龍山高校、3年B組、。
いや・・・本名は、。
というのは母親の旧姓であってあたしの本名じゃない。
訳アリでそれを使うしかないのだ。それも、幼い頃から。
龍山高校には高2の2学期の半ばのときに来た。
理由?前の高校で暴力沙汰起こして。
っていうか、下心みえみえのセクハラクソ教師をクソ殴ったら退学なっただけで。
退学になって途方にくれてるときに直美と再会して、楽そうだったので直美がいるこの高校に来た。
親父には
「よっしゃ、もう一回頑張れ!!」
と励ましを受け、なんとかフリーターを脱出!
だから、別に「家・8代目」という絶対的に将来を決められてしまっていてもそんなに嫌ではない。たとえば、スパルタ教育の親とか、すごい親子仲悪ければとっくに家出して勝手な道を進んでるかも、だけどね。
本当に仲良いから、楽しそうとも思う。
まぁ。龍山にきて、早半年。とりあえず今日も朝が来ちゃったから、行く事にする。
軽く化粧して、用意して髪の毛セットして。目が悪いわけでもないのに色の入ってるコンタクト入れて。昨日「仕事」で腕につけられた痣を長袖のブラウスで隠す。
朝食を済ませ、時間が時間なので家を出た。
歩いてると公園あたりが騒がしく、朝から元気な人はいいなぁー、と感心した。
朝からなんて、通学して“奴”を相手するのに精一杯!!!
気にせず通り過ぎようとしたけど、無意識にちら見して思わず足が止まり唖然とした。
「・・・あほか。」
また中学生が遅刻覚悟で遊んでるのかと思ったら・・・。
そこで遊んでたのは厳つい兄ちゃんたちと、同じクラス尚且つ幼馴染の矢島勇介。
それも、遊びというかなんと言うか。
見ててうんざりする感じ。
口を怪我してて、態度だけは偉そうで.
「弱いくせになぁ、.あいつ。」
ご愁傷様。心の中でそう言い、また歩き出した。
矢島の喧嘩に付き合うと、災難ばかりだ。
あんなチンピラ・・・たとえあたしが制服着てるとしてもさ、どっかで敵としてあってるかもしれないし下手に動くのは危険。
だから、がんばれ矢島!
そのままあいつとの待ち合わせの場所まで行った。
いや、待ち合わせと言うか、一方的に奴に
「一緒に学校行こうぜ!来るまでずっと待ってるからさっ☆」
付き合い始めた頃、そう言われたのだ。
行かないと本当に一生待ってそうなくらい馬鹿なので、待ち合わせ場所に毎日行っている。
待ち合わせ場所についたものの・・・.
奴はまだ来ない。
基本的待つのが嫌いだから、一人で行きたいんだけど。
まぁ、いいか。
暫く待ってると、奴が来た。
なんか隣にピッタリくっついてる車の運転手とウザそうに話している。
お母さんかな?とか思いつつ見ていた。奴の母親は超過保護なのだ!!そして、金持ち!
奴は車を追い払って、走ってこっちへやってきた。
――奴の名は、緒方英喜。
「おっはよ!遅くなってゴメン!母親がうるさくって。」
顔の前で両手を合わせて可愛い困り顔で言う。
「そう。あ、緒方。早く行かない?」
「うん!そうだな!」
そう言ってスキップしながら緒方は一人で進み始めた。
「あ、」
けど、いきなりそう言って立ち止まる。何か思い出したようだ。もしかして、忘れ物?
すると、こっちに振り返りニコニコして手をあたしのほうに突き出した。
「??」
何をしたいのか良くわからなくて首を傾げる。
「手!」
緒方は一言そう言うけど、主語が無くて困る。
手?と思い自分の手を見ると
「ちーーがーーうってば!!手、繋ご?」
そうやって笑う緒方が可愛くて、なんだか悔しい。
だから無意識に手を伸ばし、一緒に手を繋いで歩く。
右手が温かくて少しあたしの冷めてた心が温かくなった気がした。
こういう仕事してるからかしらないけど、心は殺し気味。
「なぁちゃん」
「何?」
「緒方〜じゃなくてそろそろ英喜って呼んでよ!」
繋いでいた手を離してあたしの肩を抱いた。
歩きにくい、とか考えるよりもそっちに意識がいって少しドキドキする。
「ひで、き?って?」
「そう!ナイス!」
じゃ、ご褒美!
そういって親指を立てウインクしたあと、あたしに顔をすばやく近づけてきた。
チュっと音が鳴ったが良くわからなくて・・。
理解できたのは緒方ー・・じゃなくて
英喜の顔が今まで合った位置に戻ってから。
くちびるには少しまだ感触が残っていて柄じゃないけど凄く恥ずかしくなった。
「ちょっ・・!!」
少し顔を引きつらせて、照れ隠しに両手で緒方(もう英喜と呼んであげない)を押しのけて自分の中で最大に早足で歩き出した.
・・いきなり人前でチューするか?バカ。
「ちょっ・・!ちゃん!!待ってよ!」
後ろで何か叫んでる緒方をほうっておいて
ちょうどあたしのちょっと前を歩いていた奥野一郎のところまで行き
「一郎、一緒に行こう」
あたしよりいくらか背の高い一郎の腕を取り、早足で引っ張る。
「え、俺なんかで良いのー?エヘヘ」
一郎は照れながらも物凄く嬉しそうな顔をした。
「ちゃ〜ん」
今にも泣きそうな声が後から聞こえたので振りかえると今にもなきそうな顔の緒方の顔。
あと5秒できっとこいつは泣く。
なんだか罪悪感が沸いてきた。
・・・・。
「ごめん、一郎、やっぱ一人で行って!」
そう言って少し後ろでしょげてる緒方の方を向いてを待った.
そんなぁ〜と一郎の声が聞こえてくるけど気にしない。
ごめんね一郎、あとでガムあげるから許してね。
「早く行こうよ」
笑うあたしと、未だに少し拗ねてる緒方。
放っていくよ?というとすぐにあたしの隣にくっついた。
ほほを少し膨らませててやっぱ可愛い。
本人にいえば、もっと怒りそうだから言わないでおこう。
学校に着くと、改めて思う。
あたしが前まで通っていた高校とぜんぜん違うタイプの女子がたくさん。
男の話ばっかりしてる奴。
誰かを見てカッコイイ―キャーとか言ってる奴。
廊下で座り込んでるの。
誰かを見て悪口ばっかり言ってる奴
あーうざい。
龍山高校はギャルが多い中あたしは結構普通だ。スカートの長さも普通で、膝よりちょっと短いくらい。
変な花とか髪にも付いて無いし、ジャラジャラしたものはついてない。
むしろ自分を着飾るのは興味が無い。そりゃ、ボロボロのTシャツとか秋葉やゴスロリは嫌だけど・・。
アクセサリーは、小さく光るピアスが2コ、透明ピアスで5個の、計7個。指は、緒方がくれたリングをはめてるだけ。不服にも、左目だけが蒼い。そのため「」のときはカラコンで物心ついたときから隠す。
これは、おばあちゃんが日本人じゃないためであって・・・なんだかなぁ。
龍山高校3年B組・・。
3年B組ー!金八先生ー、なわけもない。
一通り挨拶を交わしてかばんを置いて座ってると緒方がすこし凹み気分でこちらへやってきた。
「ちゃん。今日さー、最悪だったんだよ、俺」
さっきのことかと思いきや、なんだか違うらしい。
珍しく落ち込んでるなぁと思い少しだけ心配になる。
「へー、どうしたの、朝とは全然テンション違うね。」
「今日、親父が帰ってくるんだ、母親が言ってた・・.
本当、何が 今日は一緒に夕ご飯食べましょう、だよ。.
マジ嫌だ・・。今日はぜってぇー家戻んねぇ」
「いいじゃん、一緒に食事くらい。
あたし一人暮しだし羨ましいよ。」
「嫌に決まってんじゃン!!・・・ってことで、今日ちゃん家泊めてね☆」
ニコニコしてる緒方。
あたしの思考回路がぴたっと止まった。
「は!?何であたしが泊めないといけないの?!」
「いいじゃんか〜、ちゃん一人暮しなんだし
自慢の彼氏が困ってるのに、それでも彼女か!おい!」
と頭を抱えた.
あーあ。緒方は緒方でも某アイドルグループの緒方龍一君はあんなにダンスもギターも上手でカッコイイのにどうしてこっちの緒方英喜は・・・。
「なんなら別れても良いんだよ」
と言うと、顔を思いきり歪ませて、朝よりも泣きそうな顔になって
「それは絶対嫌!!だってちゃん好きだもん!!」
と最後のほうで自分で言って自分で照れていた。
なら言うな、とはいえず・・・でも、凄い嬉しかったから
「しゃーなしで泊めてあげるよ」
そう言ってニヤっと笑った。
「やった!!」
「でも、何もしないでね」
そう言うと緒方の顔が歪んだ。
何かするつもりだったんだ、こいつは。
「ええええ!!じゃあチューも?!」
「ええ、そうよ、それが無理なら矢島の家でも行くか
そこらへんの女捕まえて泊めてもらって、ね。」
携帯をイジリながら目も合わさずに言った.
彼女ながら凄い大胆発言だ.
彼女なら普通そーゆー発言しないだろう!と言う目をして訴える緒方を見ぬフリ。
「・・・何もしないから泊めてください」
「・・・・よろしい」
暫くして、直美が来ておはようって言ってきた。
直美は、あたしの一番の理解者。
だからといって、あたしの全部を話すわけにもいかなくて・・・。
それでもあたしは親友だと思ってる。
「おはよう、直美。」
だから一緒にいて凄く楽だ。
「朝からラブラブだね」
チャカされると、横からよしのが
「あたしと勇介には負けるけど―」
だってさ。
別に、対抗するつもりも無いしあたしと緒方が“ラブラブ”した覚えも無いのに。
ま、よしのの考え方に乾杯だね。おめでとう。
心の中であたしはおもってたのに
「いや、俺らのほうがラブラブだしー、ねっちゃん!」
あたしの相棒はそれを分かってはくれず、あたしを後から抱きしめた.
そんな緒方の腹にガシッとひじを入れ蹲ってる緒方を放っておいて廊下に出た.
誰かにぶつかった―と思いきや
「あ、おはよう、」
少し顔に傷がある矢島登場。
先ほどの情けない姿を見てたから、同情する。
「・・矢島、うっわ、顔痛そう」
「あぁ、ちょっと・・。」
「弱いくせにチンピラ3人と喧嘩なんかするからだよ、弱いくせに」
弱いくせに、を更に強調して言うと
「見てたのかよ・・。」
少し怒ったような顔をして中に入っていった。
矢島はあたしの幼馴染だ.
けど、そんなに好きな相手じゃない。
そういや昔一緒にトランペットの練習したもんだ。
あたしのほうがだいぶ腕前は上だけど。
小学生時代に吹奏楽に目覚め、それから吹奏楽をしていたあたしがよく教えてあげた。
でも、大切なトランペットを落され壊されてからこいつが大嫌いだ。
そう、あれは中学のとき。
放課後に二人で練習するために屋上へ行った。
そのときに、親にも頼らずに自分がずっとずっとお年玉を何年もためて
やっとこさ買った80万円の新品のトランペットを初めて奴に見せた。
まぁ、毎年家の関係で軽くお年玉は20万近くもらってたけど・・・。
それでも、自分の中ではものすごい達成感があった。
「すげぇじゃんこれ!」
「でしょ?80万したんだよ〜。絶ぇぇぇっ対落とさな、「ヘックシュン!!」
あたしの思いはすぐに落ちた。80万円したトランペットと一緒に。
かすかに、ガチャン、と気持ち良いくらいに粉砕音が聞こえた気がした。
矢島がくしゃみをして落としてしまったのだ。
「あ゛・・。」
気まずそうにこっちを見る矢島。
「この、、野郎・・。」
屋上から・・・。4階の屋上から、昇降口のある一階のコンクリートに向かって一直線。
トランペットはトランペットじゃなくなってしまった。
名づけるなら 元トランペット。
さすがのあたしでもコンクリに散らばる元トランペットを見て
これがどこの部品かもわからなくなったほど木っ端微塵になっていた。
こんなトランペットの新しい発見なんて要らない。
気が付けばあたしは珍しく理性を失い、矢島の胸倉を思いきりつかみ上げてた。
ものすごい矢島の顔が真っ青だった。
、のときは自分自身とけじめをつけて、一般人らしく理性を保てるけど・・・このときばかりは手加減無用。家のに戻り、いつもそこらの組にやるみたいに思いきり締め上げた。
修理もクソもない。
その日は何度も屋上から落ちる夢を見た。
悪夢だ。
なくなく、矢島から5万取り上げて、あたしの残った貯金20万円とあわせて
25万円の中古を買った。
今思えば、貧乏なあいつの家から5万取り上げたあたしって・・・。
あれさえ取り上げなければ、今朝矢島は怪我をしないですんだかもしれない。
本当に悪魔みたい。
あたしの実力は結構なものだった.
はじめたのは小4。
龍山に来る前までは、全国レベルの吹奏楽の凄い上手い所に通ってたし、コンクールなどではソロも吹いた。
ソロコンテストでも何度か優勝したことがある。
雑誌でも取り上げられたし、新聞にも載った。
でも・・。前の高校退学なったし
今はあたしのトランペット生活は封印している。気がつけば指が動いてるけど。
やめた理由はいろいろある。
退学後、1回、矢島が喧嘩してるのを無理やり止めさせられ
ナイフで指やられて神経がいかれてしまって、結構縫ったせいでうまく動かなくなった。
やけくそで喧嘩ばっかりしてリハビリも何もしなかったせいか
熱血に練習してた時期ほどスムーズに動かなくなり今ではただの趣味の一環。
その趣味でも、最近は毎日が忙しくてトランペットにかかわる時間も無い。
しかもマンション暮らしのため吹く場所もない。
今は龍山にいて、部活の ぶ の字も無いけど
音楽室にいけばトランペットの次に得意なピアノがあるし楽しい。
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