都内の居酒屋の個室。
目の前に座ってる男とあたしと二人だけ、時間が止まった気がした。
あった瞬間なんて言葉さえ出なかった。え、まさか、嘘!それの繰り返し。
懐かしすぎて二人の空間だけ、ずいぶんとさかのぼってしまった気がする。
今何歳だったっけ?という錯覚さえ起こしそうになる。
本当にビックリした。
何年ぶりの再会?
この人が来るくらいならあたしは人生二度目となる合コンなんて来なかった。
友人に人数合わせで誘われてなんとなく着いてきてしまったのがもうアウトだ。
どうしてこんな羽目になるんだろ?
わかってる、あたしが馬鹿なんだ。
周りの男女はもうすっかり打ち解けて、メアド交換なんてしちゃってて。
なのになんだ?
右端に座ったあたしとそのテーブルを挟んだ向かいに座る男―――黒崎一護は、お互いをかなり意識している。
その意識をもし言葉にするならば、きまずい。ただそれだけである。
強引なキス
もう、9年ほど前のことだったと思う。
高校1年の、15歳。
たしか梅雨に入ったくらいだったけな?
都内の女子高に通う「彼氏居ない歴=年齢」のあたしを含む6人と、空座高校の男子6人のあたしにとって人生初めての合コンが都内のカラオケボックスで行われたのは。
合コンの初体験!その理由?
「、あんたも良い男見つけなよ!ってことで、合コン開きまあス!もちろんあんたも強制参加だからね!」
当時のクラスのム-ドメーカー的存在の達5人組があたしの将来を心配してくれてた。
あのころのあたしは未熟だったと思う。
空座には男前がいっぱいいて以前から目の保養にしていたし・・・だからといって誘われても、嫌なら、行く気なんて無いならどうにかしてでも逃げれてたはず。
「嫌って言っても連れて行くんでしょ!」と、嫌そうにしつつも興味を隠しきれず素直におとなしく着いていったあたしが悪かったのか、それとも正しかったのか・・・。
あのころのあたしとしては正解だったと思う。
噂は伊達じゃなく、合コンに来た空座の生徒6人は、本当に一瞬で見惚れるほど格好よかったんだから。
□□□
「はじめましてえ!あっさのけーごでえす!よろしくう!」
都内の某カラオケ店の一室。
長いテーブルが真ん中にあって6人ずつ座れるソファが左右におかれている。
あたしは一番端だ。なんとなく右端。やっぱり男なれなんてして無いあたしがこういうとこにくるのが間違ってると、改めて思った。
ど真ん中に座るぶっきらぼうだけど素敵な男子は黒崎一護君。そして順番に自己紹介がはじまり、テンションの高い子(浅野君)、黒髪のおとなしそうな子、巨大なハーフっぽい子、めがねのおとなしそうな子.そしてごりっごりの不良の大島君。
黒崎君は、女の子に興味が無いみたいなのかなあ?左肘、頬杖ついて軽く自己紹介をするだけだった。
良いな、黒崎君。背が高くて不良っぽいけど優しそうでたまに見せる笑顔がキュンとくる。
そんなこと思っているうちにどうやらあたしの自己紹介の番が来たようだ。
黒崎君が、皆がこっちを見た。それも笑顔で。さっきまで黒崎君良いな!なんて考えてたおかげで笑顔がものすごくぎこちない気がする。
「、です。」
緊張のあまり言葉が詰まってしまう。馬鹿だ!
「ひゅ〜!初々しいねえ!」「新鮮でいいじゃん!」と黄色い歓声が上がった。
ははっと愛想笑いだけしておくが友達もいっしょに盛り上がっていた。
ファーストインプレッション。つまり第一印象だけで言うともうおわかりのように、あたしは少しだけ、ほんのすこしだけ黒崎君に一目ぼれしたのである。ひゅう!遅めの春だよ、きっと。
皆、すごくかっこいい。けど、どういう根拠でとかはわから無いけど黒崎君に軽く恋をした。
あたしに選ぶ権利なんて到底無いけど、ちょっとだけ、黒崎君と付き合えたらなあって、不覚にも思ってしまったのだ。
でもそんなの絶対の絶対の絶対にありえない。
あたしなんて顔だって悪くもよくも無い。たち別嬪さんだから余計あたしは浮いてしまってるかなあ?
女友達と話すのは好きだけど喋りが上手いわけでも無い。成績だって良し悪しも無い。
背も体重も普通。
いわば、は、ごくごく普通の女子高に通う女の子、なのだ。
こんな普通の女が黒崎君のような、背が高くって、笑顔が素敵、かっこいい、きっとおモテになるであろう、不良君と、付き合えるはずなんてなかったのだ。
こうやって、合コンに来て一言でも交わせたのが、これが奇跡。
ごめんねちゃん、あたしには無理だ!
ふと、左から視線を感じた。ソファの中心に座ってきっとこれから合コンを盛り上げていくであろうちゃんからの視線。
言葉にしなくてもわかるんだよね、言いたいことが!
“誰でも良いから捕まえろ!”
そんなこと言われたって!
見なかったことにして視線を前方斜め下にもってく。いわゆる・・・うつむいた。
部屋に入るはじめにドリンクバーで入れてきたメロンソーダを口に含んだ。
炭酸がきつくって口の中で泡がシュワシュワと刺激してすこしだけ涙が出そうだ。
いつの間にか、質問たいむ!とやらに突入していてみんなの話に耳を傾けていた。
水色君は年上が好きらしいけど、なんで今日来たんだろう?
あたしの趣味、趣味なんだろ?
「ちゃんの趣味はなんですかー!」答えが出る前に浅野君に聞かれ考え込んでしまう。
「音楽、聴くくらいかなあ?あとは、皆で語ること?」
「え、まじ?音楽って何聴く?」少し黒崎君がちょっと話に食い入ってきた。コノ人も音楽好きなのかなあ。
「R&Bとか、って言っても洋楽わかんないから、日本のばっか、だけど。」黒崎君の目が輝いてたから、ちょっとビックリして言葉つまりかけた!
「まじまじ!?俺も俺も!洋楽さっぱりわかんなくて!」
思った以上に話が合うみたいで、更に周りの皆もあたし達の話をきいてるみたいで視線が・・・!
「え、え!?」とあたふたしてると「んー、じゃあまず席がえしよっか!」とちゃんが言った。きっと気を利かせてくれたんだろう!
「それいいね、適当に男女交互で座ったらいいと思う。」
それに乗った浅野君が立ち上がり水色君も賛成して、ちゃんたちも立ち上がった。
ギラギラ輝いた視線をあたしに送りニヤっと笑い、ちゃんは大島君の隣に行ってしまった。(えええ!)(やっぱちゃんはあーゆーのがタイプか!)
あたしはちゃんのほうずっとみてたら立ち上がるの忘れて結局移動できずにいた。出遅れた!
真横のソファが沈んだ感覚と、隣に置かれたコーラの入ったグラスの音ではっと我に返り横見てみると
「よっ!こっち来てみた。」と黒崎君が笑ってた。やっぱ、笑顔素敵だ。笑顔だけじゃなく、すべてが素敵だ。
さっきより近くなった距離にどきどきだ!グラスを持つ男の子らしい手も、緊張する!
「黒崎君は、誰がすきなの?」
「俺?おれは清水翔太とかHI-Dとか、加藤ミリヤとか!」
「ミリヤちゃん好き!」
「まじで!?俺女の中で一番好きなんだけど!」
黒崎君とは運命かもしれない!大げさかもしれないけど、今まで知り合った男の人の中で1番話しやすいかも。
気になってる人と趣味が一緒、つまり好きなものは一緒なんてこんなに嬉しいことは無いかも!
「あ、ドリンクバー・・・入れてくるね」
自分のグラスが空になったためそう伝え立ち上がった。黒崎君のグラスもついでに、と思ったけどコップの半分以上に残ってたし、まあ良いか。そう思い立ちあがった。
すると、ちょっと待って!と言いがしっとあたしの腕を掴んで自分のグラスに満タンはいってたコーラを一気飲みし俺のもなくなったから入れに行く!と着いてきた。
そんな無理についてくること無いのに、と思いつつも理由なくうれしかったのであたしも笑顔でうなずく。
変わらずメロンソーダお満タン注ぐ。誰も居ないドリンクバーのコーナー。二人きりなのでかなり緊張する。
「そうだ、今度さ、お勧めのCD貸そうか?」
隣でコーラを入れながら黒崎君がそういった。
「本当?!あたしまだ知らない人とか多いから、いっぱい聴いてみたいんだよね!」
あたしはまだまだ知らない人がたくさん居て、もっといっぱい知って行きたいって言うのも事実だ。それに、趣味を共有しあえるって言うのは嬉しいことだと思う!
じゃあ、アドレス交換しよーぜ!と、持ってる携帯を開いて行ってきたので、快くOKしてポケットから携帯を出して赤外線でつなぐ。あたしは受信側。
夢みたいだ!黒崎君とメアド交換!
届いたアドレスに、自分の名前、電話番号だけを載せて送信し、来たことを確認した彼はサンキュー!といって携帯を閉じた。
「じゃ、行こっか!」
置いてたグラスを持とうとしたら、そのときだった。
いきなりその手を掴まれて、振り向かされて、目が合って、ふわり、とブルガリの香水のにおいがして、黒崎君のキレイな顔がドアップ、で!それと同時に唇にやわらかいものが・・・!
キ、キスしてますか、もしかしてええ!?
状況把握すると思い切り黒崎君を突き飛ばしてちょっと驚いた様子の黒崎君に「さ、いあく!」とだけ言葉を残しあたしはもう帰ろうと、かばんを取りに部屋に戻った。
勢いよく部屋に入ってきたあたしをみてちゃんは「遅かったじゃーん」なんていってたけどそれを言い終える前に千円だけ置いて部屋を出た。!?なんて声も聞こえてきたけどもう気にしてられない。
黒崎君が帰ってくる前に、帰らないと、もう無理!
あたしにとって、それはファーストキスだった。
確かに黒崎君は良いなあって思ってたけど、これはさすがにない!いろいろ総合した結果これは無い!
ファーストキスくらい、もっと良いシュチュエーションでしたかったのに。
って言うかそれ以前に付き合っても無い子にする!?普通、強引に!
もしかして、黒崎君ああみえて女慣れしてるのかなあ・・・そんなこと考えてたら悲しくなってきたなあ・・・。
せっかくちゃん合コンセッティングしてくれたのに悪いことしちゃった。
まだ人生長いんだし、焦って見つけようとするからこんなことなったんだよね。
はあ、と小さくため息をつきどこにも寄らず家に帰ることにした。
でも、この日から始まっていったのだ。終わることなく、あたしと黒崎一護の関係は。
注文していたジントニックを一口のみ、チラっと顔を上げるとそこには記憶の中よりもいくらか大人びた彼がやっぱり気まずそうに座っていた。