授業が終わり雅治に昼食食べに行こうと誘うと用事があると断られてしまった。
仕方なく他の皆と一緒に途中まで帰ることにして、用意をさっさと済ます。


用事ってなんだろ、今日は家に帰って来るのかな?
ちょっと不安で、考え込んでしまっていたらしく「いくぞ、。」という柳の声で慌ててかばんを持って後をついていった。

みんなわいわいと話しながらキャンパスを歩くが、どうもはしゃぐ雰囲気には馴染めない。
どうやらこれから高校のテニスを見に行くというのであたしは帰ることにする。
高校では帰宅部のバイト三昧だったために知ってる後輩とかがひとりも居ないから行ってもきっと寂しさを感じるだけ。

なんだか今日は上手くいかない。

「じゃあまた明日、ばいばい!」

できるだけ明るく笑顔で手を振ると、皆は「気をつけて帰るんだよー。」とか言って手を振ってくれた。


一人で帰るのなんて結構久しぶり。
なんとなく、ほんとうなんとなくで来た道を振り返ると、雅治が歩いていた。

なに?もう用事終わったの?声かけようかと思ったけどやめた。

意味わかんない、テニスサークルの後輩の女の子と一緒に歩いてる。
最近では滅多に見せなくなった笑顔を振りまいて。

なに、あの浮気現場は…眩暈と吐き気がした。
見てはいけなかったな、これは。
ここまではっきりと浮気を見たのは初めてだった。


一刻も早くここから逃げたくて、雅治に見つからないように去った。
ていうかあたしはやましいことなんてしてないのになんで逃げないといけないんだろう。
答えは簡単、関係が壊れるかもしれないからである。

残念ながら、あたしは浮気されようが雅治が好き。ちゃんと振られるまで別れたくない。
きっと皆は別れろって言うと思うし、あたし自身も別れるべきだとはわかってるけど…そういうのでどうにもならないのが好きという気持ちだったりする。
ほんとう厄介だよね。なんで好きなんだろう。




◇◇◇



重い気持ちのまま家に戻ると、おなかがすいたので何か作ることにした。
コンビニに行ってもよかったけど外に出ることさえ億劫。

クックパッドで何か手軽に作れるものを調べ、昼ごはんは手軽にオムライスで決定した。
たまごも材料も全部あるし、ケチャップもうすぐで消費期限過ぎるしちょうどいいや。


作ってすぐに玄関がガチャリと開く音がして「ただいま」と雅治の声がした。
あれ?さっきの女の子は?と疑問もあったけど、ここに戻ってきたことの嬉しさのほうが上。
彼の「ただいま」はまるで魔法のようだ、なんてね。

「おかえりー。」

少し手が離せなくてキッチンから言うと、雅治がこっちにやってきた。
そっか、オムライスは雅治の好物だったなあ。
半同棲状態とはいえほとんどあたしの家に住みついてるのだけど、雅治の食べ物の好き嫌いが激しくて最初は苦労したなあ…。


「腹減ったー、なんじゃオムライスか?うまそーじゃの。」

うしろからふわりと抱きしめられ、頭に雅治の顎が乗せられた。そのまま手が伸びてきて、できたばかりのチキンライスがつまみ食いされる。

「やっぱ美味っ。」
「ちょっと、まだできてないんだけど。」

少しふてくされて雅治の顔を見上げると、つまんだ指についたケチャップを舐めながらしてやったりといわんばかりの顔をした彼と目が合い、そのまま顔が近付いてきたので目を瞑った。

くちびるの暖かさはそのままなのにふわると香る香水の匂いだけがいつもと違うことに気づき、嬉しいはずのキスのはずなのに少しだけ鼻の奥がツーンとした。