「なあ聞いてや、またあいつと喧嘩してん。わけわからんわあ。」


朝、学校へ行く途中に侑士に会った。
結構頻繁に会うし、仲良いしこうやって二人で登校する事も珍しくない。

毎朝毎朝いろいろと話すんだけど最近多くなったのは侑士が彼女との喧嘩の話。
この前は浮気を疑われ、一昨日は束縛がどうたらこうたら。

「で、今日はどうしたの。この心広い様が聞いてあげよう!」
「・・・めっちゃ自分寒いで。」

白い目で見られた。

「そんなこと言うなら聞いてあーげない!」

べー!と舌を出して早歩きで歩くと、すぐに追いかけてきてうそやって、堪忍してえな。と顔の前で手のひらを横に立ててゴメンのポーズ。



「しょうがないなあ、で?昨日はどうしたの。」

「ああ、えっとなあ・・・なんやよおわからんねんけど。」

昨日はメールの返事が遅いとかで喧嘩になったんだって。
つまらない喧嘩だと思うんだけど本人達はいたってマジ喧嘩らしい。
メールくらいいつ返そうがいいやんなあ?!って聞いてくるので適当に相槌をうつ。

ホンマ腹立つわ、今思いだ出しただけでも腹立つ!と興奮しながら言う。

そんな喧嘩ばっかりならさっさと別れればいいのに、と思いつつそれは心にしまっておこう。
あたし自身年齢=彼氏いない歴といいますか絶賛片思い中の身。
ちゃんと恋人ができればわかるのかもしれない。

「あーすっきりした。聞いてくれてありがとうな、また昼にプリン奢るわ。てゆうか日曜日新しいラブコメの映画公開されるから行こーや。」
「あ、まじ?行く行くー。」

本当侑士は恋愛映画が好きだなあ。この映画のCMが流れたときに誘われる予感はしてたんだよね、ぶっちゃけ。
ああいう恋愛物は好きでも嫌いでもない・・・いわゆる普通なのだが、こうやって仲の良い友達に誘ってもらったら行くに決まっている。

友達、というか親友だといえるような仲という風に言ったほうが正解だ。
きっと今日は数学の宿題忘れたから写させてーとか言って隣の席に来るに違いない。
もう侑士の行動なんてわかってしまうよ、これくらい朝飯前。

「あ、数学の宿題忘れてた、なあ、一生のお願い、学校ついたら写させて!」
ほらきた。

「仕方ないな、プリン2個よろしくね。」
「・・・それ太るで、自分。」
「自力で数学頑張ってね。」
「嘘や、嘘やで!」


ちなみにあたしと侑士は喧嘩なんて一度もしたことがない。不思議と気が合う。
中1のときから今までずっと同じクラスで、席替えでもずっと席が近かった。

家も結構近いからよく一緒に学校に来てるし侑士が部活無いときはたまにだけど一緒に帰ってる。
体育大会でも一緒に頑張りーの、文化祭でも楽しくはっちゃけた。日直だって一緒に当たったりするし、委員会も同じ。

そろそろ寒くなってきたから毎年恒例で岳人と三人で鍋パもする約束してるし・・・ていうか岳人が家出したらあたしも家に呼ばれて朝まで語ったりする。

今日の昼もプリンを奢ってくれるらしいし、毎日の学校ゆえに1日6時間は最低一緒に居るし、学校での悩み事の相談なんかも乗ってくれるし乗ってあげる。毎日侑士のテニス部姿を見れるし、さっきは今週の日曜日に一緒に映画に行く約束をした。


以上のことは他校生である侑士の彼女にはきっとできないことだ。
まあ一番欲しい侑士の気持ち自体は頂けないものの、今は彼女よりもあたしのほうがきっと仲が良いし喧嘩もしないし笑いあえてるし、昼ごはんだって一緒に食べてるし、共通の友達もたくさんいる。

侑士の彼女がしたことないであろう、できないであろう数々のことをあたしが簡単にしてしまい優越感すら覚える。

、はよいかな遅刻すんで。」
「はいはいわかってますよー。」

たとえこの想いが届かなくても、今はこの距離感で十分あたしは満足している。
何故なら、いつか終わってしまうかもしれない恋人同士よりも、友達同士であるあたしと侑士の距離は好き嫌いで終わってしまうんじゃなく、ずっと続いていくのだろう。
友情というものは特に何もない限り、一生物なのだから。