今日はタケ達の誘いを断って、有る場所へ向かう予定だ。もちろんアポなし。
一度家に帰ると服を着替えた。
そこに行くにはやっぱり制服では追い払われてしまう。いまさら問題は・・・できるだけ起こしたくない。
少し化粧を普段より濃くして目的地に向かう。
「そこのお嬢ちゃん」
肩をたたかれ振り向くと、40後半くらいのおっさん。
少し急いでいるのに、わざわざ呼び止めるから何かと思った。
「お嬢ちゃん。目の色が変わってるねぇ!おじさん、そう言う子好きだよ。1回5万でどう?」
気やすく体を触るもんだから相手の股間を蹴ってやった。
こういうことには慣れている。声をかけられるのは、珍しくないから。
「急いでるんだから邪魔しないで」
そう言い捨て
うずくまってるおっさんをそのままにしてその場を離れた。
行く途中に、缶コーヒーを2個かった。
今日は誰かに何かを買ってあげるということが多いような気がする。
ま、いっか。
たしか、あいつは名前がオシャレな怪しいバーで働いてたと思う。
記憶をたどって前に進む。
一度、奴の後ろをつけて確認済みだ。
少しも迷うことなくたどり着く。
記憶力が結構良い方なあたしは、我ながらすごい!と自画自賛してみる。
とりあえず、表から入るのもなんなので
裏口にまわってあいつがでてくるのを待った。
10分くらい待っても出てこない。
そりゃあそうか。まだ7時回ったくらいだもんね。
もっと暖かい格好で来れば良かった、といまさら後悔して
さっき買ったコーヒーを握り締めてしゃがみこむ。
ため息が白く、余計寒くなった気がした。
何時あがりかさりげなく聞いとけばよかった。
どうしよう、4時間とか待たされたら。
凍死体で明日発見されるかも。
またため息ついた。
手の中の缶コーヒーは少し冷めてきた。
□□□
(まだ!?本当、凍死体なるって!)
しゃがみこんで1時間くらい経った気がする。
もうちょっと待ってみよう、もうちょっとだけ。
さっき買った缶コーヒーは、握っても手に冷たさしか伝わってこなかった。
そんなとき、横から扉が開く音がしたので、条件反射でそっちを向くと
自然と声が出た。
「「あっ・・」」
しかも、二人の声が重なった。
あたしはつい笑顔になって立ち上がる。
待ってたのは、間違いなくこいつだ。
「久しぶり、竜、」
あたしが待ってた相手は――小田切 竜。
竜は、仕事の制服ではなく、私服で出てきた。
「こんなとこで何してんの。早く帰れよ」
と、冷たく言い放つが本心でないことくらいわかる。
だから、お構いなしに笑顔で
「誰のために来たと思ってんの。仕事おわったんでしょ?
少し話そう。もちろん強制ね。」
って言って、先程買った缶コーヒーを竜に投げた。
缶コーヒーを受け取った竜はあたしに「どうせならホットにしろよ。」と言う。
だから、あたしは少し嫌味まじりでいってやった。
「それ元々はホット。どっかの誰かが待たせるから冷えたの。」
「・・・家まで送るよ。」
あたしの家の前まできたあたし達
「やっぱ、本当のこと言ったほうがいいんじゃない?」
そう言う。
本当のことっていうのは、
まぁ、今、竜は,隼人達と今喧嘩してる。困ったことに絶縁状態。
それもこれも、全部タケのためにやったんだけど。
荒高とやりあう羽目になったときに,タケが恐がっちゃって.
それで、竜が黙って一人で頭下げに行ってくれたっていう。
それで、事情を知らない隼人が・・・キレた!
隼人と竜が喧嘩して。
竜はもう学校こなくなっちゃった・・・。
朝きたら二人の殴り合いが目に飛び込んできて
必死で止めようとしたけど、絶交と言う形で終わってしまった。
あたしは皆が好きなのになぁ。
相変わらず竜は
別にいい。俺はもう学校いかねぇし、と言い続けている。
「馬鹿。竜は自分のことしか考えてないじゃん。
タケの気持ちはどうなの?
・・・タケは竜のことめちゃくちゃ心配してるし、俺のせいだって言ってる。
あたしだってタケの横にあの時一緒に居たんだから、なんで止めなかったのかって
責任くらい感じてんのよ。」
と伝えた。
じゃあ竜はあたしの髪を くしゃくしゃにして言った。
「おまえもタケも関係ないよ。悪かったな。」
「悪いと思うなら学校来てよ」
「考えとく。じゃあ。」
そういって、あたしに背を向けて帰っていこうとする。
話はまだ終わってない!
「竜・・・!」
竜を呼び止めると無言で振り返った。
「あたしは、6人がいい。一人かけるなんて、いや。
せっかくの仲間は、大事にしてほしい。いくらもめても。
すぐに仲直りできるから、絶対したほうが良い!
だから、だから、」
あたしみたいにならないで、
そういおうとしたけど、言葉にできなかった。
続きをいおうとしないあたしに首をかしげる竜。
「いや、なんでもない!」
苦笑いしかできなくて、情けない。
「じゃ、学校で・・・待ってるから。」
そういって、見送った。
こんな形で、竜は仲間を捨てないでほしい。
あきらめないでほしい。
あきらめたときの、失ったときの気持ちは。
想像を絶するくらい悲しい、寂しい、つらい。
なんだか、テンションががた落ちしてしまい
あたしは、竜には学校に来いと言ったくせに
明日は学校を休もうと決意した。
一日だけ、一日だけでいいから、休ませてもう。
□□□
「明後日いよいよ卒業だねぇ!」
嬉しさの余りに飛び跳ねた。
「おれら卒業しても、暇作るからまた遊びにいこうな!」
ってうっちーが言ってくれた。
うっちーは、あたしをいつも妹みたいに可愛がってくれた.
「もちろん!うっちー達もいつでも家きてねっ!」
って言うと,まかせろって笑顔で頭をなでてくれた.
「俺たち居なくなって淋しいからって泣くなよ?」
と野田が頭をなでてくれたのも覚えてる。
「あはは!野田の一人や二人居なくても大丈夫!ヤンクミ居るしね☆」
野田達が卒業するのは、やっぱ悲しいけど、ヤンクミが居てくれるんだもん。
「・・ヤンクミ。のことよろしくな」
「また3年なったらよろしくね!」
慎があたしの頭に手を乗せてお辞儀させるようにして自分も頭を下げた。
「まかせとけ!!よし、最後にみんなで走るぞぉ!!」
ヤンクミらしい締めで今日も終った。
毎日が楽しくて仕方なかった。
卒業式のときは、あたしは泣きまくった。
皆離れて行っちゃう。
・・・気が付くと新3Dの教室に居た。
周りには知らない人。
教室の中心であたしが一人ぽつんと立っていた。
じいつのまにか前で喋ってる担任は、ヤンクミじゃなかった。
ヤンクミはいなかった。
「バイバイ」
みんながあたしにそういう。
追いかけてもとまってはくれない。
いや、違う。
あたしが離れて行ってる。
「ま、待ってよみんな!」
追いかけようと、戻ろうと必死に走っていると
荒校の奴が囲む。
すぐにぶっ飛ばして、小さくなっていくヤンクミたちのほうへ
戻ろうと、やっぱり必死で走ってみるけど
行き着いた先は職員室。
理事長の隣に立つ猿渡に退学と言われた瞬間、あたしは暗闇に落ちた。
ちょっと、待ってよ!!!!
「待ってってば・・・!!?」
あまりにも現実的すぎる夢を。
しかもかなり思い出したくない思い出を思い出し朝から最悪な気分になる。
しかも猿渡に、退学だって言われる場面で目がさめた。
先生なんか。
最終的にはあたしを一人にして行くんだ
勢いで、みんなが笑顔で写ってる写真を破りゴミ箱へ投げ込んだ。
未練なんかもう無い・・・ハズ。
白金の皆なんか大嫌い・・・なハズ。
ヤンクミなんか大嫌い・・・は・・ハズ。
しっかりと、大嫌いと言えないのは
自分の中で納得がいってないからだと思う。
休んだあの日から、結局3日ほど学校を休んでしまった。
竜と会ったあの夜からずっとこの夢を見ている。
いい加減にしてよ、本当に。
おかげで、ネガティブになって、隼人たちもあたしを置いていくんじゃないか
とか考えてしまって、怖くって学校に行けなかった。
黒銀の子達はあたしを裏切るような奴じゃないって事はわかってるけど・・。
なんかまた前みたいな感情になるのも恐いから,落ち着くまで休もう、と、強引な理由をつけては逃げてしまってた。
ぼーっと考え事してたら。タケ専用の着メロが鳴った。
「はいはい〜」
『〜?なんで最近学校こねぇの?』
「ちょっとサボりかな。」
と言っておいた。
本当は、違う。
「おいていかれるのは怖いから、行きづらい」
なんていったら、本当においていかれそう。
電話は、タケから隼人に代わり
『ってか、前の担任この前俺等がやっつけたから来いよ』
と隼人が自慢そうに言う。
それは自慢になるのか何なのか・・・。
とりあえず
「あたしもやりたかったなぁ・・・先生やっつけごっこ」
冗談で笑って言うと
『おまえそれシャレになんねェ!!』
とか
『お前がやったら死んじゃうよ』
とか笑い声が聞こえてきた。
ニート時代に、不良の間で名を轟かせてきたことがあるから、あたしの喧嘩の強さは皆知っている。
いつもと変わらない、皆の雰囲気にホッとする。
バカなことを考えてたのは、あたしだけだ。皆変わってない。
黒銀の3Dに来た頃は、笑いもしなかったし、ずっと無表情だった。
”仲間なんかつくるか”と、思い続けてた。
離れて行く皆を見るのも。バカなこと考える自分も。素直になれない自分も。
もう嫌だったから。
隼人たちと仲良くなったのも・・・少し時間がかかった気がする。
最初は、ものすごく仲悪かった。
『でさ、新しいセンコウガ来たんだよね〜』
あたしが休んでる間にビッグサプライズだ。
明日は絶対学校に行ってやる、と決めた。
「まじで?新しい先生ってどんなの??」
『女なんだよ!!最悪じゃね?!ジャージ姿で色気もねェ!!』
ジャージか・・ヤンクミ思いだしちゃうよね。
「明日行くね。学校」
とりあえずそう伝えて電話を切る。
少なくとも、新しかろうが古かろうが。
先生なんて、信じない。
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