WILD CAT



ベッドの横に飾ってある二本のギター。机の上に飾ってるツーショットの写真。写真の手前に置いてある片方のペアリング。タンスの中にある大きめの服。

1人では弾けなくなったギターに、側においてあるずっと同じ表情の少し若い写真に、いつも首からかけるだけの一方通行のペアリングに、この服だって着れない服ってことは分かってる。でも!でも、大事な大事な、あたしととの、二人の大切な思い出、だった。





昔はこの・・・元彼・との思い出の品を見ては思い出ばかりがあふれてきて泣き崩れてた。もちろん、今でも悲しくなってブルーになってしまうときはあるけれど泣き崩れたりなんてしない。あの頃の自分を思い出して自嘲してしまう。

今は、思い出にできてるから大丈夫だよ、と、強く思い込ませていると携帯アラームのスヌーズ機能のおかげで携帯がもう一度なり、ハッとして時計を見たらかなり時間が経っていた。


「もしかすると、ヤバいかも。」
これは、朝食抜きだなぁ、なんて昨日買ったメロンパンとコーヒーを名残惜しく見て慌てて支度をした。
もし持っていっても、きっと、というか絶対に常陸院の双子に取られるのは目に見えている。

とりあえず鞄を持って家を出た。



あたしは桜蘭生にはかなり珍しく徒歩通学で。
大体皆は、親に大切に育てられ良い生活を送っている。

正直個人的、親になんでも頼る生きかたは好きじゃない。
私は今まで本当に一人で生きてきたっていっても過言じゃないし。
親になんて頼らなくたって生きていけるのに。

あたしだって肩書はお金持ちの大企業の娘なんだけど、お金は振り込まれているからといってわざわざ一人暮らしでこんな生活を送るなんて、あたししかいないんじゃないかな。

確か同じクラスの藤岡ハルヒとかいう特待生も車とかじゃない。
それでもまぁ貧乏暮らしだけど独りでは住んでいない。親だってちゃんと一緒に住んでる。そういえばあたしは勉強をするのは苦手だから少し奴が羨ましい。


あたしなんて勉強の基礎が出来てないし漢字もあまり書けないしよめないので成績は悪すぎる。
生きるのに必要最低限の算数しか分からない、言葉だってそんなに分からないなんて恥ずかしくて誰にも言えない。
日本には何県が有るのかいまだにちゃんと分からないなんて本当あたしってやばい。
かろうじてA組に居るけど実際のところD組、または退学でも反論できない。

中2からのココでの授業は最初は何をいってるのかも分からなかったが(三角形の面積とか初耳)持ち前の適応能力で何とか付いていきその場面だけはやり過して来た。

もちろんその場だけの学習なのですぐにわからなくなる。応用がきかないのだ!
簡潔に言うと小学2年生が中学生高校生の勉強をいきなり習ってるという感覚 。


親の権力だけでココに来てるんだと実感するもの。
ホスト部の皆は主席だったり次席だったするのにあたしだけはどんなに頑張ってもクラスで最下位だったり大変なのよね。学年ではD組みの人たちにまぎれた順位。

英語だけはまぁいろいろあって毎回100点で完璧なので、いいんだけど。

皆には「必要最低限の勉強ですらしたくないんだよね!」とかいってるけど。
実は結構勉強できない事に困っている。



勉強をする環境に居なかったから分からないだけ。
代わりに学んだのは--- - -


□□□



速歩きで学校に向かっていると、前から幼稚園児の集団がやってきた。
集団登校ってやつ。

幼稚園、か・・・懐かしいな。あの頃は、本当に幸せだった。

少しブルーになる。
あたしにとって桜蘭にくるまでのなつかしい過去を思い出すことは全てにおいて苦痛でしかないのだ。幸せだった過去なんてひとつもない。
いや、幸せの過去もあったけど、それでも最後は結局不幸につながる。それだけ。


---思い出なんておもいだしちゃあいけないのに。

ドサッ

目を伏せて溜息を吐いたら、真横で鈍い音が聞こえてきた。何かと思い目を開けて横を見ると男の子が見事にコケていて慌ててたたせてあげた。


泣きそうになってる男の子を見てわけのわからない懐かしさがこみ上げてしまい、何故か咄嗟に「大丈夫だから、泣いちゃだめよ」と言い、頭をなでた。その言葉がしぜんと出てきて自分でも吃驚した。

この言葉、あたしがいつか昔・・・ううん、関係ない。

今少し精神的ブルーになってるこのときに余計な過去を思い出すと
今日は元気がでないきがしたので慌てて思考回路を遮断した。

まだ頑張れる。


「ありがとう、おねえちゃん。」


このくらいの小さい男の子にお姉ちゃん、だなんて。
そんなこといわれたらいままで耐えてたのに嫌でも悲しいくらいに鮮明におもいだすじゃん。

兄弟のこと。


少し泣きそうになったけど堪えて苦笑いを作る。

「どうしたの?」

「ううん、だいじょうぶ、きをつけてね。」

「うん、ありがと!じゃあね!」



笑顔で去っていった男の子を見て安心しつつまた溜息。


(あたしだって、昔は。本当は、本当は、)



震える手を隠して遅刻する、という事を思い出して無理にでも足を進めたときちょうど真横で車が止まった。


「「じゃん 」」

朝から、何か最悪。そう思っていたときに、救世主が現れたのだ。丁度いいタイミングで車の窓から同じ顔が二つ覗いていてあたしをよんだ。


その瞬間あたしは自分の中のスイッチを入れかえた。


「あ!おはよう!光、馨!!」

ドキドキしながら笑顔を作る。この胸の高鳴りはきっと光のせい。

「最近のにしては遅いじゃん、また寝坊したの-?」

馨がからかうように言う。身内以外でこの二人を見分けれるのはきっとあたしだけ。
あたしだけ、っていうのが凄く嬉しくって顔がほころぶ。

「ちょっとね!目覚まし止めちゃってさ!あたしって、ドジじゃん?」

ほら、ちゃんと笑えて明く振舞える。さっきの暗い雰囲気は、もう残ってないはず。
あたしはこの約15年間いろいろな修羅場を生きてきた。死線も越えた。それで学んだのだ。いきる方法を。

とりあえず、とりあえず味方を作る。一人でもいいから、笑い合える人を作るのだ。
とりあえず笑って、ニコニコしていれば大丈夫。いつの間にか、これが仮面となっていた。
だから、学校の中だってずっと難なく笑えてる。

本当のあたしは、弱くて惨めで冷めてて泣きむしで落ち込みやすくて過去からいつまでたっても抜けだせないただの馬鹿だけど。

もちろんずっと笑ってることでのデメリットはある。

今みたいに心の中で落ちこんでても、それを全く顔に出せないから、ちょっとしんどくなる。
メリットは、笑ってるから落ちこんでたって悟られず余計な詮索を逃れる事ができる。

「大丈夫?どうしたの?何かあったの?」

もし、そうきかれてもあたしが落ちこむ理由は大体過去にしかない 。
だから何もないなんて笑顔で言える自身が無い。過去を笑える余裕なんて実はこれっぽっちもないもの。
じゃあ余計詮索されて引っ掛き回されてあたしは余計に落ちこむ。


もちろん、ホスト部の皆にもこれが演じるキャラ だとはバレてないはず。
役者名、、脚本、、キャラクター名、これもまた

鏡夜先輩だって、環先輩だって、見抜けてない。

決して,彼等に心を開いてないわけじゃない。
むしろホスト部の皆は好き。大好き。

ただ、彼等にたいして笑顔で居るのはただ心配をかけたくない!あたしに浴してくれてる最高の友達に、あたしのことで心配かけたくない。
あたしの事話して変に同情の目で見られるのが嫌だからだ。

最後にもうひとつ、メリットで動いてる鏡夜先輩がもしあたしのことを知ったら
もう仲間に入れてもらえないんじゃないかって、心配でたまらないから。

いまは、はなせないから--きづかれないよう、うまいことやっていきたい。



「じゃあ、また教室でね!早く行かないと遅刻して怒られるよ!」

あたしのせいで 二人まで遅刻してしまうと困るので見送ろうとしたんだけど。

「「いや、何馬鹿なこと言ってんのさ!」」


ニカッと笑った光は更に言葉を付け足す。

「遅刻しそうなを置いて行けないよ。」

どうやら、ふたりは乗せて行ってくれるみたい。あたしも、笑顔で、ありがとう、という。(あ、ちゃんと笑えた。)


「「どういたしまして!」」


乗りこんだのは、光の隣。少なくとも、光に小さな恋愛感情を抱いてるあたしは少し緊張。

(あたしもまだ女の子やってるかもね)

光と馨は同じ顔なのにどうしてもあたしは光が良いみたい。
あたしを深い深い悲しみから救ってくれたのは間違いなくホスト部の皆だった。
その中でも、光は不器用な優しさであったけれどあたしを確実に大きく救い出してくれた。

「そういえば、中等部に居たころ、は遅刻欠席だらけだったよねー」
馨が言った言葉に少しドキっとした。さっきとはまた違う緊張。
そ、それはできればあまりふれてほしくない話題なんだけどなぁ。


「そうそう、僕達と仲良くなるまえからだったよね-。ホスト部に入ってからは大分マシになってきたケドね 。」
光もそういう。

「それは!・・あ、いや、あのときは、朝が物凄く弱くってさ、起きれないんだよね!」

急にちゃんと学校に来れる様になったのはホスト部に入ったから。
悲しい夢を見る割合が減ってきたから。

だってあの頃は、まだ悲しみから全然抜け出せなくって、
夢にまで出てきて、
今とのキャップの違いになくしかなくって、


その当時は親と一緒に住んでいたけど、いい加減毎朝のように泣いてるあたしのことはもう既にウンザリだったらしくどうでも良かったそうなので普通に休ませてくれた。

咄嗟にうその話をつくって、苦笑いで返すと「それなら向かえに行ったのに、はいつも いいっ て拒否だもん」って声が返ってきて、また苦笑いで返した。
動揺のせいか残念ながら、どっちの声か解らなかった。

遅刻していたのはさっきも言ったとおり泣き止めなかったから。
もし迎えに来られたら、泣いていることがバレて、もう作れない。

「ま、これからは遅刻しないよ!!まかせて!」

「「ほんとにー?」」

また二人は声を合わせてる。 本当に仲がいいなぁこの二人は

「た、たぶん!」

あたしは胸からかけてある一方通行のペアリングを制服の上からギュっと握り締めた。
ねぇ

ちょっとくらい幸せに
なってもいいよね?

(忘れないから、)