「ごめん、もう好きじゃないや。別れて?」

目の前でポカーンとする仁王君を放って帰った。
そりゃそうだろう、付き合ってまだ5日も経ってないんだから。

もうこの別れ方をするのは何人目になるんだろう?
付き合う前は付き合ってみたいとかいいなあとか思うんだけどいざ仲良くなってメールが毎日来るようになって、電話も毎日来るようになって向こうが私に好きオーラを出し始めると最初は嬉しいんだけどすぐになんか好きじゃない気がしてくる。

そのまま気づかない振りして付き合ってしまえばもうおしまい。急激に冷めるスピードが速くなって、今回の仁王君にいたってはこんな結果だ。
恋愛シュミレーションゲームというか・・・ゲームのほうが良いよ、手軽で。

本当に付き合う前は好きなのになあ。
手もつなぎたいしチューもそれ以上のこともしたい。自分が片思い状態で追いかけてるときは燃えるのに。


成人して尚こんなダメダメ女ということは自分でも理解しているが、感情というのは意思で何とかなるものでもない。
昔からこんなダメっぷりだったわけじゃない。いや、中学のときはダメだった。
好きでもない人ととりあえず付き合っては別れを繰り返していたなあ、中学3年間でとりあえず15人くらいは付き合っただろうか。
ダメ人間の基盤はここでできたのかもしれない。


そんなあたしでも、高校1年生のときに同じクラスだった幸村君に恋をした。
中学のときにもかっこいいなあとか好きだとか思ったことはあるけどこの感情とは別物だった。
初めて中身を見て好きになって、彼の顔を思い出すだけで顔がにやけて、おはようとかの挨拶がすごく嬉しかってその日一日脳内花畑。
これが初恋、これが本当の好きだという気持ちということはすぐに理解できた。

友達曰く両思いだったらしいけど、高2でも同じクラスになって浮かれてたのに途中からその人はあたしの嫌いなクラスメートに気持ちが傾いていったのを私は見てるだけで痛感して、さすがに泣いた。

それがあたしの初めての失恋で、でもあんなに好きになったのは初めてだから諦め方がわからずにまた別の人と付き合った。
跡部君という名門高校に通う同い年の子。
失恋から1年も経ってなかったし、初恋には適うはずもないと思ったがこれはこれで案外真面目に好きになれた。
でも彼はあたしを振ったけど。理由は覚えてない、多分大学受験とか重なったんだと思う。

その降られた週の日曜に友達に慰めてもらって遠くに遊びに行ったがなぜかそこで友達の彼氏と合流して3人で遊んだのを覚えている。
なんでこの失恋時ホヤホヤの傷心中にカップルのいちゃつくの見て行動しなければならないのかわからなかったけど、我慢して遊んだなあ。
二人を見るたびに跡部君を思い出して最悪だった。
その友達とは高校卒業を機に縁を切った。


あたしは大学に行かずに就職したがそこでもまた好きな人ができた。
宍戸さんという先輩だった。

これもあたしなりに本気に恋をしたんだ。
そっけないけど優しくて、ミスしたときに慰めてくれて、二人で遊びにも行ったり趣味も最高に合う。
なぜか二人の間に親友が入ってきて、親友の彼氏の忍足君と4人でよく遊ぶようになった。

あたしは仕事に不満を持って辞めたけどそれでも4人で遊んでた。
暫くして親友は2年半付き合った半同棲中の忍足君と別れたのと同時に宍戸さんと付き合ったんだ。

親友はあたしが好きだということを知っていたらしく笑って謝ってたが、親友だったからまあいいやと割り切って応援することにした。
それ以来あたし達はどことなくぎこちなくなって今では連絡も取ってない、所詮親友ではなかった。今は同棲してるんだって。すこしだけ心が痛かった、もう2年も前のことで宍戸さんのことは好きでもないのに。

その失恋でだいぶと病んだけど、あんまり関わってなかったにもかかわらず、本当にたまたま話を聞いてくれた佐伯君が好きになった。
ちゃんと働いてる人だし、車も持ってるし向こうもあたしを好きだといってくれてすぐに付き合った。

記念日には7万もするペアリングを買ってくれたり、携帯もオソロにしてみたり、結婚を視野に入れて付き合っていた。
結婚資金のために同じ口座に預金してたし、同棲の物件探したりね。
だけど佐伯君はちょっと女心をわかってなさすぎて吃驚した。

「1番最初に付き合った彼女が1番好きかな、今は。」
「結婚しようと思ってたよ、その彼女とは。もちろんともしようと思ってるけどね。」
「重いよ、お前。」
「記念日?しらねえよ。」
「バーベキュー行ってくる。女?来るんじゃね?アドレス?聞かれたら好感するかもねー。」
「あ、その香水元カノと一緒。」

なんか佐伯君のことは本気で好きだったけど、これ以上一緒に居たらあたしの心が持たないと思って去年の夏の終わりに別れたんだ。
あたしを元彼女と重ねてみていたのだろうか、とか考えれば考えるほど胃がきりきりして何もやる気が起きなくなった。
昔からあたしのことを心配して、つらくなったら助けてくれる弦兄も、それで正解だといってくれたけど病んだ。
どれくらい病んだかといえば拒食症で10キロ体重落ちたあとに過食症で15キロ増えたくらい。
生きる意味って何?って思うくらい病んだ。


その三日後に以前から好きだと言ってくれていた一氏君と付き合った。
やんちゃだけどしっかり働いてるし、口は悪いしヤンキーあがりだけどなんだかんだで優しいし、あたしには弱い人だった。とりあえず病んでるから寂しさ埋めようとしたけど、やっぱ佐伯君が心に居て申し訳なくって別れた。

でも佐伯君とは戻れないから荒れてしまいあたしの恋愛暗黒期に入ってしまう。

友達が皆してた出会い系で知り合ったメル友と片っ端から会って、寂しさ埋めるために体重ねてばっかりしてた。
一日3人の日もあったし、スケジュール帳は男の名前で埋まった。
今見返しても、えぐい。

セフレがきっと15人くらい居たかも。処女なんて中学生で終わってるあたしにとっては別に対したことないって思ってたけど。周りの友達だってセフレくらい何人も居るし。
ホスト、既婚者、彼女もちとかいろいろ居た。

でもそのセフレの中にはただのヤリたがりばっかりじゃなくって、あたしのこと心配してくれる人もいた。話を聞いてくれる人がいたんだ。

愛が欲しかった、寂しさを埋めたかった。ただそれだけで、誰でも良いから一瞬でいいから愛してくれる人が欲しくってやめれなかった。

その日はたまたま切原君という人と会った。冗談で付き合ってって言ったら頷いてくれて、うれしくって付き合ったけど冷静になったらなんだか車持ってないし時間にルーズだし好きじゃないし面倒くさいし自分の感情に違和感を感じて別れた。
鳳君、向日君、財前君とかとも付き合ったけど、これもまたなんだかしっくりこなくてわかれた。


次に印象に残ってるのは柳君という人だ。辛かったなって慰めてくれたり、仕事が上手くいかなくて落ち込んでたら車で迎えに来てくれて夜景に連れて行ってくれた。車の中で結局体重ねちゃったけど。
そのまま連絡は取ってなかった。

その1ヵ月後に不二君と付き合ったけどこれまたダメ男で、別に好きじゃなかったけどクリスマス終わるまでは一応付き合おうと思ったけどガマンできなくて白石君と千歳君というセフレと遊んだり、謙也君と二股で付き合ったりした。不二君とは年明けて今年の最初に別れた。


そこから1週間後に柳君から連絡が入ってなんだか付き合うことになったけど真面目すぎて合わなくて自然消滅。



今思えば去年は丸々1年消したいくらい馬鹿だった。
去年の今頃からだったな、なんだかだれも好きになれない。

好きだと思ってもなんだか違和感がある。
本当には好きじゃないような、この人じゃないって思っちゃう。

今、佐伯君と別れてからもう1年が経つし、あの頃はちょっと愛されたくって依存してたということがわかった。
今思えば全然好きじゃないし佐伯君を好きだった自分が気持ち悪いとも思う。
他に軽いノリで付き合うことになった人たちのことを思い返しても気持ち悪いと思う。
男って気持ち悪い。


それに幸村君然り、跡部君然り、宍戸さん然り、佐伯君然り、他の人然り・・・。

間を空けることなく本気で好きになってしまったからあたしの中の恋愛感情が充電切れの空っぽなのかもしれない。しかも去年だけでいろいろな人と知り合いすぎた、色々刺激が多いことがありすぎて、多くの人と付き合いすぎたから故障しかけてるのかもしれない。
なんかセフレを大量に作ってわかったけど、男がどれだけ女を体目当てで見てるかわかったから、近寄られてもあたしをだまそうとしてるんじゃないかって思って怖いし。
充電中というよりも恋愛恐怖症というべきなのかも、あ、やっぱこれって故障?

まあ去年のマイナス思考の病み病みなあたしはもう居ない、落ち込んでも瞬時に立ち直れる鋼の心を手に入れた、って言えばちょっと馬鹿らしいけど。
何はともあれ正反対プラス思考のあたしが今居るから結果オーライ。
色々な経験ができたお陰で年下の恋愛で悩んでいる子からは姉御と慕われているし、相談のプロになった。

今は友達と遊んでいるのが楽しくて仕方が無いから当分恋はしなくっていいや。


携帯の電話帳から「仁王君」の文字が消えた。



本当のところを言えば改めて自分と向き合ってみると、今心の中に誰かが残っているとすれば間違いなく幸村君だ。


あたしってなんてダメな女なんだろう。


もしかすると佐伯君と本気で付き合ってるときも気づいてないだけで幸村君が心のどこかにいたのかもしれない。


きっと幸村君か、幸村君を越えるくらい強烈に好きにならないともうあたしは好きになれない。
いやでも幸村君でも今のあたしがずっと好きで居られる自信はこれっぽっちも無い。
まあ目の前に現れてくれないとわかんないけどね、記憶と今は違うし美化されてるだろうし。
だって幸村君と居た高校時代なんて6年前だし。


やっぱ初恋だからとか、あたしが幸村君をちゃんとキレイに好きなまま恋が終わったから忘れられないんだ。
跡部君も好きなままだったけどやっぱり高1から跡部君と付き合った時までの2年半の初恋には適わない。


誰かと付き合って別れるたびに結局幸村君が残ってるんだ。
あんなに佐伯君が好きだったくせに心のどこかには幸村君が居た。声も表情も忘れかけているというのに。


幸村君パワーといいますか、初恋パワーといいますか。


本当に初恋は恐ろしいものですね。