たかが一冊、されど一冊。あたしのように見た瞬間答えが浮かぶって言うならまだしも、この問題にでさえ悩んでる馬鹿にとっては過酷だ。


「どっひ――!」

緒方が叫んだ。緒方勉強嫌いっぽいもんね.
・・・一郎だったら進んでやりそう、こーゆーこと。


暫くするとよしのがドリルを投げ出した.

「やっぱりあたし納得できない!この子の為になんか頑張りたくない」

よしのの一言で、なんかあたしはむっとする。
ならやめちまえ.

「私別に頼んでないし」

「何その言い方!」

よしのの言い方のほうがおかしいと思うのはあたしだけ・・?

「やめたきゃあやめればー?じゃあ勇くん、これ、提出ヨロシク」

「その呼び方やめてくれ」

「懐かしいね、その呼び方」


直美と矢島の間に入ってそう言うと、さりげなく矢島は斜め後ろを見てあたしを睨んだ。
それで肩をすぼめて少しだけ謝る。そんなにその呼びかた嫌かなあ?

あたしは昔、勇ちゃんって呼んでたっけ。でも、いつのまにか、矢島になってたな。

「あ、すっごいむかつく、なにあの態度!なにが勇くんよ!
ねぇ勇介、もうやめようよ、勝負なんてバカバカしいよ」

嫉妬し始めたよしのは腹を立ててドリルを閉じた。

「そうだよなぁ。おもしろ半分で来てみたけどさ〜
これが10日間も続いたらまじ脳みそがぺたんこになっちまう」

なんか、少しうるさくなってきた。よしのも緒方も、何しに来たの?



「勉強なんか辞めちゃってサ〜〜今日俺奢っちゃうよ?
行っちゃう?行っちゃう?ちゃんもさ、行っちゃう?」

さらに緒方はそう言い出し、よしのもそれに乗り始めてしまった。あーもう、鬱陶しい!なんなのこいつら!


「勝手にやめろよ」

「ちょ、勇介は、私よりあの子の味方すんの?!」

「うぜーな!」

「勇介ちゃん!」

「別に水野の勝負なんてどうでもいいんだ、俺は俺の筋でちゃんと通してぇんだよ!」

「すじって?」

「やる気が無ぇんならさっさと帰っちまえ、飲みにでも何処でもいってしまえ.」

こんなところで夫婦喧嘩しないで欲しいよねー。そんな会話を聞きつつ、あたしは問10をクリアした。

シーンとした雰囲気のなかで「ドリル終〜りっと!」と明るい声で言った麻紀はドリルを持って教室を出て行った。
緒方はなんだかあたしに目を合わせ、助け舟を出してきたが「やる気無いなら帰ったら良い。さよなら」と目も合わさず言うと緒方は何もなかったかのように椅子に座り、ドリルガンバろっかな!とか言い始めた。

よしのは改めてあたしを睨んでた。絶対あたし嫌われてる?
まぁどうでもいいんだけど。




〜〜♪〜〜〜♪

そんなとき、あたしの携帯の着メロが鳴った。緒方にきつく言ったあたしがこれだ。見本にもならないじゃない!

「電源切っときなよ、うるさい」


よしのに更に睨まれる。やられたらやりかえす、のごとく!


「はいはい悪ぅございました」

感情も込めずそう言いながら画面を見ると、あたしの一番舎弟の『誉田 龍』だった。
窓際に行き、皆に背を向け電話に出た。


『あ、?今日の忘れてねぇっすよね?連絡待ってんのに来ねぇし!』

独特なこの敬語のようで敬語じゃない話し方。本人は一応気を遣ってるんだろうけど全然なってませーん。長年の付き合いでどうでも良くなってるんだろうか?あたしも別に気にはしてない。周りがガヤガヤしていてうるさいのか自然と大きくなる声で耳がキーンとした。

しかも、静か過ぎる教室には十分響き渡るほどの大きさな声なので焦った。
やっべえ、通話音量5にしてた。

やはり携帯から聞こえる声が教室中に響き渡ったのか
そーっと後ろを見ると3人がこっちを見ている。さっさとやれ。ドリルを!

慌てて皆から背向けて話す。

「忘れてないから音量下げてよ。」

つい声が低くなってしまうのはやっぱり今から大事な任務があってふざけではなく。女子高生としての自分、じゃ無くて組のとしてだから。ついでに音量を1まで下げるのも忘れない。


『悪いな。で?どこに居るんだよ。今お前の家に居るんだけどよ。迎えは?』
受話器の向こうの声が変わった。後ろのほうで「あぁもう!嘉兄!俺の電話!」という声が聞こえてきて、少し笑った。この人も舎弟。いつも冷静で頭のキレる大人な『高迫 嘉明』だ。
まじめな話をするなら、この人が一番。

「あぁ、いま学校ー。合宿らしい。だから学校によろしく。」

電話が掛かって来たって事は、もうそろそろ用意しないといけないのかもしれない。
最後のページの問15を終えたところでドリルを閉じ、片付けることにした。
出来あがったドリルを矢島の机にポンと置いて話の内容を頭に入れる。この際、3人の視線は気にしない。

そのままもういちど窓際に行き、外を見た。

『場所は前からお前が予測してたとこだよ。さすがだな。
下の奴に偵察いかせたけど、気づいてねえし。余裕。』


「・・・何人くらいかなあ?」

『ざっと30くらいかと。』

「そっかあ!じゃあ待ってるね」


電話を切ってポケットに押し込む。

「何の電話〜?」

矢島が聞いてきた。たぶん、普通の電話としか思ってないようなので安心。もちろん矢島もあたしがヤクザだって事は知らない。もちろん、本名も知らない。


「あ?いや、前行ってた高校の友達から電話掛かってきて
夜あたし毎日ジョギング行ってたんだけど、今日友達も行きたいって言うから。
ってことで今からジョギングいってくるね。」


適当に誤魔化してばれずにうまく校舎を出て行き、近くに止まっていたワゴンに乗りこんだ。


immature


(まだまだ子供ね!)(あたしもだけど!)