「4席。これお願いします。」
「解りました。」
「・・・さん、これお願い。」
「わかりました。」
みんな、決まってあたしと話したあとは顔を歪める。
無表情。できれば関わりたくないって、思われてるのか。
皆と仲良くないあたし。何でだろう?
何か知らないうちにやってしまったのかもしれない。
もちろん覚えが無い。
最初、あたしが心を開かなかったのが原因かもしれないけど。
死神の人は少しあたしに対してあからさまに素っ気無い。
吉良副隊長に話しかければ忙しいので、と。阿散井副隊長に話しかければ、あからさまに睨まれた。
胃が痛くて痛くて仕方ないときもあった。
あたし一生懸命仕事してるはずなのに。
だから実力で3番隊4席をとった。
どうしてかな?あたしと距離を置く。
まぁ、誰か居ても話す事も別に無いから、1人でも良いんだけど・・
――――やっぱり寂しい。
上手くいかないのは、やっぱ寂しい。むなしい。
松本副隊長たちは・・・他の皆はいつも仲良いのに。
あたしはそれを横目で見ていつも一人ぼっちだ。
そんな中、やっぱり日番谷隊長だけはあたしを理解して、寂しいときに一緒にいてくれた。
なぜなら真央霊術院時代からの同期だからだ。
そんな日番谷隊長が。昔から好きだった。
昔は冬獅郎、と呼び合う仲だったのに、今ではそんなことも許されない。
でも、こんなちっぽけなあたしにこの恋は、報われないことくらいわかっていた。
あたしがこんなんだから、元々駄目ってわかってたけど、それ以上に理由がある。
彼には、付き合ってる死神が居るから。
その死神はあたしと違い、他の死神たちにも好かれてる。
十番隊3席の美人な女の子。
それでも好きで好きでたまらなくて。どうしようもなくて。
二人で並んで歩いてるのを見かけるたびに胸が痛くて。
何時も横に居たのはあたしなのに。一緒にバカやって笑ってたのはあたしなのに。
何であの子なの?なんて幸せそうな二人見て思って。
あたしは日番谷隊長の同期ってだけで、普通の死神だし。嫌われ者だし。
とりあえずこのままでは自分がおかしくなりそうだった。
本当柄じゃない。
でもあたしも一応は、普通よりも強気女なのでこのまま引き下がるのも柄じゃなく。
彼女の居ないところでさりげなく想いを告げよう。
日番谷隊長が一人で気晴らしに散歩しているときにこっそり近くに行って話し掛けた。
「どう?最近。」
零圧を感知してか、そこにたどり着く前に振り向かれにっこりと微笑まれた。
「あぁ、まぁまぁってとこだな。はどうなんだよ、最近?」
あたしはたんぽぽの綿をふうと吹きながら「微妙」とだけ返すと、そうか、と返ってきた。
少し沈黙があって、今しかないと思いあたしは言った。
「ね、とうしろ、あたしあんたのこと好き。」
そういうと目を見開いて「はああ!?」と驚いた。
そこまで驚かなくても良いのに。
「いや、何でも無いよ!」
なんか、すごく嫌な気分になってしまった。
何が?と聞かれれば答えれないけど、何か、が。
羞恥心が沸いてきて、踵を返した。部屋に戻って仕事再会しよう。
「ちょ、おい!」
後ろから呼びとめる声も無視する。
あたしの心臓が壊れそうだ。もうだめだ!
あーあーあーなんで言ったんだろう!!
物凄く後悔だ。やっぱり、彼もあたしの事鬱陶しく思ってたんだろうか。
「はああ?!」って言われたんだよ!「はああ!?」って。
明日から、顔合わせにくいなー。
ため息をついて部屋に戻ろうと歩いていたら、藍染隊長がそこにいた。
どうしたんだろう?いや、でも・・・あたしが話しかけても嫌がるし・・・。
会釈だけして横を通り過ぎようとした。
「君、ちょっといいかな」
予想外にも呼び止められてしまったのだ。
しっかりと腕を掴まれていて、顔には優しい微笑み。
「は・・はあ・・・。」
□□□
人目につかないつかない場所までつれてこられたと思えば
いきなり結界を張られた。霊圧も、音声さえも漏らさない特殊な結界。
何?もしかしてここで殺されたりする?
少し身構えていると
「そんな構えなくてもいいよ、別にとって食おうとは思ってないよ。」
いつもの藍染隊長らしい微笑だ。
けれど「さあ、本題に入ろうか。」といった彼どこか雰囲気が違ったように思えた。
「どうだい、くん、僕達のところへ来ないかい?」
「え、5番隊ですか?」
「違うよ、もっと良いところだ。」
そうして彼は軽く自分の企てを話した。
朽木ルキアの殺害計画、四十六室殺害計画
虚圏のこととか、市丸隊長、東仙隊長が実は仲間だとか。
まさか、この人がこんなこと考えていたなんて思いもしなかった。
「わたしも、行っても良いんですか・・・?」
自然と出てきた言葉はこれだ。
「あぁ、君にこんな場所は似合わないさ。こんな普段の苛立ちを君にぶつける連中の居る、こんな場所には、ね。君は霊圧を特殊な装置で抑えているから皆気づいていないけど、君の霊圧は普通じゃない。こんな場所なんかにとどまっておくには勿体無いよ。」
藍染がそういったのに対してあたしは驚きを隠せなかった。
「なぜ、それ、を・・・!?」
そうだ。あたしの霊圧は尋常じゃない。
隊長格、いやそれ以上を軽くしのぐ霊圧を持っている。
不気味がられるのが嫌で、ずっと装置をつけていたのに・・・彼はソレを簡単に見破った。
「僕にわからないことなんて無いよ。君の力を僕に託してはくれないかい?
僕達と天に立とう。」
そのまなざしは優しく、なおかつすごく真剣で、本当にあたし自身を見てくれているのだと思った。
嬉しかった。
いつも、まわりはあたし自身じゃなくて、あたしの戦力だけしか認めてくれてない。
あたし自身なんて解ろうともせず、どうでも良い扱いをする。
虚退治のときは、良い持ち場を与えてくれるが、終われば、誰とも話さなくなる。
本当は、ここに居ることがつらかった。
でも、虚退治を嫌がり、戦力に加わることをやめるとあたしの価値は無くなってしまい、居場所すら与えられなくなると思いやめれなかった。
勿論両親や身寄りなんてものは居ないし、実を言えば尸魂界に対する気持ちは、無いに等しかった。
そんなときに来たこの誘い。
藍染隊長なら、虚園なら、あたしを迎えてくれるのかな。ちゃんとした居場所を見つけれるのかな。
「じゃあ、僕は行くよ。3日後にまた返事を聞きに来る。良い返事を期待しているよ。」
藍染隊長はそういい、結界をといて去っていった。
あたしの手は、知らないうちに震えていた。
隊舎に戻ろうと、先ほどのこと考えながら歩いていると誰かにぶつかった。
「っ、すみません・・・」
あたしがぶつかった相手は、斑目三席と綾瀬川五席で、彼らは上からあたしをきつく睨み斑目三席は舌打ちを、綾瀬川五席は「醜いね」という一言だけを残して去っていった。
彼も相当あたしが嫌いなようだ。
ふと我に返ると、隊舎と違う方向に向かってることに気づき、部屋に戻ろうと思って方向を変えると真後ろに松本副隊長が立ってあたしを見下ろしていた。
「・・・こんなところで突っ立ってったら邪魔じゃない。通行の邪魔よ。帰りなさい。」
一言だけあたしにそう言って去っていった。
少し涙が出そうになったけど、大丈夫だった。
藍染隊長の言葉に大きく救われた。
取りあえず、隊舎の自分の席に戻り、書類に筆を走らせながら考える。
そんなときだ。
「ちゃーん、ちょっと来てくれる〜?」
隊主室から隊長の声が聞こえた。
今までいろいろな人にいろんなイジメや罵声を受けてきたが、市丸隊長には何もされたことがなかった。
何もされなかった、というよりかは、自分の隊の隊長のクセにあまり関わったことがなかったというのが正しい。
「は、はい!今行きます!」
そういってあわてて席を立ち上がり部屋まで行った。
「えっと・・・いったい何でしょう・・・?」
恐る恐る聞くと、隊長はあたしの近くまで近寄り、耳元でささやいた。
「藍染隊長から聞いたんやろ?」
「・・・はい。」
「実際どうなん?返事のほうは。僕的にはちゃん来てくれたほうが華あってええとおもうんやけどなあ。」
そういわれ少し黙ってるとさらに隊長は続けた。
「向こうやったらちゃんを除け者になんかする奴おらんし、居る奴は人間ちゃうし多少気味悪いと思うけど楽しいと思うで?」
あたしは市丸隊長から一歩はなれて目を見つめた。
いきなりはなれたことに驚いたのか、隊長は、お?と言った顔でこっちを見た。
「・・・あたしでも、歓迎してくださいますか?」
すると隊長はすぐに笑顔になって勿論やんか!といった。
「そうですか、よかったです。」
あたしも久しぶりに日番谷隊長以外に笑った気がする。
何十年ぶりになるんだろう?
「じゃあそろそろ昼ごはん行ってきぃ!まだやったやろ?」
市丸隊長はそういって手をひらひら振っていたのでお言葉に甘えて行ってくることにした。
それでは失礼します!そう言い、部屋を出て行った。
「ちゃん苛めた子、全員殺せたらええのになあ。」
出て行った扉の後姿を見つめて一人つぶやく。
一緒に虚園に行けたら良いのに。純粋に本気でそう思った。
早速お昼ごはんを食べに行こうと思い、隊舎を出ようとした瞬間扉が開いた。
「あ」
扉の先に居たのは日番谷隊長で、思わぬ訪問者に挙動不審になり「ど、どうしたの?」とどもってしまった。
「いや、お前に用があんだよ。っつーか何だよそのどもり方。なんか様子可笑しくねぇ?まぁいっか。」
あたしは尸魂界(ここ)を裏切ろうとしている。
そのやり取りがつい先ほどまで行われていたので、彼の顔を見るとやましいことがすべて見透かされそうで怖く、少しあせってしまい、その焦りが彼に少し伝わったのだろう。
それよりも、気まずくて仕方が無い。
さっきあたし告白してしまったんだっけ。
「で、本題だ。ごめん、。やっぱ友達以上には思えねぇ。俺今の恋人以外考えれねぇっつーか。」
頭を掻きながら申し訳なさそうにしていた。それを聞いてあたしは笑みを作り答える。
「ぜんぜん気にしてないって!じゃ、あたし今から用事あるんだよね。それじゃね!」
「え?あぁ、すまねぇな。」
あたしの素っ気無さに首をかしげている日番谷隊長の前から走り去った。
自然と、辛くはなかった。
これから先の希望のほうが、あたしにとっては輝いていたからだ。
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