「ありがと、花」 にっこり笑って感謝すると、花は「いいえ、へへ」と照れたように笑った。 「はやく目、覚まさないかなあ〜」 寝台の横にあった椅子に腰掛けて恋次の手をぎゅっと握った。 久しぶりに触れても、やっぱりあなたは暖かい。 このぬくもりが、このぬくもりだけがあたしは大好きなんだ。 「あれ?さんと阿散井さんって仲良かったですっけ?」 あたしが手をぎゅっと握っていることを不思議に思ったらしく首をかしげた。 まあ、花はあたしのお気に入りの子だからまあ言ってもいいかな? 「あぁ、うん、来月結婚すんの。」 「へぇ〜・・・って、ええ?!」 あまりにサラっと言うもんだからビックリしてるようだ。 「ああ、僕てっきり恋次さんはルキアさんとお付き合いされてると・・・。」 「でしょうね、死神の97%はそう思ってるみたいなんだけどね。実は真央霊術院3回生のときからずっと付き合ってたのよ。このこと知ってるの7人だけだもの。」 「俺も最初そう思ってたんだよなあ・・・。」 理吉がため息をつくと花は納得したように言う。 「だからか!恋次さんとさん、お互いを見るときだけはすごく優しい目だったんです。」 にへらっと笑った花についついあたしもつられて笑ってしまった。 「でも、お二人はすごくお似合いですよ!」 「俺もそう思います!最高です!」 理吉君の必死ぶりに思わず噴出してしまった。 でもお似合いだと言われて嫌な気は全然しない。 「ありがとね」 つい嬉しくなって笑ってしまった。 にしても、この二人はあたしは好きだなあ。 花は男の子だけど妹みたいだし、可愛らしくってとても癒される。 理吉君は恋次の弟子だしこれから期待できそうだなあ。 しばらくして理吉君も花も仕事があるみたいで病室から出て行った。 病室には二人だけだ。 恋次は、頭を打ったのか包帯が巻かれており、それ以外に目立った外傷は特に無い。 早く起きないかな?3日ぶりだけど、ながいあいだ会って無いような感じだ。 目の前にいるのに会話も出来ないなんて寂しいじゃん。 付き合って40数年ずっと一緒に居るけど倦怠期も飽きも何も来ない。 1日経つにつれ、もっと愛しく感じる。 もっと一緒に居たいし名前読んで欲しいし抱きしめて欲しい。 もちろんあたしは恋次以外の男性に興味なんか無いし向こうもそう思ってくれている。 「俺が死んでしまうまでお前のことぜってぇはなさねぇ。」 「死んだら放すの?」 「・・・いや、死んでもお前は俺以外の男と一緒になるのはゆるさねぇよ。」 こんな会話をしたのも結構記憶に新しい。 一週間ほど前だったかな。 恋次は昔ほど嫉妬深くはなくなったけど、変わらずに独占欲が強いから、ね。 ずっとあたしは自分のものにしておきたいんだろう。 「じゃあもしあたしが先に死んでも再婚とかしちゃだめだよ?」 意地悪く笑ってやると、望むところだと笑った。 どうやらあたしもよほど独占欲が強いらしい。 「はやく目覚めたら一緒にタイヤキ買いにいこっか。」 あたしよりも大きな手を両手で握って眠る彼に話しかけていると扉がノックされる音がして「どーぞ」と返事をする。 中に入ってきたのは桃とイヅルだ。 二人とも、心配そうだ。 「どうだい、阿散井君の容態は・・・。」 「阿散井君も心配なんだけどちゃんも落ち込んで無いかすごく心配で!」 「ああ、大丈夫だよ。頭ちょっと打って失神してるだけらしいから。すぐ目が覚めるって卯ノ花隊長が言ってたしね!心配ないよ。」 そういい微笑むと、二人は安心したような表情をした。 「そっかー、早く目が覚めるといいね。」 「ほら、これ一応お見舞い品。」 イヅルが差し出したのはタイヤキだ。 ありがとう、といって受け取る。今日は一緒に買いに行くのは中止かな?まあいいや、その分家でゆっくり休んでもらわないと。 ・・・にしてもやっぱり恋次=タイヤキという印象なのかなあ。 「うっ、」 3人で話していると、恋次の眉がピクリと動いて、少し苦しそうに唸った。 慌てて顔を覗くと、その目はうっすらと開かれた。 (よかった、) 目が覚めたと思うと、一気に安心感がこみ上げてきた。 「ここ、は・・・?」 状況が上手く飲み込めていないらしく、どこかもわかっていないようだ。 「四番隊の隊舎だよ。頭打って気を失ったって。」 あたしがそういうと恋次の反応が無い。 恋次は桃とイヅルを見て「お前ら、来てたのか。サンキューな、」と一言いい、体を起こした。 「阿散井君、まだ動かないほうが良いよ。」 そういうが、恋次は少し難しそうな顔をして、自分の布団を見つめている。 そして、あたしが握ってる手を不快そうに見たあと、その手を振り払って、初めて拒絶されたものだから驚いて「えっ?」と声に出す前に目を見てこういうのだ。 「お前、誰だ?」 そしてもう一つ爆弾を落とした。 「・・・ルキアは来てねぇのかよ。」 縛道をかけられたようにあたしは動けなくなった。 Next |