一枚の招待状を手に、横浜にある某ホテル・・・ちなみに鳳凰の間、というところに来た。
今年で33歳になったあたしは今まで顔を出すことが無かった立海大付属中学の同窓会に初めて顔を出す。


やっと見つかった!」
「あたしも今探してたんだ!」
受付を済ませて中にはいったのはいいが、人が多すぎて探すのは困難だったが、どうやら向こうから見つけてくれたようだ。一安心。

この子はあたしの親友。
中学時代は喧嘩もしたし、10年間の渡米で長年会ってなかったけど7年前の帰国直後の合宿が終わり、幸村君との恋が終わったあとにしっかりと慰めてくれた、今でも変わらなく続く自慢の親友だ。


乾杯が始まり、あたしは親友と色々食べながら近くに居た当時の友人達と話していた。
懐かしくて凄く楽しい。
昔はこのメンバーでよく行動してたし、カラオケとか行ったもんだ。
本当、久しぶりすぎて逆に緊張してしまう。

「そうそう、駒田君も結婚したんだって!」
「え、まじでー?」
「駒田君ってバスケ部のキャプテンだった子だよねー!」
女というのはいつまえも噂話や他人の話が好きなようで、皆が結婚した、子供を生んだ、離婚したなどの話で盛り上がっていた。
年齢こそ重ねたもののいい意味で全く変わってなく、懐かしさで胸が一杯になる。

、か?」

ふと後ろから話しかけられ、後ろを見ると見覚えのある二人組。


「丸井君とジャッカル君!」

今日の同窓会はこれない人も結構いたらしいが立海はすごくマンモス校、1学年分の同窓会のために会場も凄く広くて運が悪ければ誰とも会わずに終わってしまいそうだった。
そこにこの二人。
うわー!33歳ともなるとこんなに落ち着きが出るんだ!でも丸井君の髪の毛は相変わらず赤い!


8年前の合宿後はあたしの失恋を慰めるために何度か遊んだりしていたのだけど、わざわざあたしがアメリカから日本に呼び戻されたことあって仕事が凄い忙しく、向こうも結婚してたり仕事だったり中々会えずに結局これで6年ぶり。

「あ、テニス部じゃん。、久しぶりでしょ?話しておいでー。」
またあとでねー!と親友がそう言って、他に居た友達と食べ物をとりに行った。ちなみにビュッフェだ。


「おいおい、来るなら教えろよぃ!」
「はは、ごめんね。驚かせようと思って。」

「それより、幸村も、来てるけど・・・。」

大丈夫か?とジャッカル君が気を使ってくれるが、笑顔で大丈夫だと言った。
一応言っておくが、幸村君への未練も好きだという感情だって無い。
そんな8年も引きずるようなことをしない。

あるのはともに3年間を過ごした最高の仲間、という皆に対する感情と同じ。
「ねえ、あたし皆に会いたいんだけど!」


そういうと二人は微笑んで、付いて来いと言った。
きっと私が完全に吹っ切れているということもわかったのだろう。

どうやらテニス部のレギュラーだった皆はかたまった場所に居て話しているみたいだ。
ちょっとどきどきする!

□□□


じゃ!えらい久しぶりじゃのう!」
「うわ!大人の仁王君だ!大人だ!」

みつけた集団に近付いていくと、真っ先に仁王君と目が合って名前を呼ばれ駆け寄ってきた。
大人の仁王君という言葉に対してなんじゃそれといわれた。

数名はあたしに驚いてたけどこうやって皆の前で、幸村君がいる前で笑顔で来れるということであたしが吹っ切れたことを悟ったみたい。


「わわ!真田君、全然変わってない!柳君も柳生君全然変わってない!昔のまま!」
「・・・それは褒めているのかけなしているのかどっちだ。」
困ったように3人は笑った。

「あ、えっと、ごめんなさい!」
まずい!と思って慌てて謝ったたのだが他の丸井君や仁王君たちに笑われてしまった。

真田君はたるんどる、と言っていたが同じく笑っていた。
まだたるんどるって言ってるんだ!おもしろーい!

ふと視線を向けた先にちょうど幸村君が居て、目が合ってしまった。
一瞬向こうの顔が強張ったのがわかったが。
「久しぶり、幸村君!」
気にせずにそう言ってにへらっと笑ってそう言った。

「久しぶりだね、。」

一瞬驚いた顔になったが、すぐに頬を緩めて嬉しそうに向こうもそう言った。
今この瞬間、あたし達はしっかりと和解してお互いを過去にできた瞬間だと思う。
周囲も心なしかほっとしたように思える。


「ああああ!、ソレ!」
「え、何!」

いきなり丸井君に叫ばれてしまって何事かと思ったけど丸井君が指した先を見ると皿の上のローストビーフ。

「え、何?欲しいの?ローストビーフ。おいしいもんねー、取ってきてあげようか?」
「ちげえよ!そこまで食意地はってねえよ・・・。それより左手!」

あたしの左手で、一気にそこに注目をあびた。

「いつの間に結婚してんだよぃ!」

えへへ、と笑いながら芸能人がよく記者会見でやるように顔の横に左手のひらを並べた。

「んーとね、5年前かな。28歳のとき。帰国して3年後にね、直属の部下だった子と。」
え、もしかして年下?!と丸井君が詰め寄ってきたからちょっとあたしも引いて頷いた。

「データでも全く予想できなかったな。」と柳君が呟いた。

「なんで結婚式呼んでくれなかったんじゃー!俺達行ったのにのう。」
「本当だぜ、まさか結婚してるとはな・・・。」

まじまじと顔を見られると照れてしまう。
ていうかその信じられないってゆう顔を切実にやめて欲しいんですけど。


「呼びたかったんだけどね、彼もあたしも両親がアメリカだからアメリカで挙げて・・・呼ぶに呼べなかったの、ごめーん!」
「アメリカ人と結婚したのか?」
「ええ、でも彼は中学から日本に住んでるから日本語もペラペラよ。」

「それでも行ったっつーのに。交通費くらい全部出すのに!・・・ジャッカルが。」
「おれかよ!」
久しぶりに見たこのやり取りに思わず笑ってしまった。
おおよそ20年経った今でもこれは変わらないんだ!

「あーあつまらんのう、がまだ結婚してなかったら俺が貰ったろ思っちょったのに。」

仁王君のその発言に全員が声をそろえて「え?」と言った。
「え、仁王君って結婚してないの?」
「してるぜよ。さっきの冗談。」
そういってニヤリと笑った。やっぱこの人詐欺師だ。
この年でもまだ詐欺師なんだ、ちゃんと働いてるのかな・・・怖いな。

「仁王が詐欺師になってないかな、が思う確立100%」
「酷い思われようじゃのう。」
「柳君、言わないでよ!」
「本当に思ってたんか・・・。」

ごめんなさい!と慌てて謝ったらやっぱり皆笑ってた。
なんだか皆にはいつまでも勝てないや・・・と改めて思いため息を付いた。


あ、そうだ!とデジカメを出して皆に見せると全員が画面を覗き込む。

「え、これ、って。」
「もしかして、の?」

画面の中には小さな男の子二人が笑顔で写っていた。

「そう、これ双子なんだ!今年で4歳なの。」
「吃驚しましたよ、お子さんも居るんですね。」
「俺にもみせろぃ・・・ちょーすげえ、ハーフじゃんかわいいー!」

丸井君はそういってデジカメを奪い取り、ソレを邪魔するように仁王君は横から覗き込んだ。
が母親か。これはいいデータが取れそうだな。」
「柳君、データとって何に使うの?選手でもないし使い道ないと思うんだけど・・・。」
「秘密だ。」

柳君のデータって本当に何に使われているんだろう。


「でもあのが母親ってなあ・・・。」
「ジャッカル君、ソレどういう意味。」

ギロリと睨んでみると慌てて謝られた。

「俺にも見せてよ。」
「どーぞ。」

幸村君にデジカメを渡した。

「目がにそっくりだね、可愛いよ。」
「ありがとう、よく言われるの、目が私って。」
ふふ、と笑って返されたデジカメをかばんに直した。

そこからは皆で昔の思い出話や今だから言える昔の悪戯などを話しているともう楽しくて仕方がなかった。
真田君が怒ったらどうしようと思ったけど彼は笑って聞いていた。
少しは柔らかくなったようだ。

「あ、そういやってアメリカ人と結婚したんだろぃ?」
「うんそうだけど。」

何かを思いついたように丸井君がそういってまたあたしの結婚話に戻ってしまった。
「苗字はどうなったんだよ。」
「ああ、うん。アメリカ人っていってもねー、国籍は日本だからカタカナだった苗字を漢字に当てはめてたみたい。」
「今後のためにも聞いておこう。教えてくれないか。」
「蔵兎座。」

今の本名を名乗ると皆の顔が難しい表情に変わった。
え、なんで?

「くらうざ?」
「うん、もともとはクラウザーって苗字だったんだってさ。それで蔵兎座。変わってるよね!」
そう言えば皆の顔が心なしか青くなった。
「は・・・ははは!まさかな!ははは!」

「あ、彼がねーなぜか赤也のこと知ってたんだー。吃驚するよね。何で知ってるんだろう?」

「俺なんとなくだけど・・・そいつのこと知ってる、かも・・・。」
「同じく・・・。」

え、なんで!皆彼のことをなんとなく知ってるようだった。
どうして皆知ってるのかよくわからなくてあたしは首をかしげた、ところでカバンの中の携帯が震えた。

「・・・あ、噂をしてたらってやつだね。着信入ったわ・・・またあとで戻ってきまーす。」
「おう。」

彼からの電話で、あたしはホテルの外まで出た。





◇◇◇


「はーい、それじゃあね。」

どうやら、子供がはしゃぎすぎて転んだらしく絆創膏と消毒液の場所がわからなかったみたいだった。
思った場所に無くてちょっと探してもらったりしてるとすこし時間がかかった。
電話も終わったしまた会場に戻ろうとしたら

。」

ふと名前を呼ばれて振り向いた。


「ゆきむら、くん?」
「遅かったから心配になってね。」

そういえば昔から心配性だったな、そこは変わってないんだね。

「久しぶりにさ、少し話さないかい?ちょっと抜け出して。」
「・・・そうだね。いいよ。」

ホテルにきれいに整備された広い庭があるのでそこを歩くことにした。
夜はライトアップされて凄くキレイだ。

家からそう遠くは無いのでもうすぐ迎える結婚記念日は子供をつれてここにこようかしら。

「ここに座ろうか。」
「うん。」

ベンチがあったのでそこに腰掛けた。
私の左隣に幸村君が並んだのはいつぶりなんだろうか。距離は多少遠くなったものの、昔の錯覚さえ覚える。
懐かしいな、こうやって話すの。



「懐かしいね、こうやって話すの。」

「う、うん。15歳のときが最後だから本当、約20年ぶり。」
あたしが思ってたことと全く同じことを言われて少しドキリとした。

は変わったね。母親になってたくましくなったよ。」
「そうかな?年のせいじゃない?幸村君だって貫禄出たよ。」
「褒め言葉?」
「当たり前じゃない。」

お互い、ふふっと笑った。
あの時はこんな小さな会話が幸せだったんだ。

「懐かしいな、そういえばあたし、幸村君のこと好きだったねー!」
「あ、過去形?」
「当たり前じゃん。子持ちよ、あたし。幸村君だってそうでしょ?」
「ふふっ、そうだね。俺ものこと好きだったな・・・。」

そう言い、少し沈黙。
きっと昔を思い出してるのかな、きっとそうだ。あたしがそうだもの。


幸村君を好きになったのは中1の夏で、あたしから告白して付き合うようになったんだ。
そういや真田君は「交際などたるんどる!」とかで赤面してて丸井クンたちには盛大にからかわれたんだけど幸村君の静かなる怒りですぐに沈静化した。
に手を出したらどうなるか、わかってるね?』という言葉と笑顔にあたしも少しだけ怖かったの覚えてる。

毎日手をつないで学校行って、帰って。休日は一緒によく出かけたっけ。
中1の誕生日にペアリングを貰って、あたしは誕生日に何あげたっけ?あ、そうだヘアバンド!

なつかしいな、自主練にも付き合ったなあ。
海原祭も体育祭も一緒にすごしてなんだかかんだでいっつも横に幸村君が居たなあ。
幸村君が倒れたときはまじで泣いて、手術が成功したときも嬉しくて泣いて、リハビリも手伝って、幸村君がコートに戻ってきたときには嬉しすぎて泣いた。
は本当に泣き虫だね、だなんていわれて泣かせてるのは幸村君だって怒ったけど怒りきれなくて泣いた。
すっごく心配性で、優しくて、暖かくて、大きくて、テニスが好きな彼が何よりも大好きだったんだ。
あの時のことは本当に忘れることはできないなあ。


やっぱり初恋とか失恋という類は何年経っても、切ないものだと改めて思う。
例えソレがお互いに、すき“だった”としてもだ。

「7年前、幸村君が結婚してるって知ったとき超泣いたんだから。」

あたしは笑いながらそう言ったが、幸村君は同じように笑ってくれない。
正反対の少し難しい顔をしている。

「・・・ごめんね。本当にゴメン。」
「いや、いいんだって!うん、本当いいよ!」

そう明るく言って立ち上がって幸村君のほうに振り返った。

「あたし達はあぁなる運命だったの!そのお陰で、あたしには宝物が二人居るんだもの!・・・もし幸村君があたしを待ってたら、今頃出会えてなかったんだもん、大事なあたしの子供達とは。だからこれでいーのっ!お互い幸せ、それが一番でしょ?」

にへら、と笑って見せるとようやく幸村君も笑ってくれた。
あの日渡米したことも、あの日帰国したことも、合宿に参加したことも、泣いたことだって全部後悔してない。、
辛かった分以上の幸せをあたしは手に入れているからだ。
幸村君以上に、今の旦那や子供達を愛している。

「ちょっと俺が居なくてよかったって感じで傷つくな、ソレ。」
「いやいやいや!いじわる言わないでよ!」
「はは、冗談だよ。」


「そろそろ戻ろうか。柳君たち心配してそうだし!」
「あぁ。」

幸村君も立ち上がり、来た道を戻る。
もう少し話していたかったけど、これからまた話す機会なんてたくさんあるはずだと信じよう。


「またと、こうやって話せてよかった。」
「うん、あたしも。ねえ、あたしたち親友だよね、ある意味。」
「親友、かあ。そうだねそれ良いよ。」
「やった!ってことでこれからもよろしくね。」
「ふふ、よろしく。」


あたしの携帯に、かつての仲間の足りなかった一人の名前がやっと登録された。
これで、あの頃のメンバー全員でこれからもずっと仲間で居られる。
誰かの誕生日を祝ったり、家族を連れて遊びに行ったり。
そうだ今度旦那を連れてみんなでテニス会みたいなのを開こうって誘おうかな!

あたし久しぶりに赤也にも会いたいしさ!

笑いあいながら戻ってきたあたし達に、立海テニス部たちは安堵した表情・・・を通り過ぎて嬉しそうな笑顔を見せた。
やっぱり皆は心配してくれてたんだね。
あたし達が友達に戻れますようにって、思っててくれたの、すっごく伝わった気がするよ!

ていかもう33歳なのにそんな心配してもらわなくても大丈夫なのに!
・・・でもすごく嬉しいよ、ありがとう。
これでやっと全員が揃ったね。




世間一般では運命の人=結婚する人とか結ばれる人だとかゆうけど・・・。

けどあたしが思うにはね、運命の人が居てもその人と結ばれるとは決まってないんだよ、きっとね。

幸村君とは運命の人だったことは確かだと思うんだ。
運命は運命でもきっと違う運命の人なんだよソレは。
最後は結ばれない運命の人、という。


あのときの143は153・・・つまり“I LOVED YOU”になったけど、こういうハッピーエンドもありなんじゃないかな?
こうやってまた笑い合えたでしょ?これで充分なハッピーエンドだと思うんだ。



こうやって昔の恋を思い出すと、旦那や我が子に会いたくなってきた。
帰ったら、ぎゅっと抱きしめて大好きだ、愛してる、といっぱいいっぱい伝えよう。

愛している人に、愛してると思ったときに、愛の分だけ、愛を伝えよう。
もう二度と「愛してた」にならないようにね!