「ちゃんやん!」
尸魂界は相変わらず平和だ。
ふと外を歩いていると市丸隊長ことギンちゃんが前からやってきた。
私が入隊当時、だいぶ下っ端だったのだけど何でか気に入ってくれてそう呼んでといわれた。
最初は拒否したんだけど命令とされたので仕方なく。
いつ見てもこの笑顔が気持悪いと誰かが言ってましたっけ。
でも私はそんなこと思ったりはしない。
あからさまに裏がありますよ、みたいな顔をしてるので探り甲斐があるというのですかね。
そういうのは私、愉しくてたまりません。彼とも既に契約済みです。
死神輪廻
私と同類とわかった以上はギンちゃん、というのは可愛すぎて似合わないために、心の中では市丸ギンとフルネームで呼ばせていただいてます。
ほら、骸のあのキャラでむくちゃん、とは厳しいでしょう。
・・・まあ自分より能力も下と思われる人は全員心の中ではほぼ呼び捨てなんですが。
「ギンちゃん、おはよ!」
いつかそのニコニコの目の線を使って開眼した目を落書きしてやりたいと企んでいます。
それも少女漫画のようなキラキラした目を。
想像しただけで・・・クフフ。気持が悪い。
「どうしたの?こんなとこで。」
「いやあ、なんやめっちゃ暇やさかいにな。散歩でもしよかいな思てたらちょうどちゃん見つけてん。」
相変わらずに表情が変わらない。
でも悪巧みを考えてるときは、笑みの深さがなんとなく増すのを知っている。
「ギンちゃん・・・いい加減仕事ちゃんとしないと吉良副隊長が泣きますよ!」
「なんやつれへんなぁ〜。ま、ええわ!イヅルが僕のこと探してたら適当にゆうといて!ほな!」
返事するまもなく彼は瞬歩で消えた。
これじゃああまりにも吉良副隊長がかわいそうですね。
木の下に腰を下ろしもたれかかる。
目の数字は元々六になっているので、そのまま目を閉じて精神の世界に入った。
周りから見たら居眠りをしているようにしか見えないでしょう。
私以外の死神に精神の世界なんてものは無いのですが、精神世界には「繋間糸(ネウトゥラーレ)」と呼ばれる契約者の精神とつなぐ糸のようなものがあり、それを引き寄せることで相手の精神を捕捉して、無理やりこっちの世界に連れ込むことができ自分の支配下に出来るのです。
私が相手の精神捕捉した時点でその意識と体の支配権は私のものになります。連れ込まれた本人はどうなるかといいますと、意識はどこかへ飛んでおり無意識状態。
マインドコントロールを解くと「あれ?今まで何してたっけ?」となるのです。もちろん、その間の事については何も覚えていないのですよ。
本当に、気が付いたらそうだった、という感じですか。ランチアいわく。
ちなみに憑依弾での憑依は撃った瞬間に私が幽体離脱のようなものを起こし、契約者の体へ入るので、マインドコントロールとはまた違います。
憑依弾は、私が憑依した瞬間に相手が睡眠状態に入る。
体からあたしが抜けるとそのまま一度気を失い目が覚めてから「あれ?何で寝てしまってたっけ。」という感じでしょうか。
憑依中はあたしの体は死んだような感じになるのである意味義骸と義魂丸みたい。
どちらも支配することにはかわり無いんですけど。
「おや?偶然ですね。」
精神世界の中で、声が聞こえてきて振り向くとそこには骸がたっていた。
別に居てもおかしくは無い。この精神世界は私達双子が支配しているのですから。
散歩をすればいろいろな人に出会えるのですけどこの場所だけは二人共有。
精神世界に入ったのが同時であれば会う事だって可能。
まあ、契約者はそれぞれ違いますから繋間糸は違いますけどね。自分の契約した繋間糸しか見えないんですよ。
入らなくても心で語りかければ会話が出来るのですが。
「久しぶりですね、骸。」
相変わらずこの子は元気そうでなによりです。
「クフフ・・・元気そうですね、姉さん。姉さんが世界に入ったのを感じて僕も来てしまいました。最近はどうなんですか?」
「あら、なんだか嬉しいですね。こっちの世界なかなか愉しいわよ、他人を演じるのも。骸はどうなのです?」
「相変わらずグイドグレコで遊ばせていただいてますよ。マフィアというものはやはり愚かだ。ミルフィオーレは僕に全く気づいていません。」
「あら!愉しそうですね。私もそちらの世界へ行く機会があれば、ボンゴレと接触してみようと思います。」
「そうですか、楽しみですね。」
クフフ、と二人で見つめあい少し笑った後骸は精神をミルフィオーレでスパイ中のグレイド・グレコの体に戻るということでココから去っていった。
私もたまにはクロームの体に憑依してみようかしら?
犬と千種にも会いたいですしね、
さて、久しぶりにいとしい弟に会えたことですし。やらないといけないことに戻りましょうか。
精神世界に独りになった私は糸を辿る。まるで霊絡のようなんですけど繋間糸のほうが扱いやすい。
ソレはなぜかというと、顔を思い浮かべるだけで勝手にその人の繋間糸は指に絡まってくれるからです。
気味の悪い狐顔を思い浮かべると一本の繋間糸が指に絡まる。
そして彼の意識を引き寄せる。市丸ギンの精神を補足成功。それと同時に精神と体を奪い、そして乗っ取った。
普段ならばこれを一瞬でしてしまう。
乗っ取ったかどうかは体の感覚で解ります。
私も精神世界から出て目を開ける。
(戻っておいで、私のところに。)
心で市丸ギンにそう呼びかけると、瞬歩を使ったのでしょうか?すぐに私の前に戻ってきた。珍しく開眼しており、しかもなんとなく私にしかわからない程度に目がうつろ。
これはマインドコントロールにかかっている証拠。
「はやく3番隊に帰りなよ。書類がいっぱい残っているでしょう?」
そう言うと市丸は無言で私の前から去っていった。
実を言えば、性質の悪い恐れられたこの能力・天界道のスキル「マインドコントロール」は、いまではほぼ市丸ギンを仕事させるためにのみ使っている。
彼がサボるたびに使うので、吉良副隊長が最近顔に疲れが見えなくなった。
マフィア間を混乱させた憑依弾はまだ使っていない。
自分の体に穴を開けると思うと気が弾けて遣う気にもならないというのが本音なんですけどね。
市丸ギンが3番隊に戻って吉良に怒られていつものように監視の元執務を始めるのを確認してから市丸のマインドコントロールを解いた。
そんな、遠くのことまでなんで解るのかって?
くふふ・・・企業秘密ですよ!
あえていうなら・・マインドコントロール中は視覚も聴覚も奪える、ということですかね。
「さて、私も仕事に戻りましょうか。」
十一番隊に戻ると、隊舎の前で変な人を発見しました。
一人の男の人が隊舎に入っていこうか行かないでおこうか迷っている。
背丈は私より低いので、まだまだ若いのでしょうか?私より確実に年下ですね。
十一番隊が怖くて入っていけないのか、隊長の顔が怖いのかは解りませんが。
なんだか雰囲気が山田花太郎のようですね。
あんな挙動不審な人が隊舎の前でいられると邪魔なので声をかけることにしましょう。
・・・にしても、なんだかやな予感がするのは何故ですかね?
「十一番隊に何かようですかー?」
「んなーーーーーー!」
いきなり声をかけたからでしょうか、その男はビクン!と体を固まらせて面白いくらいに叫ぶという最高のリアクションをとってくれました。
霊圧を探るの、苦手なんですかね?
その拍子に持っていた書類を全て落とすというなんという間抜けさ。
山田花太郎のほうがしっかりとしていますね。
、
「うわあ!急にはなしかけてゴメンね!」
私もここは一応謝っておきましょう。
(・・・それにしてもこのドジっぷり。まるであの人みたい。)
そしてバッと此方を振り向き目が合いました。
相手の茶色の大きな瞳はしっかりと私を捉え、私の骸と同じ形の同じ色の目も・・・彼を捉えた。
「ええええええええ!」
「あら・・・。」
奴はおもいきり私を指差して驚き、私も私で驚きました。
ええ、まさか脳裏に浮かんでいた彼がココにいるなんて思いもしなかったものですからね。
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